スタートアップでは、あまり馴染みがないかもしれない「調整給」。
調整給の主な使い方について、3つのパターンを紹介します。
降格に伴う降給に対する調整給
降格によって大幅に降給してしまう場合、激変緩和措置として段階的に降給を実施するために調整給を使うことがあります。
例えば、降格によって年収が5%ダウンする場合、2.5%は降給を実施する、2.5%は調整給で補填する、というやり方です。(数字は仮です)
調整給には、6ヶ月や12ヶ月など支給期間が設定されます。
一気に5%下がるのではなく、まず2.5%下がり、6ヶ月後にさらに2.5%下がる。
これが調整給の使い方の1つ目です。
自分が設計する場合、適用するケースは少ない前提ではあるものの、降給のルールを導入しておきたい場合に、調整給も合わせて提案します。
制度改定に伴う降給に対する調整給
人事制度を改定した際、制度改定に伴い降給対象となる場合にも調整給を適用します。
スタートアップでは該当するケースは、そもそも少ないと思います。
例えば、年収612万の方がいたとします。
報酬レンジが620万だったところを600万に変更するとなると、12万が報酬レンジの上限をはみ出ることになります。
この場合、600万を基本給、12万を調整給として給与が下がらないように補填します。
他に、等級制度を変更することで個人の等級が変わり、等級変更に応じて報酬レンジも変わることで、レンジ上限をはみ出ることもあります。
先日読んだ労政時報で住友商事の人事制度改定が取り上げられていましたが、その中で制度改定に伴う経過措置として3年間補填する内容が書かれていました。(『労政時報 第4030号』特集3 人事制度事例シリーズ 住友商事、を参照)
おそらく調整給が3年間支給されるという意味だと思います。
以前、自分は制度改定に伴う調整給として「永久調整給」を適用したこともあります。
要するに「給与は下がらない」ということです。
「意味あるの?」と思われるかもしれませんが、「給与は下がらない」けど「上がることもない」という制度への改定でした。
このような制度改定に伴う調整給がスタートアップで検討されることは少ないかもしれませんが、制度改定を進めると意図せず、個人の報酬が下がってしまうケースもあります。
会社としては下げる意図はないものの、降給対象に該当してしまう場合、個人の報酬が不利にならないよう調整する方法として覚えておくことをおすすめします。
オファー年収と希望年収の差分に対する調整給
採用の場面で、会社が提示するオファー年収と採用候補者の希望年収に差分が生じるケースがあります。
さらに希望年収が、予定している等級の報酬レンジ上限を上回っている場合、会社としてどうすべきか悩むところです。
制度(ルール)を、どこまで厳密に守るべきか。
そこで報酬レンジの上限を上回る部分に対して、調整給を適用する方法があります。
例
・報酬レンジの上限:600万
・会社のオファー年収:600万
・本人の希望年収:650万
⇒ 会社のオファー年収:650万に変更
・基本給:600万
・調整給:50万、期間は6ヶ月間
※分かりやすい金額にするため、端数は無視しています
入社して6ヶ月のうち、上位等級に昇格できれば、調整給は基本給に変わります。
しかし、6ヶ月で昇格できなければ、調整給はなくなります。
自分の意見(ポジション)を明確にすると、この採用時の調整給はおすすめしません。
理由は、まずモメる可能性があること。
6ヶ月後にどうなれば昇格できるのか、は入社して働いてみないと分かりません。
特にスタートアップは各社各様のカルチャーがあり、その環境になれることから始まります。
一定の経験をもつ即戦力人材でも、入社後、即座にパフォーマンスを出すことが難しいケースも多々あります。
その上で、昇格できないと報酬が下がるというのは、本人にとっても会社(マネージャー)にとってもストレスの原因になり得ます。
一時的な採用ニーズは満たせたとしても、すぐに降給、さらには退職に至ってしまうリスクもあります。
また、このやり方は、他の社員に共有できない性質のものであり、情報が洩れた場合、寝耳に水の事態を引き起こします。
会社が制度(ルール)を破っていると認識して、信頼関係に深く傷が残ります。
会社の採用に対する課題意識や苦しさは論理的に理解できても、お金の話ゆえ、感情的に理解・納得することはできないと考えた方が無難です。
他にも、マネージャーが調整給の方法を知ることで、安易に調整給でのオファーを考えてしまうようにもなるリスクもあります。
百害あって一利なし、かも。
では、こういう場合、どう対応するべきか。
まずは、希望年収が収まる上位等級でのオファーを考えること。
そのレベルを満たしていないと判断する場合、オファーは見送りです。
会社の期待値と報酬にフィットしていないという結果です。
もしくは、報酬レンジを変更すること。
調整給を適用せずともオファーできる水準までレンジ上限を上げます。
しかし、レンジ上限を上げれば、他の社員の昇給可能性も上がり、将来の人件費負担に繋がります。
自社の採用競争力、採用市場、採用候補者に対するニーズ、など中長期と短期の視点で検討することが必要です。