スタートアップで人事制度を導入する際、推奨する制度と推奨しない制度

スタートアップで初めて人事制度を導入する際、「これはやった方がいい」と「これはやらない方がいい」について、まとめます。

自分が制度設計するときに意識していることであり、必ず制度設計には反映させるようにしています。しかし、「これはやらない方がいい」を制度導入前に既にやってしまっているケースもありますので、その際は時間をかけて修正しています。

 

スタートアップで人事制度を導入する際、推奨する制度

2つあります。

 

1つ目は、等級制度の等級要件で全社共通要件だけでなく、職種別等級要件を設計すること。

制度導入時に、どの職種まで設計するか悩ましいところですが、目先1年で「評価者」の数が2名以上になりそうま職種は制度導入時に設計していくことをオススメします。

評価者が2名以上になることで評価者同士の擦り合わせが必要となり、経営層ではない評価者が等級判定したり、目標設定したり、被評価者へ説明責任を直接果たすことになります。

その際、全社共通軸ではなく、職種別に設計された具体的な等級要件があると役立ちします。

 

2つ目は、報酬レンジを2つにすること。

3つだと複雑度が高まり、運用コストが上がるので2つです。

背景は、希少性の高い職種の報酬水準が上がっていること。

エンジニア、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンタープライズセールス、など。

各社によって呼称は違うかもしれませんが、「製品開発の中心になる人材」や「大企業向けに製品を販売できる人材」の希少性です。

例えば、エンタープライズセールスは、基本的に既存の大企業で経験を積んでキャリアをつくってきた方々なので、そもそも報酬水準は高めであり、且つスタートアップのSaaS企業は皆さん喉から手が出るほど欲しい人材です。

報酬は高騰します。

報酬レンジをわけて、採用できるように仕組みを整えます。

 

スタートアップで人事制度を導入する際、推奨しない制度

こちらも2つです。

1つ目は、報酬制度設計で「賞与」と「セールスインセンティブ」を設計・導入すること。

賞与は、人件費の変動費化に役立ちます。

しかし、年収を月額換算した際の金額が下がってしまいます。

 

例えば、630万を賞与なしと賞与あり(年間2ヶ月)で考えると。

  • 賞与なし:630万÷12ヶ月=52.5万/月
  • 賞与あり:630万÷14ヶ月=45万/月+賞与90万

 

創業期に近いスタートアップへ転職する際、報酬がダウンする可能性があります。

代わりにSOが付与される等のオプションがあります。

その際、月額のダウン幅を抑えるためにも賞与は月額に組み込んだ方が良いと考えています。

同じ年収でも月額の手取りが大幅にダウンすることは、採用候補者にとって金銭面のネットになります。

 

セールスインセンティブは、運用負担が大きいこととチームワークが低下することの2点です。

スタートアップでは、毎期予算が大きく変わります。

その中でセールスインセンティブの予算設定をして、メンバーに説明し、さらに報酬に反映する負担は、仕事への集中を阻害する要因です。

毎月の業績で動機付けするのではなく、もっと大きな目標で動機付けした方がスタートアップには合理的です。

チームワークの低下については、言葉で説明しても、なかなか理解されません。

しかし、この時期のスタートアップはチームで乗り越えるべき壁がたくさんあります。

そのチームの一体感や共同体意識を毀損する money policy は非合理です。

お金は「論理<感情」です。

 

2つ目は、バリューを反映した定性評価(行動評価)で、評価基準を精緻化し過ぎること。

具体的には、評価基準を「等級別」にすること、これはオススメしません。

やってみると分かりますが、まず等級別に設計することが難しく、数合わせになりがち。

ロジックが通らない部分も出てきますが、数が多いので検証が難しく、実際の運用場面で不満となって現れます。

また、職種によって合う・合わないも出てきます。

「これ、自分の仕事に当てはまらないと思いますが、、、」といった問い合わせがたくさんきます。

等級別に設計することは、定性評価ではスタンダードですが、同じ仕事をやっている人には適合しますが、様々な職種で組織構成されるスタートアップには適合しません。

メリットよりもデメリットの方が明らかです。 

 

不可逆性が高い

こうした人事制度は、初めに失敗するとカバーするのが大変です。

不可逆性が高いのです。

その意味も深く、制度自体の修正はやってやれないことはありません。

しかし、一度失敗した空気が流れると、人事制度や会社の人事に対する取組み全般に対する信頼が低下してしまいます。

これが大いに問題です。

「次の制度もどうせダメだろう、、、」というネガティブな印象がまとわりついてしまうのです。

これを解消する手っ取り早い手段が、失敗した制度を設計した人物をスケープゴートにして更迭すること。

自分がこれをオススメしているわけではありません。

しかし、たいていこんな状況に陥ります。

スケープゴートの状況に陥らないよう、失敗は避けていきたいところ。

人事制度設計に「とりあえずやってみよう」「走りながら考えよう」は、ハイリスクローリターンです。

慎重に取り組むことが求められます。

 

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