スタートアップで賞与があるとオファー年収に占める月給水準が低くなってしまい、不利に働くことがあります。
過去に採用競争力を高めるために「賞与」を廃止し、月給に組み込むケースもありました。
「年収水準が変わらないので、そこまで影響はないのでは?」と思う方もいますが、スタートアップの人材採用現場を知らない発言だと思います。
以前、賞与について以下の記事を書きました。
こうしたことを承知の上で、賞与を検討する場合もあります。
背景としては、主に1と2です。
- 人件費(固定費)の変動費化
- インセンティブの強化
- オファー年収の問題解決
3について補足します。
以下の条件が揃ったときに問題が発生します。
- 中途採用
- 自社に賞与制度がなく、採用候補者の現職(前職)に賞与制度がある
- 現職(前職)の年収を維持する
例を挙げます。
- 採用候補者の年収が700万
- 月給が50万、賞与は年間2ヶ月分
- 月給×12ヶ月=600万、賞与100万
この採用候補者の年収700万を維持するオファーで、賞与がない場合、月給58.4万でオファーします。
年収は700万で維持ですが、月給は8.4万アップです。
これだけであれば問題ないのですが、例えば数年後に賞与を導入しようとなると、この水準に賞与がアドオンされることになります。
これをどう考えるか。
純増を受け入れるかどうか。
そもそも、上記のケースで年収維持ではなく、月給維持の600万(月50万)でオファーすることができれば問題ないわけですが(賞与ダウン分はSOで補填する等)、採用競争が過激で、自社の競争力もそれほど高くない場合、600万オファーできない場合もあります。
巡り巡って、賞与を検討しようかとなります。
そんなとき、どんな観点を検討するのか、簡易的なリスト(7つ)を作成しました。
財務的な観点は、財務経理チームと擦り合わせることを前提にしています。
(1) 標準支給額 / 原資
例えば、年間で一人当たり基本給の2ヶ月分(夏1ヶ月・冬1ヶ月)といった標準支給額。
これを人数で掛ければ、原資が見えてきます。
年間2ヶ月がミニマムです。
これ以上少なく設定すると、「賞与額が少ない」と不満や文句が出てきます。
一般的な感覚として、年間2ヶ月、もしくは半期で1ヶ月を下回る賞与は、新規で導入したとても不満にしかつながらないため、注意が必要です。
「月給×月数」にしない場合、等級別の報酬レンジの下限値や中央値を標準支給額に設定することも有りです。
ただ、スタートアップは傾向として報酬レンジが幅広いため(特に上位等級)、金額感が合わない場合もあります。
その場合は、素直に「月給×月数」でもいいかもしれません。
(2) 業績連動の有無
会社業績や成果と原資を連動させるか否か。
業績達成度が120%なら、標準支給額を10%上乗せするようなイメージです。
等級や役職で、パーセンテージを変動させることも有りです。
スタートアップの場合、業績(売上や利益などの数値)だけでなく、採用目標や製品開発目標、営業プロセス目標が連動する場合もあります。
(3) 評価制度との連動
賞与は評価で変動するか否か。
評価制度の運用がまだ定着していない場合、無理に連動させる必要はありません。
評価と連動させると、評価への目線が厳しくなります。
まずは、「人件費の変動費化」や「オファー年収の問題解決」を目的に賞与を導入・運用するのも可です。
(4) 振れ幅
評価制度と連動させた場合、振れ幅をどの程度設けるか。
例えば、最高評価は2ヶ月、標準評価は1ヶ月、最低評価は0ヶ月など。
振れ幅が大きいほど、インセンティブ機能は高まりますが、その分、連動する評価が正しく回らないと不満が強くなります。
単なる評価への不満が、報酬への不満につながってしまうため、評価制度の運用に自信がない場合は、振れ幅を小さくして始めるのが良いと思います。
あと、職種による差を設けるか。
よくあるのは、業績への関与度(責任度)が高い営業職は、振れ幅を大きめに設定するパターン。
営業職は、最高評価で3ヶ月にするイメージです。
営業職個人の実力で、業績貢献が実現する場合には機能的ですが、営業職だけでなく他職種も含めたチームで営業活動を行い、業績をつくる場合、不満につながりやすいです。
特にスタートアップの初期フェーズは、「営業職は営業だけ」といった仕事・役割がパキっと分かれているわけでもないため、なかなか機能しにくい所感があります。
チームワークを阻害する一因になってしまうため、注意が必要です。
自分は、メンバー全員でSOを通じて会社全体の価値を高めていく方向に動機づける方がスタートアップらしいとは考えています。
(5) 支給回数
年1回、年2回、年4回といった回数を決めます。
多くは年2回です。
年1回だとインセンティブとしての意識づけがやや弱い、年4回(もしくはそれ以上)だと、運用負担が重く、業績目標や個人目標の設定も負担となります。
年4回以上の場合、評価制度と連動させずに単に支払うだけならいいかもしれません。
(6) 支給時期
人事評価を行い、その結果を報酬改定に結び付けるタイミングで賞与も支給する、つまり最短のスケジュールで支給するか、それとももう少し時間を置いてから支給するか。
後者は、オペレーションとして体制・仕組みが整備されているか、が影響します。
会計の観点が時期の意思決定に影響を及ぼすため、コーポレートチームと連携して議論していきましょう。
(7) 案分・不支給のルール
期中入社者や休職者・退職者への案分支給、懲戒事由などによる不支給ルールも決めておく必要があります。
案分については、評価者対象者のルールを適用し、評価非対象者については不支給もしくは標準評価として案分した月数を支給します。
懲戒事由については一般的なルールで問題ないので、顧問社労士さんと連携して決めてしまいます。