人事制度は、等級制度、評価制度、報酬制度の3本柱で構成されています。
このうち、評価制度を外して等級制度と報酬制度の2本柱で制度を設計・運用しているケースがあります。
目的はいくつかありますが、主は人事制度の運用負担を軽減すること。
「そもそも、人事制度を導入しなければいいのでは?」と鋭い問いを発する方がいそうですが、人事制度がないと報酬決定と成長指針(人材育成)の観点で非効率が生じてしまいます。
軽量級の人事制度を考えている場合、「人事評価がない人事制度」を導入することは筋に良い打ち手だと考えています。
Nstock社
等級は8段階で、3つの項目で等級要件が構成されています。
報酬レンジ、高いですね。
そして、全社ミッション(目標)を6ヶ月で達成した場合、全社員一律で「2%」の昇給が実施される成果連動昇給を運用しています。
評価制度(人事評価)はありません。
誤っていけない点は、「人に対する評価が一切ない」というわけではないということ。
等級制度を通じて、期待される人材像を等級要件として示し、等級が判定されます。
これは短期的な成果や行動に対する評価ではなく、中長期的な観点での人材価値を評価している制度です。
なので、評価制度(人事評価)はありませんが、人をきちんと見ている仕組みではあります。
評価制度を導入すると、多くのケースでは目標管理も合わせて導入されます。
例えば6ヶ月間の目標を設定し、その目標に対する成果や達成度を評価します。
また、成果だけでなくプロセスや行動も基準に照らして「できていたかどうか」が評価されます。
評価制度は、等級制度に比べて運用の負担が重くなりがちです。
なぜなら、全社員に対して目標設定を行い、中間評価がある場合は中間時点で評価・フィードバックを実施、最後に期末のタイミングで人事評価を行います。
決められた期間で、全社員の時間を使って制度が動きます。
ここでは評価制度のメリットについて解説はしませんが、組織運営において適切な評価制度は威力を発揮します。
ただし、必ず目標設定、評価、フィードバックを全社員を対象に実施しなければならず、ルーティンの職務として鎮座することになります。
該当の時期は繁忙期になると同時に、マネージャーは「評価の時期が来るのか、、、」とナーバスになっているでしょう。
全員に対して制度を適用することがデフォルトになっているからです。
一方で、等級判定は全社員を必須対象にすることはありません。
もちろん広義で捉えると、全員に対して等級・等級要件に照らして期待値を伝えたり、良い点・改善点をフィードバックしたりすることはありますが、厳格に「評価」を伝えるルールではありません。
等級が変わる、つまり昇給する・降格する場合は、公式なプロセスと基準に沿って諮ることが求められますが、等級が変わることが毎期続くことはありません。(もちろん等級制度の内容にもよりますが、7段階や8段階の等級であれば、昇格は数年に一度の人事イベントになるでしょう)
この違いは、人事制度における運用負担の観点で想像以上の差分を生み出します。
被評価者・評価者の観点でなく、制度を運用する側(人事担当)の負担も大きく下がるため、採用や組織開発、労務企画に多くのリソースを当てることができます。
「やらなければならない」という義務に基づく人事評価と目標設定がないことで、各自が工夫を凝らしてミッション・期待値を考えて伝えたり、成長を促すフィードバックを行うことが求められますが、敢えて評価制度を導入しない背景を伝えることで、現場に当事者意識を醸成することもできます。
NOT A HOTEL社
【参考】平均年収1,000万円以上!NOT A HOTEL創業者が明かす、報酬と福利厚生への考え方
NOT A HOTEL社も評価制度のない人事制度を運用されているようです。
「ワンチーム評価」というタイトルですが、個人に対する評価ではなく、チーム(会社・組織)に対する評価で、報酬決定を行っています。
年初に定めたカンパニーベッド(OKR)の達成度が120%であれば昇給率「5%」と現金賞与が「年収の20%」、110%であれば昇給率「3%」と現金賞与が「年収の10%」となっています。
シンプルで、非常にわかりやすい制度です。
個人に対する評価制度がないことで、これほど制度をシンプルに設計できると、会社やマネージャー(評価者)の人事制度の説明コストを削減することもできるし、被評価者の方々も仕事に集中できると思います。
NOT A HOTEL社でも、Nstock社と同じく、等級(NOT A HOTEL社ではグレードと呼んでいる)制度が運用されており、報酬レンジが定義されています。
よって、評価制度上の短期間の人事評価はないものの、グレードの観点で人材価値が測定されていると推測できます。
(グレード制度については、こちらのページの下段にある採用資料で確認できます)
Ubie社
以前、当ブログでもUbie社の人事制度について考察したことがあります。
Ubie社の人事制度も個人に対する評価ではなく、会社目標に対する評価を実施。
ただし、Nstock社やNOT A HOTEL社との違いとして、報酬への反映がストックオプションになっていること。
ちなみに、ストックオプションか、年収の昇給か、は個人が選べるようにはなっているようです。
所感
私は、Nstock社の制度設計を支援しました。
評価制度のない人事制度を設計することが初でしたが、制度に手応えを感じています。
とにかく制度(運用)が軽い。
身軽に、組織や制度に向き合えることは正義だと実感しています。
ただし、これがどの会社にも当てはまる制度だとは思いません。
設計も運用も難しいため、安易に導入すると現場の混乱を招く可能性があります。
そして、肝心なところは組織づくり(主に採用)との連携度合いが高いということ。
事前に情報公開することは必須ですし、その考え方に共感してくれるメンバーを集めることが求められます。
また、今後変わっていく可能性があり、つまりどこかのタイミングで評価制度を導入することもあり得るため、「変化」することに柔軟であることも、メンバーにとって必須要件になることは間違いないでしょう。
評価制度をたくさん設計し、色々なパターンを見てきた立場だからこそ、そのメリットも副作用もわかります。
人事制度をある程度経験し、「重たさ」に強い課題を感じている場合は、人事評価のない人事制度はおススメです。