『労政時報4036号(2022年6月10日発行)』にて「等級制度と昇格・昇進、降格の最新実態」を読みました。
従来型の日本企業とスタートアップの違いを理解する上で、従来型の日本企業の人事制度、特に等級制度の実態を把握するのに的を得た調査かと。
主要なデータを引用しながら、考えてみます。
調査要領
調査対象と集計対象の定義は以下。
調査名:「等級制度と昇降格に関する実態調査」
▼調査対象
全国証券市場の上場企業3177社と、上場企業に匹敵する非上場企業(資本金5億円以上かつ従業員500人以上)2529社の合計5706社。
▼集計対象
回答のあった197社
▼調査期間
2022年1月28日~3月24日
昇格の候補者決定に「滞留年数」が考慮される割合は、51.5%
自分がスタートアップで昇格を設計する場合、基本は「等級要件に照らして再現性の観点でクリアする」ことが昇格の条件となります。
では、日本企業ではどうなっているのか。
人事評価の他に、「年齢・入社年次」、「勤続年数」、「現等級の滞留年数」が一定のケースで考慮されています。
これが、いわゆる「年功」につながる要素です。
ちなみに昔読んだ本で「年功」とは、本来「年と功(功績)」を意味しているが、いつのまにか「年の功(功績)」になってしまった、というような内容が書かれていたことを記憶しています。
「年」は「経験」に近い概念で、豊富な経験を積み、その経験を活かして功績を残す、がメッセージだったのに、年齢を重ねること自体に「功」を感じる時代になってしまったかと思います。
昇格(昇進)の候補者決定において考慮する要素(複数回答)
ー (社)、% ー
区分 | 一般社員層内での 昇格(昇進) | 一般社員から管理職 への昇格昇進 | 管理職層内での 昇格(昇進) |
---|---|---|---|
合計 | (194)100.0 | (195)100.0 | (194)100.0 |
人事考課の結果 | ①91.8 | ①90.3 | 82.0 |
多面評価の結果 | 12.9 | 20.0 | 20.1 |
年齢・入社年次 | 35.6 | 25.6 | 18.6 |
勤続年数 | 29.4 | 17.9 | 13.9 |
現等級の滞留年数 | ③51.5 | 37.4 | 29.9 |
新たに就く職務の 内容・レベル | 25.8 | 32.3 | 33.5 |
新たに求められる役割の難易度・責任範囲 | 26.3 | ③45.6 | ③47.9 |
上司からの推薦 | ②72.7 | ②77.9 | ②69.1 |
転勤・職務異動履歴 | 4.1 | 6.2 | 4.6 |
一定の職務上の経験 | 17.5 | 16.9 | 14.4 |
研修・セミナーの 受講歴 | 9.3 | 10.3 | 6.7 |
その他 | 5.2 | 5.1 | 4.1 |
一般社員層で昇格の候補者を決定する際、約5割の会社で滞留年数が考慮されています。
現等級に数年間、滞留していることで成長が担保されているという期待かもしれませんが、実力主義とは呼べない考え方だと思います。
自分は、スタートアップの等級制度設計で「滞留年数」も「年齢・入社年次」も「勤続年数」も考慮しません。
ただし、役職者のパラシュート人事による不安がぬぐいきれないケースでは、昇進に関して「勤続年数」を設定することがあります。
「入社後6ヶ月間を鑑みて、役職者に登用する」というルールで、つまり勤続年数6ヶ月が昇進決定に考慮する要素という意味です。
部長クラスの平均年齢は、52.7歳
この数字をどう見るかは人によって違いがあると思います。
「人」というより世代や年齢の方が適切かもしれません。
自分には、数字から実力主義を感じることができませんでした。
現在役職に就いている人の年齢(平均) ※表は一部加工
区分 | 社数 (社) | 在職者平均 (歳) | 最年少者 (歳) | 最年長者 (歳) |
---|---|---|---|---|
係長クラス | 155 | 43.6 | 33.2 | 56.3 |
課長クラス | 176 | 48.0 | 38.3 | 57.4 |
部長クラス | 176 | 52.7 | 45.9 | 58.7 |
もちろん、企業規模が大きいゆえ、役職者に求められる能力やスキルが高い傾向にあり、一定の経験値が必要になっていると考えられますが、大卒22歳で入社して運よく部長になるまでに30年って長いな、って感想です。
自分が仕事をしているスタートアップの役職者は、本当に優秀な方が揃っているんだな、と改めて思いました。
79.5%は「若手優秀者の早期抜擢に関する取り組み」を実施していない
若手優秀者の早期抜擢をしていないではなく、「早期抜擢に関する取組み」を実施していない、です。
従来に日本企業が考える「若手」には幅がありそうなので、そもそも認識のズレが生じている可能性はありますが…
若手優秀者の早期抜擢に関する取組み ※表は一部加工
ー (社)、% ー
区分 | 規模計 | 1,000人以上 | 300~999人 | 300人未満 |
---|---|---|---|---|
合計 | (185)100.0 | (76)100.0 | (69)100.0 | (40)100.0 |
実施している | 20.5 | 26.3 | 23.2 | 5.0 |
実施していない | 79.5 | 73.7 | 76.8 | 95.0 |
8割の会社で「実施していない」という結果です。
要は「若手の早期抜擢はしない」と読み取って、大きく間違っていないと思います。
「早期抜擢」という二重の意味を感じるワーディングにも違和感はありますが、「年齢」や「勤続年数」に比して「早い」という考え方は、そろそろやめてもいい気がします。
「年齢に関係なく、優秀であれば、責任・影響のあるポジションに配置する」では、ダメなのでしょうか。