人事制度事例【3】三井E&S(旧:三井造船)

出典:労政時報4080(2024年7月12日発行)

従業員数:5,952名(連結)

等級体系上級職(管理職)は役職に応じたLM系(部長など)、役職無しのBP系(プロジェクトマネージャー)、技術専門職のSP系(フェローなど)に分かれる。一般職は、事技系と技能系            
等級数LM5段階(ラインマネジメント)、BP2段階、SP2段階、事技系3段階、技能系5段階
※事技系はステップがあるため実質的には6段階で運用
等級要件LMは役職連動
・LM1-1:課長、コーポレート室長、分室長、グループ長、支社長、営業所長
・LM1-2:LM1-1の中で特に職責が大きい役職
・LM2-1:センター長、事業部ライン部長、総合事務所長、コーポレート室長
・LM2-2:事業部長、工場長、コーポレート部長
・LM3:執行役員
昇格上級職のLMは役職連動、SPは認定の形を取る(BPはプロジェクトなどの担当役職者)。一般職から上級職への昇格はヒューマンアセスメントと役員プレゼンテーション(今後の組織運営についての提言)。
一般職では、昇格必要期間(年数)を廃止。昇格要件に英語・会計などの知識を設定。おそらく評価制度上の「能力評価」と連動されているように見える。
降格上級職のLMで役職を外れた場合の降格の仕組みは設計されていない。一般職への降格の仕組みは今後検討する
役職定年
評価期間1年
評価者一次評価者・二次評価者
評価段階絶対評価を採用
評価記号ABCDEの5段階評価
評価プロセス    自己評価→一次評価→二次評価
成果評価上級職:個人業績評価に一本化、目標は3つでウエイト設定する。各目標を4段階で評価して、5段階のABCDEを算出。絶対評価を採用(相対評価や分布調整は行わない)
一般職:業績評価。目標は最大3つ、難易度、ウエイト、4段階の達成度で点数を決めて5段階の評語を決定。四半期ごとにフォローアップ面談を実施
行動評価能力評価は5段階で絶対評価、5項目の平均点でABCDEの5段階の評語に読み替える。(「上位資格基準相当」「該当資格基準相当(高・中・低)」「下位資格基準相当」の5段階評価)
360評価無し
報酬レンジシングルレートとレンジレートのハイブリッド
給与項目上級職:等級別の職位給(固定額)と業績給
一般職:資格給(資格・ステップごとの定額)と職能給(能力評価で昇給)、賞与、時間外手当と家族手当、リーダー手当
給与改定頻度年1回
昇給・ゾーン別昇給
降給能力評価が最低でも降給はしない(昇給がゼロ)
賞与年2回の支給
上級職:全社・部門の業績と個人評価に応じて算定した金額を12分割して毎月支給する(期ズレが起きる?)
一般職:会社業績で支給月数が決まり、資格係数(等級)と成績係数(評価)で支給額が決定
報酬移行
調整措置ライン長についていない社員のうち、BP1に格付けした場合に大きく処遇を下げるケースは激変緩和措置を設ける
ローテーション制度:新卒入社5‐7年目の事技系社員、複数年かけて少なくとも1回は全社員を異動させる。異動先は全部署・全職種、本人の希望や適性、部署のニーズを踏まえて人事が主導して決める。エンジニアなどの技術系もローテの対象。
その他一般職の過去の制度は
・年度考課:昇給、昇降格に反映
・昇格候補者選考:昇降格に反映
・半期考課:賞与に反映
・目標管理:基本給に反映
※複雑な制度をシンプルに変更した

 

所感

5000人を超える組織規模の人事制度として参考になった。

過去の制度が4つの制度(年度考課、昇格候補者選考、半期考課、目標管理)と複雑だったため、シンプルにする方向で人事制度をアップデートしたとのこと。

自分の設計でも、この4つのうち、年度考課を除く3つを設計・運用することがあり、その運用負担は大きいと理解していたが、これを5000人規模までやっていたという点はやや驚いた。

精緻につくり込み、運用にもリソースをかけていたと思う。

新制度に変わったことで、現場も人事も負担が相当緩和されたに違いない。

 

調整措置について、「ライン長についていない社員のうち、BP1に格付けした場合に大きく処遇を下げるケースは激変緩和措置を設ける」とあったが、やはり部下無し管理職の報酬水準が年功的に上がっていっていることが伺える。

ここに手を付けることは相当組織内でも議論があったろうし、痛みも伴っているはず。

一方で、「上級職のLMで役職を外れた場合の降格の仕組みは設計されていない。一般職への降格の仕組みは今後検討する」や「能力評価が最低でも降給はしない(昇給がゼロ)」とあるように、肝になる降格・降給の制度が設計されていない点は、気になる。

こういうネガティブな制度は、やるときに一気呵成にやってしまうことが大事。

ここから議論というと、あと数年もかかってしまい、その頃にも制度に対する改善要望も見えてきて整合性を取ることが難しくなる。

目的・ターゲットをまずは別のところに据えて、着手することを優先させたのかもしれないし、それはそれでポジティブではあるが、厳しい制度ほど当然のスタンスで取り組んでいくことも大事。

ただ、それを許さない慣行や歴史、文化があるというのも痛いほどわかるが、、、

 

専門職であるフェローなどのSPは、認定の形を取るとなっていたが、実際にどのように認定されるのかは知りたいところ。

そもそもハイレベルの専門職を、当人以外が評価することの妥当性・納得感をどのように醸成しているのか。

技術・知識というよりは、経営・事業・組織への貢献という観点で評価し、認定されると仮説を持っているが、制度の詳細を把握したい。

 

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