100人のスタートアップに、人事労務チームには何名必要か?(人事制度運用のノウハウ)

人事制度を設計・導入しても、運用がうまくいかないケースがたくさんあります。

人事制度そのものが悪者扱いされ、制度を改善しにいきますが、課題の本質がそこではないため、改善を繰り返した結果、骨抜きの制度になってしまうことも有ります。

得てして、こういうケースでは、「人事制度の負担が重い」という誤った課題設定から、人事制度をどんどん簡素化していき、運用しやすくなった一方で、人事制度に対する納得感や評価などを通じたフィードバック機能が低下する傾向にあります。

 

こうした事態を避けるためにも、人事制度の「運用」に対する理解とノウハウが大切です。

自分もあまり意識できていなかった部分なので、改めて言語化してみたいと思います。

 

制度運用は、難易度が非常に高い仕事である

運用と聞くと、決められたことをコツコツ・粛々と実行するイメージをもつかもしれません。

「優しい」とまでは言わないまでも、「難しい」とは思われない仕事です。

しかし、この認識がスタートアップにおける人事制度の運用には当てはまりません。

というのも、スタートアップにおける人事制度の運用は、非常に難易度が高い仕事だからです。

難易度が高いというのは、「運用」といいながら、組織の変化に合わせて、常に「改善」が求められるところ。

 

単純に50人の組織で人事制度を運用するのと、100人の組織で運用するのは、やり方を変えなければなりません。

しかし、多くの会社で同じやり方を踏襲しており、現場から課題が提案され、急いで改善するサイクルになります。

改善が間に合ったとしても、すぐに次のフェーズに入っているため、また別の課題が出てしまい、現場から声が挙がります。

これを繰り返すのですが、基本的に出てきた課題に対応するので、課題解決が間に合っておらず、制度が機能していないと感じてしまいます。

 

また、課題に対する解決策を人事側で提案できなかったり、実行できなかったり、そもそも課題の意味をうまく理解できないこともあります。

この状態に陥ると、冒頭で説明した通り、制度を改善しようという動きが出ます。

もちろん組織の変化に合わせて人事制度を改善することが必要なこともありますが、運用のやり方を改善することも必要です。

 

しかし、多くのケースは運用ではなく、制度に目が行ってしまいます。

問題なのは、課題の本質にアプローチできていないため、同じ問題を繰り返してしまうことです。

運用の「難易度」に対する考え方が、そもそも無く、さらに運用が「難易度の高い」領域であるという認識もなかなかもてません。

 

まずは、スタートアップにおける人事制度の運用は、難易度が非常に高い仕事であると認識することからスタートです。

 

100人のスタートアップに、人事労務チームには5名が必要

100名規模の組織で考えてみたいと思います。

人事制度を導入し、運用をきちんと回そう、とする際、HRの組織をどう考えるといいでしょうか。

いわゆる体制で、人事チームとして人事企画、制度運用、労務の領域を担うイメージです。

採用は外して考えましょう。

100名組織で人事チームは、何名必要でしょうか?

 

自分の提案は「5名」です。 ※5名の中に人事チームの責任者も含みます。

社員20名に対して、人事1名の計算です。

 

きめ細かく人事に対応しようとすると、これぐらいのリソースが必要になります。

しかし、多くのスタートアップでここまでリソースが揃っている会社はありません。

人事領域の人材を採用できないという背景はあるものの、そもそも5名を採用する考えはないのです。

なぜなら、人事や運用には、そこまでのリソースが必要でないと思っているから。

この領域にリソース配分しようと意思決定できるスタートアップは少ないのが事実であり、だから人事で躓く傾向にあります。

 

意外とこの課題に気づくことができません。

なぜなら、人事制度の運用は「難易度の高い」仕事と認知されておらず、そもそも人事に専門性があるとも思われていないからです。

人事は、一見誰にでもできてしまうように見える仕事です。

そして、実際にはできてしまうのです。

 

表面的に・見繕って・嘘をつきながら、できてしまうという意味です。

正確には「できてしまう」ではなく、「やれてしまう」でしょうか。

30点ぐらいの品質で回しているのですが、そのマイナス部分を運用ではなく、制度のせいにしてしまう、というのがこれまでの自論です。

 

この状態を経験すると、「どの会社でも、人事制度って機能しないんだろうな~」という印象が生まれます。

 

リソースを増やして、文書化・自動化する

人事制度をうまく運用させるポイントは、文書化と自動化です。

文書化では、制度の中身をきちんと伝わるようにドキュメンテーションすると同時に、背景(Why)を言語化することが大切です。

「なぜ、こういう制度になっているのか?」という言語化です。

背景の言語化は難しいので、しれっと省略されてしまったり、「どうせ、ドキュメントつくっても、みんな読まない」という論理で文書化しないことを正当化してしまったりします。

 

確かにドキュメントをつくっても、全メンバーがすぐに読むかと言われると読みません。

ただし、いざ読もうとした際に読めないことが問題になります。

そして、口頭で質問された際に、文書化していない人事側も回答に迷うことになります。

 

この問題の主要な原因は、文書化するためのリソースがないということです。

100名組織で5名の人事労務チームが構成されていれば、この問題はある程度解決できます。

「ある程度」といったのは、しっかりと人事、もしくはオペレーション改善の技術・知識を持った自律駆動できる人材が、人事に配置されていることが前提になるからです。

人事が素人集団になっていると、単に制度を回すだけになってしまい、現場の課題をまとめて、お伺いを立てることが仕事になってしまいます。

これでは、運用は成立しません。

 

また文書化だけでなく、自動化も同じです。

組織拡大に合わせて制度をきちんと運用するのは、自動化は欠かせません。

等級判定シートや評価シートの作成・権限設定・配布、評価サプライズの発見、評価集計と分析、報酬シミュレーション、給与分布表や処遇条件通知書の作成、などなど。

 

ミスが許されない仕事です。

部門も職種も増えて、制度も一部アップデートされ、複雑さが増していきます。

はじめは手動で対応していた仕事を、ミスなく安全安心に自動化していく。

 

このためには、リソースが必要です。

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