とある会社で「Ubie社の人事制度に興味がある」といった声が挙がり、リサーチしました。
ネット上の記事からの考察なので限界はありますが、大枠は掴めたと思います。
参考にした記事に基づいて、情報をまとめていきます。
Research 1
【2021年3月の記事より】
まずこちらの記事をクライアントに教えていただきました。
刺激的なタイトルで、非常に興味深いです。
ざっとまとめると、
- 2021年3月なので、約2年半前の記事
- 100名ぐらいの組織規模
- 「評価はしない」という明確な方針がある
- 評価なし、役職なし(ホラクラシー)、昇給あり
- 昇給は「業績連動昇給」、MRRが指標
- 全員がストックオプション(SO)を持っている
- オファー時に、給与重視・SO重視・バランス型の3つから本人が選べる報酬制度
- 目標設定はOKRで、チーム目標からボトムアップで設計
- 評価はしないが、フィードバックは仕組みで実施
「評価はしない」「評価制度がない」がキーワードであり、クライアントの興味もそこにありました。
評価は「難しい、もしくはできない」と割り切り、その負担・工数をなくそうという考えに共感した背景があります。
ただ、記事の一番下の「※」に以下がありました。
※この記事においてUbieと呼んでいるのは、事業開発・プロダクト開発を担うDevチームを指しています。スケールを担うUCSチームは、メトリクスもきちんとしていますしマネジメントに強いメンバーもいるので評価制度がきちんと運用されています。チームは、メトリクスもきちんとしていますしマネジメントに強いメンバーもいるので評価制度がきちんと運用されています
人事評価は不毛?〜評価なしで100名の壁を超えたUbieの事例〜
新規事業(事業開発)とその製品開発を担うチームは、この「評価なし&業績連動昇給」であるが、事業が立ち上がった組織では、評価制度を運用しているということです。
全社単位で、「評価なし&業績連動昇給」にはしていない、という点は、きちんと理解した方が良さそうだと思いました。
Research 2
【2021年4月の記事より】
Ubie社の共同代表で、エンジニアの久保氏によるインタビュー記事です。
フィードバックに関する詳細が、こちらの記事に。
フィードバックが「自動化」されており、すばらしいです。
- 評価制度がなく、フィードバックの機会が少なかった
- 久保氏自身、フィードバックを受ける機会がたまたまあり、それが良かった
- 専任の人事担当がいないため、自動化で対応
- SlackのBotで、フィードバックを受ける人を毎日3人自動的に選ぶ
- フィードバックを受ける人が、5人以上を選ぶ(5-15人)
- GoogleFormでフィードバック依頼が流れる
- 5日以内にフィードバックを作成
- フィードバックを受けとる
自分でフィードバックしてほしい人を選べること、フィードバック項目をとにかくシンプルにすることがポイントのようです。
項目も公開されていました。
(人を介さない自動フィードバックのすすめより)
- Change (変化するべきポイント)
- Continue (続けていくべきこと)
- 一言
これはNetflixの本に書いてあった項目で、KPTに近い概念です。
さらにフィードバックのガイドラインもNetflixのものを活用されています。
(人を介さない自動フィードバックのすすめより)
- Aim To Assist(相手を助けようとする気持ちで)
- Actionable(行動変化を促す)
- Appriciate(感謝する)
- Accept Or Discard(取捨選択)
360FBのネックは、運用工数です。
この自動化をつくり上げてしまうのは、エンジニアの強みです。
こういう他社とは違ったフィードバック体験は、メンバーにとって自社のカルチャーを感じる機会でもあり、エンゲージメントをグッと高める素晴らしい機会になっているように思います。
Research 3
【2021年5月の記事より】
上記の2つの記事の理解をより深めるための記事でした。
代表から以下の説明が最初に来ていることで、組織別に制度を使い分けていることを理解できました。
最初に、Ubieには2つの組織があります。立ち上げ〜事業化といった「0→10」を担う「Ubie Discovery」(以下、「Discovery」)と、「10→100」の事業のスケールを担う「Ubie Customer Science」(以下、「Customer Science」)です。「評価をしない」といった制度はDiscoveryチームでのものになります。
人事評価なしでも社員の成長を止めない組織を作る。鍵はOKRとフィードバックの効果的な運用
また、本記事ではホラクラシー型の組織についても言及しており、その土台となる人材採用についても考え方が述べられています。
自律型組織でやっていくので、人材水準の高いレイヤーを採用していく、というシンプルかつ合理的な考えです。
自分の中で「事業、戦略、組織、人材、制度」が「点」から「線」につながってきました。
Research 4
【2021年8月の記事より】
評価制度がない組織に入社したエンジニアの方のブログです。
Ubie社のカルチャーや制度に対して、非常にポジティブで、これまで理解してきたことがうまく機能していることが伺えます。
その中で人事制度に対する感想として、以下の内容が参考になりました。
フィードバックをもらうのは気軽な一方で、フィードバックを書くときは僕は苦労している。僕は前職でマネージャーをしていたときがあるので人事評価の際はメンバーにフィードバックを書くこともやっていたのだけど、Ubieでフィードバックを書くときはどうしてもその時と比べると質が落ちているように感じる。
マネージャーだったときはしっかりメンバーの業務を見たり、1on1で話を聞いたりなどしていたため、それに基づいてフィードバックを書けていたと思う。また人事評価もあったのでいわゆるグレードと呼ばれるようなものがあり、そこに「このグレードならこういう成果や能力を持っている」と記載があるため、それと比較してフィードバックをすることができる。
Ubieではそういうマネージャー業やグレードというものは一切ないのでフィードバックの質が落ちるのかなと思っている。ただ、じゃあコストをかけようというのは「人事評価をしない」という意思決定に対して本末転倒である。この点についてはなにかいい方法がないかなとたまに考えたりしているが、今の所あまりよい仮説をたてられていない。
Ubie Discoveryに入社して感じた「これまでとの違い」
「評価制度がない」だけでなく、グレード、つまり「等級制度もない」ということ。
さらに、グレードがないことで人材水準(人材レベル)の基準がわからないため、フィードバックが難しいという内容です。
なるほど。
評価制度はなくとも、等級制度の重要性を感じさせる意見です。
「n=1」と言われるかもしれませんが、「n=1」あれば、わかります。
Research 5
【2022年3月の記事より】
BizDevとして入社された方のブログです。
全体的に、カルチャーや仕事の仕方を知るのに適した記事で、読みやすかったです。
「Ubie Product Platform カルチャーガイド (公開版)」のリンクもあり、このタイミングで存在を知りました。
言語化への意思を感じます。
ドキュメンテーションカルチャーが相当出来上がっていると感じました。
強い組織のはずです。
あと、この記事の下段で「Ubie株式会社 Ubie Product Platform,BizDev紹介資料」があり、P54で「給与・福利厚生」に関する情報がありました。
リード文のところで、年収「600~1200万」との数字があります。
なるほどです。
自分の考える人事制度では、400-600万が3等級の一人前、600~800万で4等級の即戦力レベルと考えると、ミニマムでも4等級レベルの人材採用を中心に進めているように見てとれました。
この採用によって、自律型組織であるホラクラシーを成立させているのでしょう。
Research 6
【2023年6月の記事より】
共同代表で、医師でもある阿部氏のインタビュー記事です。
Nstock社の記事で、株式報酬・ストックオプションに関する記事となっていますが、人事制度全般を理解できる素晴らしい記事でした。
Research1が約2年半前の記事であり、この記事が3ヶ月前なので、最新のUbie社を知ることができます。
ざっとまとめると以下の通りです。
- 組織規模は約250名
- 2つの組織グループによって、人事制度が異なる
- 事業プロダクト&事業開発組織、管理部門組織は、「会社成長連動報酬」で、業績目標が達成されたらSOを付与。業績、勤続年数、年収によって付与数は変動
- 医療機関向け事業 スケール&サクセス組織、製薬事業 コンサルティング&ソリューション組織は、「評価報酬」で、個人評価によってSOを付与。評価とグレードによって付与数は変動
- 昇給イベントは半期に1回
「評価報酬」では、評価に応じて昇給も実施されているように見えました、これは自分の仮説です。
つまり、100名から250名組織になった今でも、新規事業系(開発チーム含む)の組織では、会社業績に連動させた報酬制度で、それ以外の組織では等級・評価・報酬の3本柱からなる人事制度を運用しているという内容です。
また、「会社成長連動報酬」ではSO付与の基準に、勤続年数と年収が入っていることも発見でした。
要するに入社時のオファー年収というスポット指標と、勤続年数というストック指標をかけ合わせて運用されている。
半期に1回の運用はそこそこ大変だと思うので、オペレーションも磨き込んでいるように思います。
考察
事業の状況に応じて、人事制度を柔軟に使い分けている点、大いに学びでした。
新規事業やエンジニア組織の評価制度の設計・運用コストに注目し、全社一律の基準で報酬決定していくスタイルの参考になりました。
共同代表の方がエンジニアゆえ、強い気持ちを感じます。
一方で、立ち上がった事業では、等級も評価も運用されているようで、最終的にその結果を報酬に繋げているとのことで、こちらはオーソドックスな姿かと思います。
おそらく、100名程度の組織で事業が立ち上がってきた際に制度運用し始めたのかと。
事業フェーズにおける前工程・後工程で人事制度をわけて、平等や公平といった「飾り」に捉われることなく、事業成長を主にしたポリシーに非常に共感できました。
より多くの事業体が出来上がってくる中で、各組織がどう自律駆動できるようにしていくのか、エンジニアと医師というツートップのシナジーに大変、強い興味関心をもちました。
Ubieさん、注目です。
参考文献
上記の記事のほか、以下の記事も参考になります。
- 組織の硬直を打破し、新たな機会を取り込める組織を創るまで
- Ubieが社員数250名を超えてもストックオプションを全正社員へ配布することにした理由
- 元戦略コンサルのパートナーがUbieで得心したテックベンチャーの本質
- スタートアップで、カルチャーが全く違う2つの組織を作った話
- 部族から村ステージへ、グロースするスタートアップの5つの成長痛
- 2021年 Ubieでやったこと(採用,型化,オンボーディング,組織の色々)
- フラットな組織の負債と向き合ったUbie Discovery が、ホラクラシー組織を採用した理由
- 元マネージャーが「上司部下のない世界」の扉を開けたら、チームでコトに向かう最高の仲間が集まっていた