報酬制度の設計で昇降給を実施する方法は、主に2つです。
①積み上げ式
SABCDなどの評価結果に応じて昇給を積み上げていく方式です。
年収500万円の方が、10%昇給した場合、550万円となり、さらに次の昇給タイミングで10%上がれば605万円となります。
多くの会社では、この積み上げ式で昇降給を管理していると思います。
②洗い替え式
「アライガエ」とは聞きなれない言葉ですが、もとは会計用語のようです。
報酬制度の洗い替えとは、昇降給がリセットされるという意味合いです。
例えば
S:600万
A:550万
B:500万 ※ここが標準評価
C:450万
D:400万
とテーブルが決まっており、A評価を取れば550万、C評価だったら450万になります。
上げやすく、下げやすい方式です。
メリハリを効かせたいという意図がある場合、積み上げ式でなく洗い替え式で昇降給を設計する場合があります。
あと積み上げ式よりも「下げる」ことが心理的にやりやすいという ”印象” があるようで、下げること(減給)を意識して、人事制度に実力主義を反映させる会社にもウケがいいようです。
もちろん、自分も洗い替えの昇降給を設計・導入したことはあります。
留意したいことは、「高評価者に減給が起きてしまう」ということ
実際に洗い替え式を運用していて、困るケースは「高評価者」の対応です。
先ほど示した上記の例を使って説明します。
標準評価のC評価の場合、500万ですが、最高評価のS評価の場合、600万に昇給します。
100万も上がるので、魅力ありますね。
S評価を取ると、マネージャー(評価者)は「Sだったので600万です。100万昇給しました」と説明します。
問題は、翌期の洗い替えのタイミングでやってきます。
最も困るケースは、前回S評価者だった方がA評価だった場合です。
A評価は、標準評価よりも高い評価です。
しかし、マネージャーからの説明は「A評価でした。今回の標準評価より高い評価です。年収は550万です。50万下がります。」となってしまうのです。
「前回がS評価だったので、、、」と申し訳なさそうに話すことになるでしょう。
論理は通っています。
しかし、お金は感情で取り扱われるため、被評価者もマネージャーも双方で、なかなか納得しにくいのが実情です。
この事例が蓄積されてくると、そもそもの「上げやすく下げやすい」という目的が、どうも自組織には合っていないのでは?といった気持ちにつながり、洗い替え式に違和感を覚えるようになります。
そして、積み上げ式に制度変更していくパターンが多いです。
設計だけでなく、運用についても伴走すると洗い替え式の「知識」としては制度として「つかえる」となるかもしれませんが、運用をしっかりと伴走した経験があると、「知見」として使い方が難しいという判断ができます。
洗い替え式を提案する方は、「下げられる」ことのメリットを訴求しますが、実際は「下がってしまう」ことの副作用の方が留意すべき点です。
洗い替え式は、運用が難しいため、制度設計のポリシーをつくり、それに基づいた形にしないと容易に瓦解してしまう制度です。
導入する際には、十分に気をつけましょう。