積み上げ式で昇給する場合の5つの方法

月給30万円の方が、3%昇給すると9000円が積み上がり、309,000円となります。

この昇給を、どのようなルールで実施するのか。

報酬制度の設計領域です。

これまで見てきた昇給の形を、5つに整理しました。

 

(1) 個別に決める(鉛筆をなめる)

主に人事制度がない会社では、昇給を個別対応で決めているケースが多いです。

年に1回もしくは2回と時期を決めて全社員の報酬水準を確認する機会を設けているケースもあれば、気づいたときや社員から報酬水準に関する意見が挙がったときに都度昇給を検討するケースもあります。

その方の活躍や成長、責任度合い、離職の可能性、好き嫌いなどを議論して、昇給を判断します。

昇給する額についても感覚で決定されます。

論理的に議論が進まず、整合性のない判断も多々出てくるため、関係者はストレスを感じて、人事制度の必要性を感じるようになります。

また、社員自らが声を挙げて昇給を勝ち取った場合、その実績は噂話として社内に流布し、「自分もアピールしないと損かも」という人間らしい損得勘定が組織内に醸成されます。

 

(2) 人事評価に基づいて昇給する

評価制度を導入している会社であれば、評価結果、例えばSABCDのような記号に昇給を紐づけて自動的に昇給を実施しています。

S評価なら10%の昇給、B評価なら2%の昇給というように、評価によって昇給が決まるため、個別に議論する必要はありません。

ただし、制度上は人事評価に基づいて昇給するとなっていても、評価制度がうまく機能していなかったり、経営陣が評価制度を軽く扱ってしまうケースだと、ルールを無視して個別対応してしまうケースもわりにあります。

「制度はあるんですが、、、」と人事担当者が申し訳なさそうに話す姿を何度も見たことがあります。

また、評価制度はあるものの意図的に昇給とは接続させずに、個人の活躍や成長を見て個別に決めているパターンもあります。

評価は1つの参考情報として、あくまでも報酬は市場価値ベースで決めるとする場合、市場価値に照らして昇給を実施します。

言わんとしていることはわかるのですが、市場価値という概念を社員側から理解するのは、情報の非対称性があるため難しく、考え方は理解できても、報酬(昇給)に納得感が欠けることがあります。

 

(3) 昇格に基づく昇給

等級制度を運用している場合、等級(グレード)が上がる昇格のタイミングで昇給を実施しています。

報酬レンジが設計・導入されていれば、レンジの下限を使って昇給します。

つまり、現在の報酬水準から昇格後の等級の下限値までジャンプアップする昇格昇給です。

ただし、報酬レンジが上位等級と下位等級で重複している場合、ジャンプアップの昇給はなく、横スライドするのみです。

「昇格したけど昇給はないのは説明しにくい」というマネージャーの声はよく出ます。

そのため、昇格した場合は改めてその等級で入社する想定でオファー金額を設定し、報酬水準を決めるケースもあります。

直近の入社者や内定者、採用市場の動向を踏まえて、報酬決定します。

または、昇格した場合、一律で昇給率を決めておき、運用するケースもあります。

例えば、「昇格したら原則、5%は昇給する」といったルールです。

もしこうしたルールを運用する場合、内規として取り扱うことをお勧めします。

内規とは、全社員には説明(共有)せず、経営と人事と評価者のみで共有する形です。

理由が、5%昇給させる必要がないケースもある、です。

というのも、入社時の報酬水準が高く、昇格したことで報酬水準がやっと追いついたという場合があるからです。

そこから5%も昇給してしまうと、他者とのバランスが崩れたり、本人に意図していないメッセージが伝わってしまう懸念もあり、あくまでも「原則」としての内規で運用することをお勧めしています。

 

(4) 全社成果に応じて一律で昇給させる

以前、Not a Hotel社の事例で紹介した全社成果昇給です。

 

全社の成果目標として、業績や採用、開発進捗など様々な目標を設定し、その目標をクリアしたら、全社員に一律で昇給を実施するという制度です。

この制度のメリットは、報酬決定の運用負担軽減です。

個人別に人事評価をして昇給額を決める負担がなくなり、全社成果という分かりやすい指標と水準に応じて一律で昇給を実行できるため、制度運用の負担を大きく減らすことができます。

ポイントは、評価制度による昇給を実施しない一方で、等級制度は導入して昇格に基づく昇給は実施する点です。

昇格は頻繁に起きる人事イベントではないため、昇格時にガツンと報酬を上げることで、個人の活躍や成長を報酬に反映することができます。

全社成果でコツコツと定期昇給し、昇格によってガツンと昇給するため、社員への期待値コントロールもやりやすいというメリットがあります。

一方で、評価制度がないため、短期的な個人目標の設定は実施しません。

そのため、目標管理のマネジメント制度がなく、マネージャーもメンバーも高いスキルと自立性が求められます。

比較的、ハイレベルな組織向けの制度だと思います。

 

(5) 部門別に予算を割り振り、部門長が個別に決める

「(1) 個別に決める(鉛筆をなめる)」の派生系です。

組織が拡大し、部門として成立してきた場合、部門別に昇給予算を配分し、その予算を部門長が割り振るというやり方があります。

大きめの組織で、このやり方をやっているケースを見ました。

結構、部門長の好き嫌いがはっきりと出るように思います。

このやり方は、絶対にやめてほしくない社員に対して昇給を優遇できて、しっかりと差をつける方法としてメリットがあります。

制度があるようで無いといった昇給の方法だと思います。

 

Share this…