スタートアップが人事制度を必要とする理由

スタートアップが人事制度を必要とする理由は主に5つあります。

この理由は、クライアント、主に経営者から実際に教えてもらった理由です。

 

(1) 採用力強化

人事制度を導入する前には、あまり気づかない観点です。

採用プロセスで、候補者に人事制度について説明すると、入社を後押しする魅力になります。

スタートアップにジョインした後、自分の給与は上がっていく可能性はあるのか。

人事制度が無ければ、それは分かりません。

不安になります、ましてや、入社時に現年収を下げて入る場合は。

 

ほとんどのスタートアップに就業規則はあります。

しかし、人事制度はありません。

差別化になります。

 

(2) リテンション

人事制度は人材のリテンションにも効果的です。

もちろん、きちんとした人事制度が設計されており、うまく運用されていることが前提です。

給与が上がらず、感謝や改善ポイントが伝えられず、成長も感じられない環境で、長期的に働くことは困難です。

昇給、評価(フィードバック)、昇格、こうした人事制度があることで上記の環境を改善してくれます。

 

(3) バリュー浸透

多くのスタートアップでは、バリューが定義されていると思います。

このバリューを人事制度に連動させると、バリューの理解と浸透を促すことができます。

表彰やカルチャーデック(内でバリューを説明する)など、バリュー浸透施策がありますが、人事制度上の行動評価にバリューを連動させ、振り返り・フィードバックすることが、バリュー浸透に最も効果的である、が自分のスタンスです。

また設計フェーズで、バリューを行動評価の基準に翻訳(言語化)するプロセスも、主に設計をリードする経営陣やマネージャーのバリュー浸透に大いに役立ちます。

 

(4) 期待の擦り合わせと振り返りの標準化・仕組み化

人事制度は、いわゆるマネジメントの一部を標準化・仕組み化することに貢献してくれます。

具体的には、社員に期待することが等級(人材レベル)毎に言語化された等級要件、バリューに連動した行動評価基準、目標設定・人事評価のガイドラインなど、主に等級制度と評価制度を使って、期待を擦り合わせ、その結果を振り返ることが、標準化・仕組み化されます。

 

人事制度がないと、期待の擦り合わせと振り返りの基準と方法は、経営陣やマネージャーそれぞれの能力や価値観、経験に左右されがち。

会社の目指す方向や期待することがメッセージングされず、バラバラの組織づくりが進んでしまいます。

人事制度は、こうした事態を緩和してくれます。

 

(5) 報酬資源の最適配分と報酬決定における心理的負担の軽減

限られた報酬資源を、誰にどう配分するか。

実績・貢献・実力と報酬をマッチさせることは、経営とマネージャーの最重要な役割。

この役割を果たすための仕組みが、人事制度です。

 

人事制度がなければ、鉛筆をなめて個々人の報酬を決定しなければいけません。

これでは最適配分は難しい。

人は好き嫌いの生き物なので。

 

もし、最適配分できたとしても、納得感を醸成できる説明はできません。

そもそも、そんなオリジナルな言語化を給与改定のたびに実行するのは、負担が大き過ぎます。

この負担は、物理的な負担だけでなく、心理的な負担も相当。

「あの人にこの説明したら、こう言われそう」「これじゃ納得してくれないだろうな」「この人の給与がこれだけ上がっているっていう情報が洩れたら、どうしよう」

不安は尽きません。

人事制度はこうした心理的な負担を軽減してくれます。

もちろん100%解消はできませんが、いざという際に説明責任を果たせる状態にはもっていけます。

組織づくりには、この説明責任はマストです。

 

もう少し抽象的にまとめると、人事制度はスタートアップが仕事に集中できる環境づくりに貢献できます。

要は、お金のことに対する不安・不信を取り除き、ユーザー・顧客・社会的価値に意識を方向付け、集中できる状態をつくることに役立つという意味です。

 

人事制度の設計・導入・運用には、ものすごい負担を伴います。

時には痛みを伴うことも。

しかし、長期的に考えれば、ミッション実現に向けた十分なリターンがあると考えています。

 

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