マネージャーポジション(役職)と等級制度の関係を理解しておくことは大事です。
私は、役職と等級は別モノとわけて人事制度を設計します。
これが前提条件です。
ただし、等級制度における等級要件で「役職者向けの等級要件」を設計することがあるため、しばしば混乱を招くことがあります。
前提を擦り合わせるための説明ストーリーをシンプルにまとめました。
マネージャーに任命されると自動的に昇格するのか?
結論を先に述べると、マネージャーに任命されても自動的に昇格するわけではありません。
例えば、全8等級の制度で、5等級を役職者向けの等級要件(マネージャー要件)と非役職者向けの等級要件(スペシャリスト要件)にわけて設計した場合、4等級の方がマネージャーに任命されたら5等級に自動的に昇格するのか?ということです。
いえ、昇格しません。
4等級として、マネージャーの役割を果たします。
もし、5等級の等級要件(マネージャー要件)を満たしていれば、5等級に昇格しますが、マネージャーへの任命が昇格の理由になるわけではありません。
「マネージャーとして期待されることを満たしていない4等級のままで、マネージャーをやるということ?」という質問があったとします。
答えは、「はい、そうです。」です。
成長著しいスタートアップでは、恒常的にマネージャーの数が不足しています。
「マネージャーできる人材が有り余っている」なんてことはありません。
なので、マネージャーへのキャリア指向があり、ポテンシャル・センスがある方にマネージャーを担っていただくのです。
これが上述の4等級マネージャーです。
この動きの結果として、うまくいけば1年後とかに5等級に昇格できるという流れです。
この動きを把握せず、マネージャーに任命したから等級も上げよう、とやってしまうと、うまくいけばいいものの、もしマネージャーとして不適格だった場合、
- 「マネージャーを解任したいけど、等級も下げなくちゃいけないの?」
- 「等級下げるってことは、報酬も下げるってこと?」
- 「報酬を下げる必要はないんじゃない?」
- 「じゃあ、等級は下げるけど、報酬は下げないってこと?」
- 「であれば、等級も下げなくていいんじゃない」
- 「それが一番、本人のモチベーション的にも良さそう」
と間違った意思決定に向かってしまいます。
本人のモチベーションではなく、意思決定者のモチベーションに良さそうな決定です。
マネージャーを解任されると自動的に降格するのか?
まず、5等級であってマネージャーとして期待されること(マネージャー要件)が果たせない場合、4等級への降格を検討します。
「検討」とは、5等級の非役職者としての等級要件(スペシャリスト要件)で判定し、その要件を満たしていない場合は、4等級に降格します。
難しいのは、「マネージャー要件を満たしている&スペシャリスト要件は満たしていない」方で、より良いマネージャーが採用できたり、組織再編でマネージャーポジションがなくなり、マネージャーから解任された場合です。
マネージャーの役割は果たしていないけど、マネージャー要件は満たしている。
つまり、マネージャーとしての保有能力で等級判定するか、発揮能力で等級判定するか、です。
「保有能力」とする場合、マネージャーを解任されても自動的に降格することはありません。
一方、「発揮能力」であれば、マネージャーを解任されたらマネージャーとしての能力を発揮したり、役割を果たすことはないため、自動的に降格します。
自分はどちらの制度も設計した経験がありますが、保有能力にした場合、いわゆる「部下なし管理職」のような方がうまれるため、「部下あり管理職」の方とインセンティブ(賞与)で差をつけたり、「部下なし管理職」の方の目標設定を人事側でもチェックしたりするなど、制度や運用でも工夫が必要です。
一方、発揮能力の場合、降格しやすい状態になるため、「等級は下がるけど報酬は調整(補填)する」といった調整給ルールをつくっておく必要があります。2-3年の幅で、報酬は下がらず、再度マネージャーポジションへ任命される場合、報酬をスムーズに移行できるようにします。
理論上は、発揮能力とすべきだが、現実は保有能力になりやすい
Pay ror performance の考えに基づけば、発揮能力とすべきところですが、ヒト・組織に関わる様々な事情ゆえ、保有能力になるケースが多いのも事実です。
例えば、組織改編で部署統合したり、階層が増えることでマネージャーポジションが一新される場合など、本人とは関係ないところでマネージャーポジションは有機的に動きます。
これを等級や報酬と連動させると、説明できても納得なし、の状態に陥ってしまい、経営への信頼失墜につながってしまいます。
またこの問題は非常にケースバイケースで、バイネームを見ながらの議論になるため、理論と方針を言語化した上で、常に経営陣で議論して意思決定することになります。
これを「無駄」といってショートカットすると、経営と現場の対立構造を生み出すことになるため、注意が必要です。
特にスタートアップは組織が常に進化するフェーズであるため、マネージャーポジションの動きが活発です。
杓子定規になり過ぎず、かといって安易に妥協せず、落としどころを探っていく。
まさに組織人事におけるセンスが問われる事象であると考えます。