人事制度事例【7】NTT、相対評価から”絶対評価”への改定に本気度を感じた

労務行政研究所の『労政時報(第4117号、2026年4月10日発行)』にて、興味深い事例がありました。

「昇進・昇格基準の見直しと優秀人材の早期抜擢事例」と題し、3社の事例が掲載されています。

そのうちの1社、NTT社の事例について分析メモを残します。

 

なお、「昇進・昇格基準」や「早期抜擢」とありますが、人事制度(等級・評価・報酬)に関する情報が豊富で、日本の大企業の現在地を知る上で、とても参考になりました。

 

事例サマリ

そもそも今回の抜本的な人事制度改定は、「20年ぶり」とのことです。

マイナーチェンジはあったものの、モデルチェンジに20年にかかっているということ。

これがまず大企業の現在地として把握しておくべく時間軸だと思います。

 

等級制度

2021年に管理職の人事制度をジョブ型に改定しました。

そして、2023年に一般社員の人事制度を改定。

今回、労政時報に掲載された事例は、この一般社員の人事制度改定についてです。

一般社員の人事制度では、ジョブ型ではなく、成長期間という前提でメンバーシップ型の要素を残した人事制度となっています。

 

管理職=6段階、一般社員=6段階の合計「12段階」の等級制度です。

管理職と並列する形で「スペシャリストキャリア」が設けられ、こちらは2段階で設計されています。

 

等級要件は、「行動」と「専門性」の2項目で構成。

注目すべきは、職種の定義として「18の専門分野」が整理・定義されていること。

スタートアップでも、この18分野は参考になるのではないでしょうか。

 

  1. セールス・SE
  2. マーケティング
  3. サービス・プロダクト開発
  4. 開発エンジニア
  5. WEB/UI/UXデザイナー
  6. コンサルティング
  7. プロジェクトマネジメント
  8. ITアーキテクト
  9. ITスペシャリスト
  10. データサイエンティスト
  11. セキュリティエンジニア
  12. インフラエンジニア
  13. 財務
  14. 総務・人事
  15. 法務
  16. 不動産・建築
  17. スマートエネルギー
  18. 研究開発

 

これまでのゼネラリスト育成から、専門人材の育成にシフトできるように人事制度を改定し、配置・異動についても方針を転換するとのことです。

 

今回の制度改定に肝になっているのは、「最短在級年数の廃止」です。

要するに「脱年次・脱年功」の要素であり、昇格・昇進における年齢の縛りを廃止したということ。

以前は「課長」には、最短で「36歳」と決まっていたようです。

この年齢の縛りが完全になくなったかどうかはわかりませんが、脱年功として以前よりも昇格ペースは早まっているようです。

 

 

評価制度

評価制度では、注目すべき改定が行われています。

 

① 相対評価から絶対評価

② 人事評価は年2回から年1回

 

思い切った改定だと思います。

どういう議論がなされたのか、反対意見に対してどう向き合ってきたのか、とても興味深く、自分なりに仮説を巡らせています。

 

相対評価は、人件費のコントロール可能性を高めることができる一方、被評価者に対する評価結果の説明責任が構造的に果たしにくくなります。

絶対評価に変わることで、人件費のコントロール可能性をどう担保するのか、また被評価者に説明責任を果たすためのスキルアップをどう施すのか、気になりました。

 

本質的なところでは、専門人材を育成する方向性として「絶対評価」は有効だと思います。

社内における特殊能力を育成するゼネラリスト育成の文脈では、社内のランキングで評価が決まる相対評価はある意味合理的ですが、専門性を社内ではなく、社外(市場)の観点で見極めるためには、評価基準に基づく絶対評価が必須です。

自分がスタートアップで制度設計をする際も相対評価ではなく、絶対評価を推奨しています。

人件費のコントロール可能性は、運用プロセスや報酬制度を通じて強化していく必要はありますが、評価は絶対評価で”あるべき”だという思想を抱いています。

 

次に年1回の評価。

記事からは背景の部分が読み取れませんでしたが、大きな改定です。

具体的には、「業績評価」と「行動評価」の2軸で年1回の評価。

事業年度(4-3月)に合わせて、4月ごろに評価を行っているようです(記事内の図から推測)。

その結果を、6月に昇給、10月に昇格へと反映させます。

 

現実的な運用として、10月に昇格反映した場合、等級が変わることで目標設定はどうなるのか、気になりました。

10-3月までの半年があるので、期中ではありますが、目標の再設定が行われるように運用していると推測しました。

 

業績評価は目標設定型(100%のウエイト設定有)で5段階の尺度、行動評価は等級ごとに定義された求められる行動レベルを参考に期初に目標設定し、3段階の尺度で評価します。

行動評価に目標設定を実装している点は注目ポイントです。

 

▼業績評価の尺度

  • Ex(Extraordinary)求められる目標を著しく上回り達成した
  • E(Exceeded Expectations)求められる目標を大きく上回り達成した
  • M(Met Expectations)求められる目標を達成した
  • P(Partially met Expectations)求められる目標を下回った
  • U(Under Expectations)求められる目標を大きく下回った

 

▼行動評価の尺度

  • A(Advanced)上位グレードでも通用する行動を発揮した
  • S(Standard)当該グレードに求められる行動を発揮した
  • F(Fail)当該グレードに求められる行動を発揮できなかった

 

考察

ドラスティックな制度改定です。

特に、相対評価から絶対評価への改定

本来論として、評価と報酬は切り分けて考えるべきで、人件費のコントロール可能性を高めるがゆえに相対評価を導入することは筋の悪い打ち手です。

評価は、他者との相対が決めるものではなく、相対的な要素も考慮して、上長である評価者が判断すべきものです。

その評価の結果をどう報酬に反映させるか、は別で設計すべき領域と考えています。

 

大企業として強い影響力を持つであろうNTTが相対評価を廃止して、絶対評価に振り切ったことは、日本の人事制度に一石を投じる可能性を感じました。

運用の難易度は上がりますが、運用しながらチューニングしていき、試行錯誤の過程も発信してもらいたいです。

 

次に、行動評価について気になる解説がありました。

行動評価は”ネガティブチェック”(基準を満たしていない場合を確認する)の側面が強く、評価運用の負担軽減のため、シンプルな仕組みとしている。

 

目標設定型の行動評価に「ネガティブチェック」、「負担軽減」、「シンプルな仕組み」が当てはまるのだろうか。

自分としてはとても疑問を感じた制度設計。

目標設定するのは、そもそも負担が大きく、目線合わせも必要なシンプルでない仕組みのように感じます。

行動レベルを示したので「あとは現場でよろしく」になりがち。

現場としては1年間を見据えた行動目標は長すぎやしないだろうか。

行動目標をネガティブチェックに使うというのは、本当に現場の評価者が求めているのだろうか。

ゼネラリスト育成から専門人材育成に振り切る中で、そもそも手間をかけてネガティブチェックする必要があるのだろうか。

 

最後に、1つ。

等級制度にて、スペシャリストキャリアの解説がなされていました。

一般社員の等級、6段階のどこからでもスペシャリストキャリアに昇格できるということです。

同時に、スペシャリストキャリアから一般社員への降格もあり得るということ。

専門性に応じて実力主義、抜擢が行われる制度であることがわかります。

 

一方、管理職であるマネジメントキャリアについて、一般社員への「降格」がありません

なぜ、管理職から一般社員への降格はないのでしょうか。

マネジメントとしての成果が残せない場合、一般社員になることはおかしい話ではないと思います。

スペシャリストキャリアでは、一般社員への降格があるのに、なぜマネジメントキャリアではないのか。

自分なりに色々と理由を考えているのですが、思いつきません。

会社の事情というか、合理的でない、本質的でない理由によって、降格が行われていないとすると、その時点で制度への信頼性が毀損されてしまうように感じます。

 

降格の仕組みがないと、チャレンジングな抜擢もしにくいはず。

一度昇進したら、戻れないマネジメントキャリアというのも、やや恐怖かも。

管理職になりたいと思わない会社員が増えている背景に、こうした硬直的なマネジメントキャリア観も影響しているように感じました。

 

気軽にチャレンジするものではありませんが、フィットしなかった場合に別のキャリア、仕事、活躍の場を選択できる機会はあるべきだと思います。

オプションバリューを削り取る制度設計は、早く止めた方がいいと思います。

どうもこうした制度に社員を子ども扱いしているような感覚を覚えてしまい、反逆精神が沸々と沸き起こってきてしまうのが、自分の悪い癖です。

 

さておき、話を戻すと、何といっても絶対評価へのシフトチェンジ。

これです。

この結果を振り返り、日本企業に良い影響を与えていってほしいと切に願っています。

 

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