行動評価の評価基準のつくりかた

評価制度の2本柱、成果評価と行動評価。

成果までのプロセス、主に行動を評価する行動評価。

その評価基準の設計方法をまとめました。

 

バリューを翻訳する

多くのスタートアップでは、ミッションやバリューを定めています。

簡単に言ってしまうと、バリューとはカルチャーの一部で、所属するメンバーの価値観。

価値観とは、判断・行動の基準であり、日々の行動の指針として活用されます。

 

バリューを体現すれば、個人・チームの成果につながり、結果として会社も成長できるように、バリューを設計します。

このバリューの体現を促すために評価制度(行動評価)と連動させることも有効です。

ただし、バリューは抽象的な概念・表現になりがちなので、具体的な判断・行動の基準に言い換えることが必要になります。

これがバリューの翻訳です。

 

では、スタートアップで人事制度を導入するタイミングで、どのように翻訳するのがいいのか。

自分なりの考え方を整理しました。

 

【参考】

 

平易短文

設計の合言葉は、「とにかく短く」。

短くすれば、自然と平易な内容に落ち着きます。

まずは短文を意識しましょう。

 

平易短文の理由は、実際に人を動かす文章になるので。

行動評価の基準は、日々の仕事の中で「こう動いてほしい」「こう考えてほしい」「迷ったらこっち」と、個人を方向付けていきます。

認知→理解→行動の順で進むと考えると、まず認知の部分で長い文章は受け入れられません。

そして、理解できない、もしくは理解したくないと反応(反発)されたりします。

 

バリューを浸透させ、体現できる個人・組織をつくりたいなら、「とにかく短く」評価基準を設計して、理解活動に着手しましょう。

「短い」は正義です。

 

短くする、要はそぎ落とすことで「本質」と「汎用」が両立されます。

  • このバリューが導いている本質的な要素は何か?
  • 汎用的に使える要素は何か?

この評価基準の設計は、だれでもすぐにできません。

スイートスポットにたどり着くまで、一定の経験と訓練が必要です。

「できない」と投げ出さずに、まずはアウトプット、何度もフィードバックをもらいながら、不必要な要素を思い切って捨ててしまし、研ぎ澄ましていきます。

粘り強く思考し続ければ、解が見えてきます。

 

全社共通

初めて人事制度を導入するタイミングでは全社共通、つまり職種共通・等級共通をオススメしています。

エンジニア職もセールス職も法務職も、同じ評価基準(バリューの翻訳文)を使います。

3等級も5等級も同じという意味です。

 

理由は、主に3つ。

 

① 負担軽減

職種や等級に応じて「分ける」ということは、設計も運用も負担を増大させます。

単純に設計するのが大変です。

例えば、8職種(エンジニア・デザイナー・PdM・カスタマーサポート・セールス・カスタマーサクセス・経理財務・人事採用)で、8等級あれば、8×8=64 のパターンができます。

「6等級以上は同じ」などの簡略化を行っても膨大な基準を作成しなければなりません。

このひねり出す作業はなかなかの苦痛で、それこど妥協した基準をつくると、間違った行動へと方向付けたり、評価基準への理解度・納得度がいまいちで、評価制度の信頼低下を招きます。

 

さらに設計のルールづくりも曖昧になりがち。

エンジニアやセールスは比較的人数が多い一方、経理財務や人事採用などコーポレート職の人数は少ない傾向となる中で、

  • 「経理財務は職種別基準つくりますか?」
  • 「いや、今一人だし、いいんじゃない。」
  • 「人事採用はどうしましょう、2名います。」
  • 「二人は作った方がいいのかな」
  • 「でも、人事採用は二人とも3等級だから、本人に作ってもらうのが、そもそもつくるのが難しいかも」
  • 「確かに…」

なんて会話がいたるところで起きます。

制度をきちんと考えようとする組織ほど、こうした悩みが出てきます。

 

全職種共通であれば、こうした悩みはスルーできます。

代わりに「基準は職種別じゃないんですか?」とか「等級別に基準は分かれていないんですか?」といった質問が飛んできますが、上記の話を丁寧に伝えれば、導入時は理解してくれます。

将来的にバージョンアップすればいいので。

 

② 評価のしやすさ

制度導入時、「想定以上だった」と必ずクライアントの皆さんが言うことがあります。

必ず、です。

それは「評価制度を運用する負担」。

「評価って、こんなに大変だったのか」と。

 

このタイミングでは、多くの組織でマネージャーが潤沢にキープできていることはありません。

となると、マネージャーが評価する対象者は自然と増えます。

 

「1人のマネージャーに対してメンバーは5人」など決めても現実的にはそういかないことも。

1人のマネージャーが20人を評価していたことも見たことがあります。

「破綻しているよね」と外野からヤジが飛ぶかもしれませんが、スタートアップなんてこんなもの。

乗り切る場面が出てきたら、何が何でもやり切る。

他の会社ではできないけど、うちはやり切る。だから、成長できるのです。

 

話が少しそれましたが、制度導入時のマネージャーの負担は半端ないです。

この場面で、評価基準が職種や等級で分かれていると、マネージャーの脳がパンクします。

エンジニア3等級の基準はこれ、と理解したら次はデザイナーの4等級。。。

共通する「本質的な行動基準」は何か、が忘れ去られてしまい、文面上の表面的な振り返りとフィードバックになってしまう懸念があります。

 

ここは正論から考えると、なかなか受け入れがたい制度設計で、よく「等級別に作った方がいいのでは?」「5等級レベルのマネージャーと3等級レベルのマネージャーが同じ基準なのか?」といった声をいただきます。

基準自体は同じなのですが、被評価者のミッションや役割、仕事が違えば、評価基準が対象とする行動・判断の質も量も変わってきます。

なので、同じ基準で評価(振り返り)しても、まったく同じ基準になるというわけではありません。

 

ただ、制度の工夫として、上位等級ほど行動評価の評価点は高くなる傾向になるため、総合評価算出式で等級別係数を設置し、上位等級は「行動=軽、成果=重」で総合評価(最終評価)が決まるルールにしておきます。

この等級別係数によって、制度の複雑化を回避でき、マネージャーの導入期の膨大な精神的負担を削減できると考えれば、割にあった仕組みなのかな、と個人的には考えています。

 

【参考】

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