報酬レンジ(1) の続きです。
職種別の報酬レンジ
人事制度を初めて導入するスタートアップの報酬レンジで「職種別に設計するか否か」は、判断が分かれます。
ただし、昨今のスタートアップの盛り上がりを考えると、職種別に設計した方が採用競争力の観点から効果的であることは明らかです。
報酬レンジを高めに設定する職種の根拠は、希少性です。企業側の需要に対して、人材供給が追い付かない。こういう職種は、人材獲得競争が繰り広げられます。その結果、報酬水準が上がっていきます。代表的な職種は、エンジニアですね。
職種で報酬レンジが異なるのは、決してその職種が「他職種よりもエライ」という話ではなく、採用を効率的・効果的に進めるため、という話です。限られたリソース(お金)を最適に配分するため、人材市場の「希少性」を考慮した施策になります。
「希少なモノは価値が高まる」とは理解できても、それが「人」と「お金(報酬)」に紐づくと関係者の納得感を得ることは急に難しくなります。論理ではなく、感情で受け取られるのが「お金(報酬)」であると感じる瞬間です。
全社で納得感をつくることが難しいテーマだからこそ、改めて企業が目指す Vision や実現したい Mission のための取り組みであることを力強く発信していくことが求められます。
報酬レンジを変更するタイミング
報酬レンジ(1) にも「半期ごとに報酬レンジは見直す前提で」と書きました。
具体的に報酬レンジの変更が提案されるタイミングについて考えます。
①採用活動を通じて報酬情報が集まる
採用にアクセルを踏むと様々な報酬情報が入ってきます。「あの会社は、こんなに報酬が高いのか」と知ります。
この情報が続くと「自社の報酬水準ももっと競争力を上げないと」と危機意識を持つようになります。
早い会社はこのタイミングで、報酬レンジの一部(主に上位等級)を変更します。
②欲しい人が採用できなかった
どうしても欲しいポジションの人材を採用できないことが起きます。これは大きなキッカケになります。
採用に負けたポジション(職種、等級、役職など)から、変更する部分を特定し、こうであれば採用できていた、という報酬レンジにアップデートされます。
③人が辞める
既存社員が辞めるタイミングでも、自社の報酬レンジを振り返るキッカケとなります。
辞めてほしくなかった社員が、比較的報酬水準の高い会社に転職すると、自社の報酬レンジの競争力を改めて議論する機会となります。
④支払い能力が上がったタイミング
最後に報酬の支払い能力が上がったタイミング、主に業績向上と資金調達のタイミングです。
報酬レンジを変更する方法
基本的に報酬レンジの下限と上限を、必要な箇所だけ変更(調整)します。
例えば、採用で負けが続く等級の上限を上げて、オファー額の競争力を高めたりします。
報酬レンジの下限を上げる場合、報酬レンジの下限を下回る社員は自動昇給になります。会社の報酬レンジが上がることで、人事評価に関係なく、昇給するという「報酬レンジの移行措置」です。
年収550万のAさんがいたとして、該当する報酬レンジの下限を500万から600万に変更した場合、Aさんの年収は600万となります。「報酬レンジの移行措置」によって50万が自動昇給します。
一方、もともと600万だったBさんがいた場合、「報酬レンジの移行措置」によって昇給することはありません。報酬レンジの変更であり、ベースアップではない、という認識合わせは丁寧に行いましょう。
※報酬レンジを変更した際、「既存社員の報酬水準が比較的、新しく入社した社員の報酬水準に比べて低くなっているのは?」という課題が提起されることがあります。その場合、全社員の報酬をチェックして、必要に応じて「特別昇給」を実施することもあります。詳しくはこちらに「入社時期の違いによる給与差をどう調整する?」
報酬サーベイ
最後に、報酬サーベイについて補足します。
最近、クライアント先で報酬サーベイを活用する機会が増えてきました。
皆さん活用しているのは、Mercer 社の「総報酬サーベイ」です。
(※自分は社外の人間なので、Mercer 社のデータに触れることはありません)
様々な機関から公表されている報酬サーベイデータがありますが、スタートアップに特化した情報はありません。
スタートアップは組織規模では中小企業に分類されますが、採用競争は大企業・メガベンチャーとガチンコです。そのため、基本は大企業・メガベンチャーの報酬水準を参考にするのが良さそうです。