「売上が上がらないことよりも、人が辞める方がつらい」
あるスタートアップの経営者から、だいぶ前にお聞きした話です。
実際に、会社が潰れた後にお聞きしたこと
この会社は、業績不振で会社の清算まで立ち会いました。
事業・組織の縮小時にも手を動かして対応しました。
100名を超えるメンバーがいましたが、50名に減り、10名に減り、最後は4-5名で対応。
もろもろ完了し、食事をしていたときに経営者の本音をぼそっとお聞きしました。
「売上が上がらないことよりも、人が辞める方がつらい」と。
そんなこと聞いたことがなかったし、そういう素振りも見ていなかったので、自分は驚きました。
しかし、これまでの経験上、他の経営者からも同じような話を聞いたことがその後、幾度もあります。
自主的な退職から会社都合での退職勧告まで形は様々ですが、人が辞めていくことが最もつらいということでした。
たまたま自分の周囲には、そういう方が多かったというだけかもしれませんが。
理由を聞き出せていなかった
こういう話を何度も聞いていますが、「なぜ?」の部分を正直知らないことに、今気づきました。
感傷に浸り、聞き出せていなかったと思います。
前後の話から、あくまでも推測で考えると以下のような仮説が思い浮かびました。
まず1つ目は、次も起こるという予感と不安です。
退職が止まらないのでは、と。
こういう直感を感じていると思います。
2つ目は、退職の話を聞いた後、自分には「どうすることもできない」という絶望感です。
相手の気持ちを変えることはできないし、そういうことをしたくもないし、でも本音は・・・
弱い自分を見せられない状態に追い込まれてしまい、成す術がありません。
最後の3つ目は、自分が否定されている感覚を持つということ。
自分・自社よりも優れている他人・他社が選ばれたという感覚です。
製品・サービスでも文化、その他の条件でもなく、経営者自身を見極められたというか、見限られたというか。
そして、入社から今に至るまでに取ったコミュニケーションが何だったのか、ということも。
もちろん、人が辞めることでその穴を埋めなければいけない、その見通しが立たない、事業が行き詰まる、組織が疲弊するなどといった現実的な状況に追い込まれることは当然ですが、それ以上に言語化できないモヤモヤとした感覚・感情が「つらい」という心情を引き起こしているように、自分には感じました。
無力を感じるとき
今後、さらに人が辞めていくかもしれない。
目の前で「辞める」と言っているメンバーを止めることができない。
この状況で、はっきりと自分の無力を感じるのかもしれません。
だれも「辞めてほしい」なんて思っていない中、辞めていく状況で、次に何をすればいいのか、何を改めればいいのか、どうすればいいのか、さっぱりわからない。
業績を上げる戦略や戦術は見えていても、人の退職を止める戦略や戦術はまったくわからないし、人に聞くこともできない。
そもそも、本当にこれが続くのか、これが経営にとっての課題なのか、もわからない。
人・組織の気持ちがわからないことへの無力さを感じてしまう。
「だったら、こうすればいい」とソリューションを提案することは自分にはできません。
自分にもわからないので。
ただ、このテーマは本当に苦しいということを前もって認識しておくことは必要だと思います。
準備なく、直面してしまうと心への影響が非常に大きいと思います。
執筆者プロフィール
金田 宏之 (かねだ ひろゆき)
組織・人事コンサルタント。株式会社インプリメンティクス代表
組織・人事コンサルティングファームで大規模組織の人事制度設計や会社合併に伴う人事制度の統合、監査法人や大学法人など、様々な組織の人事制度設計を7年3ヶ月経験。制度設計の他に、プレミアムブランドを支える人材の採用・教育研修・評価・報酬決定などの人事マネジメント全般の仕組みづくりにも従事。
2014年、スタートアップの組織・人事コンサルティングに特化した株式会社インプリメンティクスを創業。スタートアップのMission実現に向けて、ゼロイチフェーズの人事制度設計から、組織拡張期に及ぶ人事制度の運用・改善までハンズオンで支援する。
成長著しいスタートアップでの長期的なコンサルティング経験を通じて、制度運用現場で起こる様々な課題を見据えた実践的かつ汎用性の高い人事制度と運用手法の設計・開発に取り組み、日々ブログ「kaneda3.com」を通じて発信中。
著書に『スタートアップのための人事制度の作り方』がある。