開発や営業、PMやCS、経理や人事など職能別で構成される組織は、スタートアップの初期フェーズの定番です。
「組織課題は?」を考えるにあたって、標準化されたが本にたくさん記載されているので、それを整理してみました。
『マクロ組織論』高橋正泰(監修)、髙木敏雄・四本雅人(編)
以下、引用です。
① 過度の専門化、職務志向により部門ごとに独自の考え方や物の見方が育ちやすく、部門間コンフリクトが生じやすい
② 権限がトップに集中し、意思決定に時間がかかるだけでなく、部門間の調整作用もトップに委ねられトップの負担が大きい
③ 企業全体で事業が完結しているので、部門ごとの業績評価が困難で責任が不明確
④ 全社の視野をもった管理者の育成がむずかしい (P95)
『組織デザイン』沼上幹
機能別組織の課題というよりは、事業部別組織との比較を通じて、それぞれの特徴を説明しています。
以下、引用です。
生産・開発・販売等の機能を集約することで得られるコストダウンや付加価値アップの効果よりも。個々の製品・市場への柔軟で迅速な適応によって得られる効果が大きければ、事業部制組織を採用するべきである。逆に、個々の機能をその内部で統合することから得られるメリットが大きく、製品・市場への柔軟で迅速な適応がそれほど重要でないのであれば、機能別組織を採用するべきである。(P31)
そして
事業部制組織では本社機構が中長期の戦略を策定し、個々の事業部が日常のオペレーションを担当するという分業が行われているとか、事業部制組織では個々の事業を担当する人材が研究開発・生産・販売まですべてに関して意思決定を行うので企業経営者の育成に向いているといった点が、主要なポイントである。
それ故、短期の市場適応と中長期の経営戦略を分離する必要があるほど、また経営者人材を育成する必要が強いほど、事業部制を採用するのが適切になる(P31-32)
と続きます。
『ゼミナール経営学入門』伊丹敬之、加護野忠男
同時に分業による問題も発生しやすい。部門の業績の評価基準も異なるために、どこがうまくやっているかの評価が難しい。互いに責任をなすりつけ合うという事態が生じることもある。また評価基準が異なるがゆえの対立も出てくる。製造部門はコストを削減するために、製品の品種を限定することを主張するであろうし、営業部門は売り上げを増やすために品種の増加を要求することが多い。また、それぞれの職能部門が専門化集団として独自の考え方やものの見方を生み出すために、部門間のコンフリクトが発生しやすい。同じデータでも、部門によって解釈が異なるかもしれない。
これらの対立を解消するのは、トップの役割である。そのため、トップの貴重な時間が取られてしまう。(P283)
さらに
職能別組織のもう一つの問題は、事業全体を眺められる視野の広さをもった管理者の育成である。それぞれの管理者は、多くの場合、一つの職能の中で育ってくるために、職能には精通していても全体的な視野に欠けるという場合が少なくない。(P285)
と。
『組織設計概論』波頭亮
機能ごとの専門的なモノの見方に偏りがちで、全社的な発想ではなく自部署の利害を優先した部門主義の発想、セクショナリズムに陥りやすい。また、自部署の都合が優先されるため、市場への目もおろそかになり、マーケットを重視する姿勢が生まれにくくなる。さらに、事業の開発から販売までを機能ごとに分割しているため、製品に関わるコスの実態が見えにくく、利益責任の所在も不明確になりがちになるというデメリットを有している。(P121)
そして
異なる個性をもつ事業が同時にいくつも走っている企業には、機能別の組織はあまり適さない。それぞれの事業のKFSが異なるビジネスを機能ごとに括っても、投資の規模やスピード、必要となる技術や人材像は全く違っているため、効率的な運営にはつながらず、シナジーも期待できない。(P121-122)
と結論づけています。
『人事と組織の経済学』エドワード・P・ラジアー 、 マイケル・ギブス
機能別組織には、同時に重要な欠点もある。専門化が進むと、自分の仕事がどのように組織の他の部門に影響するかについて、従業員はほとんど理解しなくなる。従って、ある仕事が他の仕事とあまり調整されずに進められるという事態が生じやすい。
この問題には、二つの原因がある。まず、能力と仕事における専門化が進むと、従業員は自分達以外の部門の視点を考慮しなくなる。これは自分達の機能を無視することと、歪んだインセンティブによる(機能別組織での実績評価は、他部門との調整を考慮されることなく、各機能での仕事の専門性によって測られやすい。第9章で、この背景を理解するためのツールをいくつか紹介する)。二つ目の理由は、既に触れた、階層において生じる意思決定とコミュニケーションの混乱だ。機能別組織では、多くのコミュニケーションは部門間を横断することじゃなく、同じ部門の中で上下を行き交うだけになる。(P168)
私見
すべてのデメリット・副作用を課題設定するかどうかは自社の状況次第です。
その前提で、機能別組織の特徴を自分なりに整理すると、マーケットではなく専門性や技術への傾倒、激しいコンフリクトと複雑な調整、この2つをさばき切る経営チームの存在が肝になりそうです。
また、経営チームもしくはトップの負担を軽減できる経営直下のマネジメントレイヤーの力も大きく組織の動き方を左右しそうな気もしました。
なるべく調整で困らないような情報共有と判断基準の提示、調整に関する重要性・必要性の軽重の見分け方ガイドも求められそうです。
ただし、この組織形態で人材マネジメントする以上、次世代経営者の育成は機能別組織内では難しそう。もちろん、どんな組織でも次世代経営者の育成は困難の極みですが、経営視点をもたせることが難しい機能別組織はなおさらです。
どうすべきか。
関連会社をつくって経営経験を提供したり、経営人材を外から採用したり。
複数の打ち手を同時に走らせながら、時間を見込んで計画的に実行することが必要です。
その場合、役割分担が難しいところ。
だれが、この役目を担うのか。
利害関係とモロに被るケースも多いので、「自分<会社」の視点で考えることが大事ですが、まぁ綺麗事になってしまうので、こういう視点でストーリーを語れる稀有な人材を活用するしかないとないと思います。
進言すれば否定できる話でもないし、聞いてしまった以上は放置できない。
習慣・ルーティンのアジェンダとして、しつこいくらい情報共有と提案の場をつくり、じっくりと攻める作戦を、自分なら取ります。