「お手並み拝見」というカルチャーを巻き起こしてしまう「個人の等級公開」について

スタートアップの人事制度設計で議論が沸き起こるのは、個人の等級公開の有無です。

「誰が、何等級か?」を全社員に公開するか否か。

 

私のスタンスは「公開する」

過去の記事でも書きましたが、私は公開することを推奨しています。

2022年1月1日の記事。

このブログを始めた1発目の記事です。

それだけ私にとっても「思い」のあるテーマです。

 

 

公開する理由は、主にロールモデルを示すこと、テキストで書かれた等級要件の具体性を高めて理解を促すこと、です。

私の支援先を考えると、8割程度は公開しています。

 

2割ほどで「公開しない」ケースもあるのですが、その理由はプロジェクトを進める中でクライアントとの議論で私自身が気付きを得たものでした。

 

【理由1】ハイレイヤー人材による組織づくりではロールモデルの必要性が低い

最近のスタートアップでは、立ち上げ期から経験豊富なハイレイヤー人材(年収800-1200万クラス)を採用し、組織づくりを始めるケースがあります。

そのような組織では、そもそもキャリアについて自立している面もあり、ロールモデルを会社から事細かく示す必要性が低いと考えることがあります。

もちろん、会社が期待する人材像は等級制度で示したり、評価制度も通じてフィードバックすることで気付きを提供しますが、個人の等級を公開することで要件の具体性を示すほどではない、というスタンスです。

 

たしかにジュニアから一人前レベルの人材であれば、今後マネージャーやシニアへ成長していくにあたりロールモデルがあることで人材水準の理解が進みます。

しかし、もともとマネージャー経験があったり、専門性が高いスペシャリスト人材であれば、その方の過去の経験でロールモデルとなる方がいて、これまでの豊富な経験を使って自ら人材水準を読み解くことができます。

であれば、個人の等級を公開する必要性が低くなるということです。

 

しかし、これでは公開してもいいし、公開しなくてもいい、という理屈にしかなりません。

公開しない場合、情報閲覧の権限を制限したり、誰まで公開するのか、といったルールは複雑かつ運用も面倒になります。

「公開してもいいし、公開しなくてもいい」のであれば、公開するの方が圧倒的に楽かもしれません。

 

【理由②】「お手並み拝見」というカルチャーを巻き起こしてしまう

とあるクライアントの方から教えていただいたことです。

言われてみて、自分自身もその現場を見たことがあったので腹落ちしました。

 

上位の等級や役職で入社される場合、既存のメンバーが自然と「お手並み拝見」という気持ちで向かい入れてしまうことです。

  • 前職で優秀だった方が、「うち」ではどれくらいできるんだろうか
  • 「うち」は、カルチャーが強烈だけど、うまくフィットできるだろうか

 

その方をサポートする気持ちというよりは、「見定める」ようなスタンスですね。

まさに「お手並み拝見」。

どんなもんじゃい、ということです。

 

「あったなー、これ!」と私自身、思いました。

そして、本当な嫌な気分になりました。

器小せいなー、子どもっぽいなー、偉そうだなー、村っぽいなー、と。

 

等級を公開することでこうしたカルチャーが必ず沸き起こるとは思いません。

等級は非公開でも、役職は組織上で公開されるわけで、同じような状態にもなりますし。

ただ、この話をスタートアップの方々にすると、「それ、ある」「過去に、それで困ったことがあった」「うまく言語化できてなかったけど、まさにお手並み拝見ってやつ」と皆さん妙に納得した様子でした。

 

こうした副作用を意識せず、等級公開を強く推し進めるのも微妙です。

まずは、自分のスタンスとして「公開する」ことは変わらずとも、この副作用は必ず伝えて議論の場を持つことが大事であると考えました。

 

本当に等級公開は、奥が深い。

 

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