マネージャーはメンバーの報酬を決定する必要があります。
ただし、報酬制度が未整備だったり、昇格などで特別昇給を実施する際、どのように金額決定すればいいのか。
報酬会議を運営・参加する立場ゆえ、経営・人事マネージャーから頻繁に質問を受けます。
具体的な How についてまとめました。
(1) 【他者比較】社内における他のメンバーとの比較
まず思いつくのが、他者比較です。
同じ職種・等級のAさん・Bさん・Cさんを比べて、その報酬水準と差が ”感覚的に” 適切かを判断します。
報酬決定に正解はありません。
情報をインプットすれば、正しい数字がアウトプットされるわけでもありません。
マネージャーが「感覚」をフルに活用します。
他者比較は、当然のプロセスとして多くの会社で実施していますが、前提となる知識を関係者で共有できると、より効果を発揮できます。
それは、行動経済学の「並列評価と単独評価」。
相良奈美香さんの著書『行動経済学が最強の学問である』から引用させていただきます。
1996年にシカゴ大学の教授のクリストファー・シーが発表した研修では、「あたなはコンサルティング会社のオーナーで、KYという特殊なコンピューター言語を使えるプログラマーを探している」という設定で被験者に質問しました。
「新卒の候補者が2人います。KY言語の経験と学部の成績平均点(GPA)は次の通りです。どちらを選びますか?」
候補者1
経験:過去2年間に書いたKYプログラムは10本
GPA:4.9
候補者2
経験:過去2年間に書いたKYプログラムは70本
GPA:3.0
候補者2人を比較した並列評価では、候補者2の方がオファー報酬額が6%高くなるという結果になりました。並列評価することによりGPAよりも実務により関連しているKYプログラムの本数に焦点をおいたのです。
ところが、比較しない単独評価では、候補者1のオファー報酬額の方が20%以上高くなるという結果になったのです。相良奈美香『行動経済学が最強の学問である』、P220より
並列で比べることで、人の見方は変わります。
比較することの意味・効果を把握することで、より合理的な判断ができる1つの手段になります。
(2) 【市場比較】採用市場との比較 (「今、オファーするなら?」)
例えば、入社して1年が経過した方がいるとします。
1年間、一緒に働いてその方の能力やマインド、将来性を深く把握することが出来ました。
そして、この1年で他の方々の採用も進み、社内の報酬水準に変化が生じたり、もしかすると採用市場にも変化が生じており、職種の希少性が少し変わってきているかもしれません。
そこで、その方の報酬を改めて見た際、「低いかも」とマネージャーが感じるのであれば、積極的に報酬を上げていきます。
その際に使う情報は、主に2つです。
1つ目は、直近に入社した同職種の方々の報酬水準です。
同じ職種で、かつ能力水準やパフォーマンスもだいたい同じぐらい、しかし報酬水準は ”後から” 入社した方が高くなる傾向があります。
会社として成長していれば、その分、支払い能力は高まり、会社としての知名度も上がってくれば、「報酬を下げて入ってもらう」が通用しなくなってくるという事情もあります。
しっかりとした報酬水準を出せる会社に成長したということです。
2つ目は、マネージャーや人事が、直近の採用活動で得ている・感じている市場感です。
これは、定性情報です。
採用候補者の前職の年収や自社・他社のオファー額をリスト化できれば、定量情報にもなり得ます。
直近の採用者の報酬水準と市場感を踏まえて、「今、オファーするなら?」と考えてみます。
現在の報酬水準よりも高くオファーできることが明らかであれば、報酬を調整(昇給)しましょう。
(3) 【過去比較】過去の昇給実績との比較
過去の昇給実績を時系列でまとめたスプレッドシートを準備します。
過去、昇給してきた方であれば、過去の昇給額とそのときの説明(なぜ、昇給するのか?)と今回の昇給額と理由に整合性・納得感を持てるかどうかを定性的にチェックします。
報酬が上がればOK、という話ではなく、相手は「理由」を求めています。
その理由を誤ると、昇給したけど効果が薄いということもあります。
一方、昇給していない方であれば、今回も昇給しなくて大丈夫か、を確認します。
何度も言いますが、正解はないので、経営・人事・マネージャーの論理と気持ちを整理して、相手の納得を引き出すことがゴールです。
(4) 【ポジション比較】報酬レンジ内のポジションとの比較
まず相手の評価を、等級の観点で行います。
その際、ざっくりと3段階ぐらいで見てみましょう。
- 上:上位等級に近いレベルの人材水準
- 中:当該等級として期待値を十分に発揮できる人材水準
- 下:当該等級の初任レベル
ざっくりで構いません。
そして、例えば報酬レンジが600万から800万だった場合、その方のざっくり判定の結果が、「下」であれば「600~650万」、「中」であれば650~750万、「上」であれば「750~800万」あたりに収まっているか、を確認します。
もしズレていたら、報酬を調整するのか、を検討するキッカケにします。
このチェック方法は、上中下と報酬レンジの対応関係次第で変わるため、当人の報酬水準を調整するか、報酬レンジの設定(下=600~650万、中=650~750万、上=750~800万)を調整するか、についても都度検討することをおすすめします。