スタートアップにおける成果評価の特徴

スタートアップの経営環境は、一言でいうと「不確実性が高い」ということ。新しい製品を開発し、市場をゼロから開拓しているがゆえ、先が見えません。この環境下で目標設定型の成果評価を進めると「目標が決めきれない」「期初に目標を定めても、すぐに目標が変わる」「期中にもっと筋の良い目標が見つかった」という悩ましい事態が数多く発生します。また、期末に実績を評価しようとしたとき、「目標には設定していなかったけど、評価に値する貢献があった場合、どう取り扱うべきか?」という悩みも生じます。これがスタートアップの目標設定と成果評価の特徴です。

 
一般的な目標管理制度を組み込んだ評価制度では、期初に目標を設定したら、基本的に目標を変更することはイレギュラー扱いとなります。目標変更を認めてしまうと、目標による管理・統制が取れなくなってしまうからです。目標を臨機応変に変更することを前提にしていない制度のため、期初の目標設定面談に時間をかけ、精緻に目標を設計します。

 
目標設計の中で重視されるのが、2つの観点で行われる「定量化」です。1つ目は目標内容の定量化。目標として期待する水準を可視化し、「評価(振り返り)のしやすさ」を向上させます。そして2つ目は、重要度の定量化です。「ウエイト設定」と呼ばれ、「売上目標:50%、業務改善目標:30%、人材育成目標:20%」のように目標毎に重要度をパーセントで設定します。最終的に、目標の達成度と重要度を掛け算して評価点を計算し、合計した評価点が成果評価の結果になる仕組みです。

 
この一般的な制度は、スタートアップでは機能しません。なぜなら、目標が見えにくいスタートアップ環境で、期中の目標変更(修正・追加・削除)を前提とせず、期初の目標設定に拘泥することは、組織・個人の活動を硬直化させてしまい、臨機応変に環境適応することを阻害する仕組みになってしまうからです。

 
端的にいうと、人事制度が成果創出を促す仕組みになっていないということです。特に目標毎にウエイト設定するには、期初のタイミングで評価期間(6ヶ月)内で目標、つまり「やるべきこと」をすべて洗い出す必要があります。先の見えないスタートアップで、全メンバーに対してこの目標設定のスタイルを押し付けてしまうと制度の形骸化を助長してしまいます。スタートアップの成長フェーズにおいて、6ヶ月先、ましてや1年先はまったく違った景色です。期初にはわからなかった仮説や事実が、期中の活動とともに数多く見えてきます。成果を追い求めるならば、途中であっても柔軟に方向転換すべきです。仕組みに縛られて、目の前に現れたチャンスを放置することは本末転倒です。

 
ただし、だからといって、期初の目標設定に手を抜いても構わないと主張しているわけではありません。ここが難しいところです。コミットすべき目標を可能な範囲で設計し、期中の1on1で定期的にモニタリングする。目標は、必要に応じてタイムリーに軌道修正しながら、何としてでもやり切る。これがスタートアップに求められる目標管理であり、成果評価です。この動きを組織全体で実行できる仕組みを成果評価に落とし込むことが制度設計の肝になります。矛盾しているように感じるかもしれませんが、まったくその通りです。この「矛盾のマネジメント」こそ、人事マネジメントにおける乗り越えなければならない壁なのです。

 

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