日頃からお世話になっている「労政時報」。
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その中でも「人事制度事例シリーズ」は、様々な企業の人事制度を詳しく知ることができ、人事制度のトレンドや制度改定の背景を把握する上での貴重な情報源です。
読むと前職で扱っていた大規模組織の人事制度改定プロジェクトを思い出します。
最近の人事制度のトレンドと言えば、ジョブ型。
人事領域からアプローチするコンサルタントの仕事をしていると、一定の周期でこのトレンドが来ることを感じます。
人事制度事例シリーズで紹介されていた住友商事(労政時報 第4030号)も、日本電産(労政時報 第4033号)も、明確に「職務等級制度の導入」とあり、いわゆるジョブ型へ制度改定したようです。
※どちらも労政時報の有料版で閲覧できます。
しかし、今回自分が注目したのは、ジョブ型(主に等級制度と報酬制度)でなく、評価制度の部分。
両社の評価制度の違いが目立っており、印象に残りました。
スタートアップで初めて人事制度を設計・運用する場面でも役立ちそうだと思ったので、自分なりの視点でまとめてみました。
以下の事例内容は、『労政時報 第4030号』と『労政時報 第4033号』を参照しています。
両社の主な違い
そもそも事業が異なる両社の評価制度が違っていることは当然ですが、大企業・ジョブ型の導入という共通項がありながら、評価制度が大きく違っている点が参考になります。
まず両社の新人事制度における評価制度の主な違いを見てみましょう。
(違いの部分のみピックアップしました)
評価制度 | 住友商事 | 日本電産 |
構成 | 職務遂行度評価 目標達成度評価 | 業績評価と行動評価を一本化した評価 |
評価 サイクル | 年1回 (半期の中間レビューを廃止) | 四半期に1回 (改定前は半期に1回) |
相対評価・ 絶対評価 | 絶対評価 (改定前は相対評価) | 相対評価 (改定前は絶対評価) |
※労政時報を参考に作成
住友商事は、2つの評価で構成され、年1回、絶対評価で評価します。
背景を簡単に説明すると、形式的な評価ではなく、リアルタイムのコミュニケーションやフィードバックを促し、他者との比較ではなく基準に基づく評価で納得感を高める、といったところでしょうか。
1on1等のコミュニケーションカルチャーが肝になりそうです。
一方、日本電産は1つの評価を、四半期で相対評価します。
グローバルの競争環境で、スピードと成果を強く意識した制度改定の背景を読み取りました。
興味深いのは、四半期評価を回すオペレーションのレベルと、やはり相対評価の納得感。
相対評価は、ビジネスや評価等の前提がそもそも他者・他社との競争である、という正論に基づけば当然なのかもしれないが、論理だけでは感情面の納得感は得られないもの。
この納得感のつくり方に関する知見は、個人的に最も興味深い領域です。
(参考:相対評価・絶対評価とは?)
ちなみに報酬への反映は2回分の四半期評価を平均化した評価を半期の賞与へ、4回分の四半期評価を平均化した評価を通期の昇給に反映させています。
どちらが正しいという部類のものではなく、各社各様の制度が、どのような背景で落とし込まれていくのか、が参考になります。
同じジョブ型の制度でありながら評価制度がここまで違うと、社員にとってジョブ型の人事制度の印象は大きく違ってくるのかな、と思いました。
スタートアップの型を振り返る
自分が考えるスタートアップの評価制度では
- 四半期に1回の中間評価
- 半期に1回の期末評価(最終評価)
- 評価基準の理解や納得感の醸成を促す絶対評価
が、基本の型です。
スタートアップは急成長が期待されるゆえ、スピード重視。
四半期ごとに振り返りとフィードバックは実施したい一方、四半期での最終評価は運用負担が大きいこと、環境変化が激しく目標設定が難しいことを考えると、現実的に制度を回す自信がありません。
中間評価で振り返り、公式なフィードバックを使って軌道修正を柔軟かつ強めにできるようにする制度が基本形となりました。
また、過去に相対評価でかなり痛い目にあった経験もあり、基本は絶対評価です。
全員が会社の期待値を超えるぐらいの「勢い」が、スタートアップには必要です。
200%、300%の事業成長のもと、全員が最高評価を取る。
相対評価では実現できません。
こういう勢い、もしくはノリが制度に欲しいと考えています。
もちろん軽いノリではなく、真剣なノリです。
【補足】報酬改定は、年1回
評価制度以外で改めて気づいた点は、報酬改定はどちらも年1回ということ。
報酬の下方硬直性やオペレーションの負担を考えると、自分がスタートアップで設計するような年2回はどこかで変更しなければならないのかも。
(参考:評価昇給ってどうやる?)