スタートアップでは、降格が現実的に起きる前提で人事制度を設計しています。
一方、歴史ある日本企業では、ほぼ降格は起きません。
それは、なぜなのでしょうか?
スタートアップは実力主義だから?
スタートアップは実力主義だから、とは言い切れません。
人材マネジメントを考えると、採用の違いが主要因であると考えられます。
新卒一括採用が中心の歴史ある日本企業では、エントリーグレードから育成され、成長していく人材モデルです。
仮に1等級から入社すると考えると、2-3年で2等級へ、さらに3年で3等級、さらに3年、つまり30代前半で4等級といったように昇格を繰り返していきます。
完全に勤続年数だけで昇格を繰り返すケースはレアですが、昇格2回ぐらいは勤続年数で自動昇格させている企業もあると思います。
こうした会社は、昇格のタイミングで人材を見極めているというよりは、新卒採用のタイミングで十分なコストをかけて目先のポテンシャルを見極め、一定の人材育成で成長する人材を採用しています。
よって、ある程度の等級までは、普通に仕事をしていれば成長していく、という見立てがあります。
これが正しい見立て、もしくは人材戦略であるかは、ここでは議論しません。
即戦力人材の採用
スタートアップに目を向けると、明らかに採用の考え方が異なります。
目標は即戦力、自律自走の人材採用です。
日本企業が5-10年かけて育てた人材を、自社の基準で採用するのです。
その等級は、スタートアップにおける3等級や4等級、マネージャーやプロフェッショナル専門人材として期待される場合は5等級のケースもあります。
ここで問題が生じます。
即戦力やマネージャーだと見立てて採用した人材が活躍し切れないことが起きるのです。
理由は様々です。
単に活躍するまでに、もう少し時間がかかる。これは大きな問題にはなりません。
一方、採用する側(スタートアップ)が、人材を見極められない。
仕事の仕方や考え方がフィットしない。
ライフイベントも重なり、実力を発揮し切れない。
もしくは、前職での評価が甘かった・報酬水準が比較的高かったなど。
見極めが甘いと厳しく言ってしまうこともあるかもしれませんが、そう簡単にヒトを見極めることもできません。
期待していたが、思った通りにならないこともあるのです。
このとき、「降格」の仕組みが必要になります。
「昇格」させた人材を「降格」させることは少ない
中途採用で、一番下の等級でない等級に格付けすることがスタートアップの組織づくりゆえ、降格が必要になります。
そのため、「迷ったら下の等級で」、例えば3等級か4等級で迷ったら3等級でオファーする、といった合言葉が大事です。
そして、そのオファーをできるように報酬レンジを意図して重複させることもあります。
この繰り返しで組織が拡張し、中途採用(人の見極め)の知見・ノウハウが蓄積されていきます。
このように考えると、自社の人事制度上で「昇格」させた人材を、その後の活躍を見て「降格」させることは比較的少ないものです。
もちろん、昇格させたけど、上位等級の期待に応えられず、降格することが皆無とは言い切れませんが、数年の活躍を見て、きちんと実績を評価し、基準(等級要件)に基づき判断できれば、そうそう降格させなければいけないケースは起きません。
もし、降格が多発しているなら、基準や実績を無視しているか、相当ヒトを見る目がないのかもしれません。
もちろん、スタートアップはゼロイチに近い環境下での仕事になるため、ボラティリティが高い傾向にあります。
そこで、評価がたまたま連続して低くなり、意図せず降格につながってしまうケースもあるかもしれません。
ただし、これは珍しいケースだと思います。
降格を考える際、実際に使われるケースを現実的に想像することは重要です。
単純に「実力主義だから」といったスタートアップの表面だけで議論を進めると、間違った制度設計に走ってしまうことに注意しましょう。