シナジーのない事業が立ち上がってきたら事業部組織に移行する

スタートアップは1つの事業からスタートし、機能別(職能別)に組織を部門化していきます。

企画、開発、生産、営業、保守の他、管理部門としての経理、財務、法務、総務、人事、広報などです。

 

事業が成長し、製品ラインが複数に増えていくと、一気に事業・組織が複雑化します。

このとき、安易に「事業部制に移行」と考えてはいけません。

機能別組織(職能別組織)と事業別組織について理解を深める必要があります。

 

機能別組織

組織は基本的に機能別組織で成長し、事業別組織に移行していきます。

一部を事業別にしたり、機能別に残したりとオプションはありますが、機能別から事業別の流れが大原則です。

 

機能別組織の一般的な利点は以下です。
① 機能(職能)別の知識やノウハウの蓄積
② 組織ごとのリソース最適化
③ 人材育成や個人評価との相性が良い

 

①について、機能別に集団ができるため、その集団の中で知識やノウハウが日々蓄積されています。

例えば、複数事業でも1つの営業本部の中で組織活動を推進することで様々な営業ノウハウや知見が溜まっていきます。

②について、営業本部長というリーダーが組織内のリソースを把握できることで柔軟にローテーションを検討したり、キャリア開発を踏まえたチャレンジングなプロモーションなどを実践できます。

他の事業部との調整が軽くなるため、意思決定スピードも速くなります。

③について、①と②の効果により専門人材の育成にも貢献できます。

専門性の高い上長からの評価やフィードバックを得られるため、現場メンバーの評価への納得感にもつながります。

 

一方、機能別組織の場合、各機能をまたぐ調整に負担がかかると同時に、責任の押し付けが起きがちです。

「顧客のニーズを満たせていないのは他部署のせいだ」という意識を生みやすく、組織間の連携をいかに円滑に実行できるかが肝です。

各機能の責任者や担当者は、各機能のミッションを全力で追いかけるため、個別組織の最適化を自然と目指していきます。

これ自体は悪いことではなく、自然なことですが、この状態を野放図にしてしまうと、組織をまたぐ調整コストがかさみ、ギスギスした組織になっていきます。

常に調整が起きたり、責任の押し付けが起きたり、と要は面倒な状態になっていくわけです。

 

そこで機能別組織を運営していくためには、各機能において全社視点(経営視点)をもって組織を率いることができるリーダーが必要です。

自組織(自分たちの職能)について深い知識と経験をもち、同時に他組織(他者の職能)に対する理解と敬意のもと、お互いの意見を擦り合わせることができるリーダーです。

自分の意見を強く出し過ぎるとチームワークが乱れますし、一方で相手に迎合し過ぎれば自組織が立ち行かなくなります。

このちょうどいい塩梅を、リーダーが調整しながらミッションを達成していく。

これが機能別組織であり、100‐300名規模のスタートアップの組織像です。

 

事業部制は、過剰なリソースがあることが前提

事業が複数になると、安易に「事業部制だ!」と唱えて事業部長を配置して組織を設計し直すケースがあったり、それを目指そうとするケースがあります。

そういう組織では、とにかく調整コストが重く、こんな調整をしているなら、もっと顧客に向き合いたいという誠実な気持ちから事業部制が唱えられます。

その気持ちは間違っていないのですが、事業部制にしたところで多くのケースはうまくいきません。

理由は簡単で、リソースが無いからです。

事業部制というのは、リソースありきの組織戦略です。

人が少ない中で、各事業に集中できる体制をつくっても、そもそもリソースが足りずに試合になりません。

冷静に見ると、6人ぐらいで野球をやろうとしているのです。

ピッチャーとキャッチャー、内野二人に外野二人ぐらいで戦おうとしていますが、本来は人数不足で試合に出れません。

しかし、ビジネスだと出れてしまうので現場は困ったものです。

 

このとき、ビジネスでは魔法の施策があります。

「兼務」です。

組織図上に「(兼務)」と書くことで、1名を2名に増やすことができるのです。

一種の麻薬だと考えた方がいいです、この兼務は。

人間は一人であり、二人ではないので。

 

この兼務に慣れてしまうと、兼務を乱発して組織規模を大きくすることができます。

でも、これは現実ではありません。

事業にシナジーはあるか?

事業部制に移行する際に最も意識すべきことは、事業間のシナジーです。

A事業とB事業でシナジーがあれば、それは事業部を分けずに1つの組織として機能を追求することがセオリーです。

機能別組織と事業別組織には色々とメリデメはありますが、肝はこのシナジーです。

 

例えば、同じ顧客に対して異なる製品を販売していく場合、これはシナジーがあります。

わざわさこの状態で事業を分けるはずがない、と考えるのが普通ですが、先ほど話した調整コストがかさむと、悪者を組織と定義して機能別組織から事業別組織に移行させようとしがちです。

シナジーのことが理解できていると、「それは違う」と歯止めがかかるのですが、その理解がないと「事業部制だ」「いや機能別のままがいい」と水かけ論が続きます。

 

スタートアップは少ないリソースを局所的に集中させて一点突破で突き破っていきます。

その後、幅を広げていきますが、広がっているには顧客も提供価値も異なる事業ではなく、プラスオンの価値であることがほとんどです。

このとき、自分たちの成長を錯覚して事業組織で分割するような組織設計は筋が良いとは言えません。

 

あくまでもリソースを集中させて、その中でノウハウや知見を蓄積・循環し、組織力を高めていくのがスタートアップのセオリーです。

事業部制への移行で迷った場合、シナジーを考えてみることを推奨します。

多くの場合、そこにシナジーがあるので組織を分けると強みが停滞していく構図になることに注意した方がいいと思います。

 

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