シンプルな人事制度とは?

シンプルな人事制度を設計し、運用することを推奨しています。

しかし、この「シンプル」という言葉、とても抽象的です。

解釈が難しいというか、何となくの理解に留まります。

とある本を読んでいたら、自分が目指していた「シンプル」とはこういうことなのか、と気づいたのでブログに残しておきます。

 

機能としてのシンプルさ

人事制度をパーツにわけると、等級要件や等級判定プロセス、昇格レポート、目標設定、評価基準、評価者、報酬レンジ、昇給テーブル、昇格昇給など、たくさんパーツで構成されていることがわかります。

 

思った通りの効果が得られず、運用に困る人事制度は、このパーツが単体で複雑です。

等級要件が長々しく、ややこしい(複雑)。

上位等級との違いも目を凝らして捉えにいかないと理解できない(で、何が違うの。同じじゃん)。

説明されて、やっと「そういうことか」と理解できるレベル(いや、わからんよ)。

説明されないと分からず、各自の感覚で等級を判断してしまう。

これが制度の形骸化につながっていきます。

とにかく、1つ1つのパーツが複雑。

設計者は、意図をもって設計しており、背景には膨大な論理と想像が垣間見えますが、ユーザーを置き去りにした制度は、現場で機能しません。

制度はあるけど、制度が使われず、人事評価や報酬が決まっていくのが人事制度。

バグがあっても、全然動くのが人事制度です。

 

一方、うまく動く人事制度は、パーツ単体がとてもシンプルで簡素。

本質以外は削り落とし、必要最低限の要素で作り上げます。

昔の自分なら、「こんなに捨象してしまっていいのか」「相手に手を抜いていると思われないか」「相手にバカだと思われないか」と不安になってしまうぐらいです。

でも、これが運用しやすい制度なのです。

 

各パーツが機能としての至ってシンプル。

この状態をまず設計できるかどうかが肝です。

機能としてのシンプルさ。

 

ただ、これだけではうまくいきません。

 

構造としての複雑さ

一見矛盾しているように感じるかもしれませんが、構造は相当複雑です。

この構造を設計するところは妥協なく、論理を積み重ねていくことが必須。

結構、この構造を一般論や経験、慣習・慣例で片づけてしまっているケースが多いように感じます。

 

人事評価の結果を昇給や昇格に反映する。

一次評価者の評価案を二次評価者が調整し、一次評価者が被評価者にフィードバックする。

相対評価して、評価結果を既定の分布に落とし込み、人件費管理する。

 

普通に考えると、そうなるのですが、その論理にヒトは不満を抱いたり、諦めを感じたり、要は納得していないことが多々あります。

全体のコンセプトを描き、個々のパーツを接続して、構造として機能させる。

最近気づいたのですが、この構造が至極、複雑。

具体と抽象を行き来して、抽象が変わり、具体も変わり、この往復運動を何度も繰り返します。

そして、実際に制度を動かして、またそこで変わる。

さらに、組織が拡張し、事業のフェーズも変われば、また変わる。

メンテナンスし続けながら、具体と抽象が常に振れています。

 

シンプルな人事制度とは、単一の機能はとてもシンプルでありながら、構造はあまりにも複雑。

このコントラストが、シンプルと解釈されます。

経営や評価者には、構造の複雑さまで一定理解いただく必要はありますが、メンバー(被評価者)は構造を理解・腹落ちする必要はありません。

悪くないな、無駄がないな、ぐらいを感じていただければ90点だと思います。

 

機能が複雑で、構造をシンプルにしないこと。

みんなの不評を買うし、そもそも使われない。

時間と労力と費用をかけて設計した制度が無駄になります。

いわゆるブルシットジョブを大量に生み出す装置になってしまうので注意が必要です。

 

楠木さん・藤本さん・トヨタ社からのインスピレーション

楠木建さんの『戦略読書日記』からインスピレーションを得ました。

楠木さんが、藤本隆宏さんの『生産システムの進化論』を書評しており、その中に書かれていた内容です(一次情報ならぬ、四次情報)。

20年ほど前に藤本さんの本を何度かチャレンジしましたが、まったく自分の技量が足りず、歯が立たなかった記憶が鮮明にあります。

この研究はすごいんだろうな、すり合わせって何なんだ、と思いながら、全然理解できず。

 

楠木さんがわかりやすく解説してくれており、やっと自分も追いつきました。

トヨタでは、カンバン方式、ジャストインタイム、アンドンなど製造業としての組織能力構築で有名ですが、それぞれの機能はいたってシンプル。

前工程から後工程に部品が流れる、異常を感知したら生産ラインを止めるとか、聞けばすぐに分かる話ばかり。

 

1つ1つの機能はとてもシンプル。

でも、それを一連の流れの中で構造として捉えるとめちゃ複雑。

試行錯誤を繰り返してきた経験とプロセスにこそ、組織能力が蓄積している。

ここに競争優位の源泉がある、といった話なのかな。

 

自分の目指す制度設計もこれだな、と直感が働きました。

読んでいてゾクゾクしました。

シンプルにして複雑。

機能と構造にコントラストがある。

意識してきませんでしたが、ここにうま味が凝縮されているんだと。

 

今後、どうやってクライアントに説明していくか。

早速、実践の場で引用していこうと思います。

 

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