日経ビジネス(合併号No2239)に、初任給引き上げの文脈で「固定残業代」が取り上げられていました。
私が支援しているスタートアップも基本的に固定残業代があります。
雑誌の中では、固定残業代についておおよそ問題視されているように書かれていましたが、価値観の違いなのかな、という感想を持ちました。
雑誌の内容をざっくりまとめると
- 初任給の引き上げの背景に固定残業代がある
- サイバーエージェント、TOKYO BASE、レバレジーズは固定残業代が80時間
- 初任給を「かさ増し」して新卒採用力を強化している
- 固定残業が長いと残業代が支払われているという感覚から時間管理がおろそかになったり、労働時間の過少申告が起こる
- 売手市場で採用競争を勝ちきれない
- どんぶり勘定で賃上げできる固定残業は企業にとってありがたい制度
- 固定残業の導入率は高まっている(2004年は5.4%、2022年は23.3%) ※労務行政研究所調べ
- 従業員にとっても生産性を上げて残業時間を抑えることができれば悪いことではない
- 1947年に制定された労働基準法は、基本的に労働時間に対して賃金を支払うが、この考え方が見合っていない可能性がある
- 固定残業代で生産性を上げるのではなく、「短時間高収入」の給与制度を考案する必要がある
といった内容です。
上記の8のようにポジティブな側面について言及はあるものの、「かさ増し」や「どんぶり勘定」といった表現などからも、書き手や識者は全体的にネガティブな印象を持っているし、多少のディスリも入っているように感じました。
気になったのは、4で固定残業代があるから時間管理がおろそかになるというのは論理的にはわかるけど、(私が見ている範囲では)実態として問題になっていることはありません。
あと、従業員が「労働時間を過少申告が起こる」というロジックは、自分の理解力の低さのせいか、意味がわかりませんでした。
固定残業時間分を超えた労働時間だと残業代が支払われることになり、それが批判的に見られるために「過少申告する」ということでしょうか。
ないかどうかはわかりませんが、私は聞いたことはありません。
こういう議論をする際、そもそもベースにあるのは「報酬」が「労働時間」に対して支払われるのか否か、「成果」に対して支払われるか否か、という部分です。
ただ、こういう複合的なテーマに対して、右か左かってやってしまうと宗教論争に行きつくように感じます。
基本的に定められた「時間」に対して報酬が支払われ、さらに「成果」の応じて報酬が変動するわけで、「時間か?成果か?」という問いが短絡的だと思います。
論点は、その定められた時間を超過した場合に残業代というものが発生するわけで、その超過時間をどう考えるか、がポイントです。
そうすると、時間に応じて「アウトプット・アウトカム」が(ほぼほぼ)計画通りに創出される仕事は労働時間を主にして考えるべきだし、「アウトプット・アウトカム」が時間にあまり比例しない仕事は成果を主にして考えるべきだと思うわけです。
昔議論になったホワイトカラーエグゼンプションってヤツです。
これが徹底して叩かれて無になっている状況を考えると、ある種の本質を突いた制度だったから、保守的な方々は「ヤバい」と感じて徹底的にやり込めたんでしょう。
労働基準法が「時間」に対して「賃金」を支払うと、労働時間かどうかの選別が昔よりも難しくなっていることを考えると、ハックしやすい状況(リモートワークとか)になっています。
事務所や工場で顔を突き合わせて働き、その場ですぐに物質的なアウトプット・アウトカムが目で見える状況ではなければ、労働時間で賃金を支払うことは時代にマッチしておらず、その改善策として各社が固定残業というツールを使って工夫しているんだと思います。
もちろん、80時間といった残業が強制され、心身の健康を害することに陥ることは「悪」であり、避けなければなりません。
しかし、これこそ売手市場という構造で対処すべき問題です。
もし、いわゆるブラック企業なんてところに入ってしまったら働き手自らの意思で去るなり、うまく相手を使い倒すぐらいの知恵が必要です。
売手市場というか、そもそも人口減の社会構造を考えれば、人手不足は今後も変わらないわけで、この構造を理解して「うまく」働く術を身につけることを優先してもいいのではないでしょうか。
もう既に実践している方々はたくさんいると思うのですが。
各社の固定残業時間と初任給考(日経ビジネスより引用)
社名 | 固定残業時間 | 初任給 |
TOKYO BASE | 80時間 | 40万円 |
サイバーエージェント | 80時間 | 42万円 |
レバレジーズ | 80時間 | 35万円 |
DeNA | 45時間 | 38万円7500円 |
楽天グループ | 40時間 | 30万円 |
GMOインターネット | 40時間 | 59万1675円 |