自分がスタートアップ向けに人事制度を設計・導入する場合、まだ人事制度がないゼロイチのフェーズがほとんど。
すでに運用されている人事制度を改定し、新人事制度へ移行するケースが少ないという意味です。
既存の人事制度を運用しながら、新人事制度へ移行させることの方が難易度は高くなります。
今回は、新人事制度へ移行させるプロセスについて、前提条件をおきながら考えてみます。
前提条件とマスタースケジュール
認識をすり合わせ、理解を深めるため、前提条件をおきました。
- 150名ぐらいの組織規模
- 12月決算で、1-6月が上期、7-12月が下期
- 既に人事制度を導入している
- スタンダードな等級制度、評価制度、報酬制度を運用中 (参考:人事制度の構造)
- 等級判定は6月/12月、目標設定と人事評価は7月/1月、報酬改定は8月/2月のスケジュールで実施
- 2022年7月から「新人事制度プロジェクト」が開始 (参考:人事制度の設計・導入プロジェクト)
- 制度改定の見立ては「等級の数を増やす」「評価制度は細かいチューニングでOK」「等級増に伴い、報酬レンジを変更する」の3つ
この前提条件のもと、新人事制度の移行するためのマスタースケジュールは次の通り。
- 2022年7‐12月:6ヶ月間の設計、導入(社員説明含む)
- 2023年1-6月:新人事制度のトライアル運用
- 2023年7‐12月:本番運用
新等級制度への移行
22年7‐12月の最大の山場は、新等級制度の設計と「移行」の企画です。
等級制度、評価制度、報酬制度の3つの中で、等級制度の設計が最も難しく、大事になります。
難しいというのは、設計が難しいのはもちろん、関係者への理解活動がなんといっても難しい。
設計のリーダー、プロジェクトメンバーが人事制度における等級制度の位置づけを完全理解し、丁寧にな言葉で説明を尽くすことが求められます。
今回の前提条件のように「等級の数を増やす」ということであれば、等級要件を見直し、報酬レンジとの紐づけを完了させた上で、既存メンバーを新等級に移行させる必要があります。
全メンバーの等級判定を実施し、全体説明と本人への個別説明も対応しなければなりません。
等級判定の役目を担うマネージャー(評価者)にも、非常に高い負担を強いることになります。
なお、自分が設計する場合、プロジェクト開始後、新等級制度(主に新等級要件)を設計したら、新等級への仮の当てはめ(「仮格付け」と定義)を、早めにやるようにしています。
評価制度や報酬制度の詳細設計の前に、仮格付けです。
この仮格付けで、既存制度から新制度へ移行させた場合、等級が下がり、結果として新制度の報酬レンジに当てはまらないケースの有無を確認します。
このケースの有無によって、制度改定の重さが変わってくるため、なるべく早いタイミングで等級判定するマネージャーを巻き込み、仮格付けすることをオススメします。
新人事制度が全部完璧にできてから仮格付けする、という進め方ではありません。
新人事制度のトライアル運用
このトライアルとは、2022年7‐12月に決めた仮格付け(個人別の仮の等級=仮等級)を検証することを意味します。
そして、2023年5-6月のタイミングで、仮等級が適切であるかどうかを再び判定し、本等級(本番の等級)を決定します。
結論を先に言ってしまうと、仮等級から本等級に移行させる過程で、等級が変わることは稀です。
仮等級が違っていた、というよりは仮等級を決めたときから6ヶ月が経過して成長した(変わった)結果、本等級も変わるというイメージです。
であれば、なぜこのトライアル運用、仮等級・本等級というルールをつくるのか、という疑問をもたれるかもしれません。
それは、人事制度が適用されるメンバーの納得感です。
トライアル運用を設けず、「会社が一方的に決めた」という印象を与えるだけでも反発を生みます。
たとえ、結果として等級が変わることは少なかったとしても、導入時の説明責任を果たし、6ヶ月間のトライアル期間でお互いに話し合う姿勢を示し、きちんと相手に向き合えば納得感はつくれるもの。
このプロセスを無視して、人事は会社が決めるもの、というスタンスで対峙すると、足元をすくわれます。