報酬制度における「昇給」について、ルールが必要です。
基本となる3つのパターンと考え方について説明します。
評価昇給
1つ目は、評価昇給です。
評価昇給は、評価結果に基づき、昇給額が決まります。
対象者は、期末評価の評価対象者です。
よく質問されたり、勘違いが起きるポイントは、報酬レンジの上限を超えて昇給することはない、ということ。
3等級の報酬レンジの上限が600万の場合、評価昇給で600万以上に年収が上がることはありません。
報酬レンジの上限を設定している目的を考えると当然といえるかもしれませんが、「入社時のオファー金額の上限だと思っており、昇給とは別だと思っていた」という声が出ます。
特に、入社時の年収が報酬レンジの上限に位置づいている場合、昇格しない限り(等級が上がらない限り)、昇給しない、つまり年収も上がらないということを説明し、相手に確実に理解していただくことが重要です。
- 被評価者「なんで自分は昇給しない?」
- 評価者「報酬レンジの上限なので」
- 被評価者「知らなかった…」
というコミュニケーションにならないように注意しましょう。
昇格昇給
2つ目は、昇格昇給です。
昇格昇給は、昇格者が対象です。
昇給額は、昇格前の年収水準と報酬レンジに基づきます。
例えば3等級から4等級への昇格が決まった場合、4等級の報酬レンジの下限まで昇給します。
4等級の報酬レンジの下限が500万で、昇格前の年収水準が400万の場合、昇給額は100万です。
昇格前の年収水準が300万だったら、昇給額は200万。
一方、昇格前の年収水準が500万の場合、そのまま年収はスライドし、昇給額は0です。
質問が集中するポイントは2つ。
昇格前の年収水準が昇格後の報酬レンジの下限を超えている場合、昇格したら報酬レンジの下限まで下がるのか?
いえ、下がりません。
3等級で600万だった昇格者が、4等級になったら下限の500万にダウンすることはありません。
こういうルールと捉えてください。(このルールで納得しない人は、おそらくいないので)
もう1つは、昇格昇給する年収は、評価昇給する前の金額、もしくは評価昇給した後の金額のどちら?という質問。
自分の推奨する制度は、評価昇給した後の金額を昇格昇給につなげます。
要するに、まず評価昇給を実施して、その年収を昇格後の報酬レンジにスライドさせます。
理由は、評価昇給はあくまでも昇格前の期待水準で目標設定をして残した成果、または日々の行動・貢献ゆえ、昇格前の報酬レンジの中で昇給させることが妥当だと考えています。
1つ目の質問は「こういうもの」という説明で納得してもらえますが、2つ目は理由をきちんと説明しないと昇格の機会はそう多くないので忘れてしまい、何度も同じ質問が繰り返されることになりがち。
理由を事前に説明しておきましょう。
特別昇給
最後の3つ目は、特別昇給です。
これも昇格昇給と同じく、昇格者が対象です。
特別昇給は、昇格者の評価昇給+昇格昇給の後の年収水準について、特別な調整が必要と判断した場合に実施する昇給です。
昇格者本人の実績や貢献度、直近の採用状況や採用市場の動向、外部報酬水準、同等級の他のメンバーの年収水準等を、総合的に検討して特別昇給の有無、金額を決定します。
実際には、昇格前の年収水準が昇格後の報酬レンジ下限を上回っており、昇格昇給が0の場合、昇格したけど、昇給0は寂しい・説明しにくい・モチベーションが上がらない等の理由で、特別昇給が提案されることもしばしばあります。
先に伝えておくと、この特別昇給は、かなりファジーな領域です。
特別昇給は、いくら以上とか、いくら未満とかのルールはありません。
一律、年収で●万アップというルールも無し。
特別昇給を提案する評価者は、迷ってしまい、「いくら上げればいいか分からない」「特別昇給どうしようか悩む」「特別昇給は0(ゼロ)でもOKですか?」といった声が出たりします。
また「特別昇給は月額で3万アップとか、ルールを決めてしまってもいいのでは?」といった意見も出ます。
過去に「昇格者は、評価昇給と昇格昇給を合計して、最低でも年収60万(月額5万)の昇給を実施する」という特別昇給のルールを設計・運用したことがありますが、「特別昇給の必要性がない昇格者まで一律で昇給させないといけない」という問題が起き、制度変更(廃止)したことがありました。
確かに、入社時の年収が高い状態で昇格したケースや同じ等級に長く滞留しているケースだと、昇格によってやっと年収と貢献が合致したという背景があり、一律ルールは年収を決定する評価者にはわかりやすく、運用が楽なのですが、社内外(特に社外)の報酬水準を踏まえた適正報酬の決定という本質とは反するルールなのかもしれない、と強く感じたことがあります。。
よって、人事にて社外の報酬データや採用から得られる報酬データを取りまとめ、その情報を参考に評価者に報酬決定していただくようにします。
このプロセスや考え方は、評価者に任命されたタイミングで、評価者研修などのマネージャーオンボーディング施策を通じてレクチャしておくことをオススメします。
報酬決定は、評価者(マネージャー)の役割であり、重責の1つです。