MVP、Minimum Viable Product の略。
「必要最小限の価値を備えた商品やサービス」で、リーンスタートアップに出てくる考え方。
人事制度の場合は、MVS、Minimum Viable System が正しいかもしれません。
最近、クライアントと話している中で、この MVS への認識がズレやすいことに気づきました。
60点の人事制度
人事制度を初めて導入する企業に対して、自分が人事制度を設計する際のポリシーは、「必要最小限の人事制度を早めに導入して、実際の運用を回しながら改善する」です。
100点の人事制度を時間をかけて導入するよりも、60点の人事制度を早く導入したい、と考えています。
制度導入に失敗した際、負の影響が大きいのでもちろんプロジェクトは慎重に進めますが、「あれもこれも」となってズルズルとスケジュールを遅らせることがないようにしたい、という意図があります。
ただ、最近「60点」や「100点」の基準が相手(クライアント)と揃っていないかも、と思うことがありました。
自分としては「今は、それで充分」「今のタイミングで、そこまでは必要ない」「逆に、今そこまでやると問題が起きる」といった発言があり、「そもそも…」と考えると、この基準が擦り合っていなかったということに気づいた次第です。
決して「中途半端なものをつくろう」といっているわけではありません。
QCD のバランスを考えると、現時点では「60点」と思えるぐらいの人事制度がちょうどいい。
適度・適切である、という意味です。
論点を絞って、人事制度における MVS(Minimum Viable System) について考えてみます。
等級制度の MVS
全社共通の等級要件を作成したら、できれば人員数が多い職種のみ、職種別等級要件を設計できると Good です。
よくあるのは、ソフトウェアエンジニアとセールスの2職種です。
この2職種について要件が具体化されていれば十分です。
人員が少ない職種まですべてを網羅する必要はありません。
等級の上げ・下げ、つまり昇格・降格についても、昇格の基準を言語化することに集中します。
わかりやすい基準は、等級要件を入学要件で満たすこと。
満たす=再現性がある、敢えて数値化すれば8割ぐらいのケースでできていること、で十分です。
あとは等級を判定する方(評価者)に任せましょう。
降格について、よく評価制度と連動させて「低評価を●期連続でとった場合は降格」といったルールが設計されますが、人事制度を初導入するタイミングでここまで設計する必要はありません。
等級要件に満たない場合は、降格の対象者としてアラートを伝え、6ヶ月間の見極め期間を設定し、判断します。
そもそも、降格する人材を採用しないように工夫する方が大切です。
評価制度の MVS
目標設定型の成果評価と定性型の行動評価の2軸で制度設計します。
特に MVS の認識ズレが起きがちなのは、行動評価の基準設計のところ。
「定性評価ゆえ、評価が難しい。だから基準は詳細につくるべき。等級別に基準も必要だし、職種によっても分けた方が良い」と意見が出ます。
まったくその通りなので「GoGo」となりますが、これは自分からすると100点ではなく、120点レベルの制度設計です。
初導入のタイミングで、まだ自社で評価制度を運用したことがない方が、ここまで詳細な基準を設計することは、ほぼ無理で、設計で頓挫するか、無理やり設計して、後で問題になるか、のどちらかに突き当たります。
このタイミングでは、評価基準は全等級・全職種一律でやることをおすすめします。
行動評価には自社のバリューを反映させることが多いですが、そのバリューの理解を促すためにも評価基準は複雑にしないことがポイントです。
自社の全メンバーに求められるバリュー体現を姿を言語化しましょう。
等級や職種に関わらず、本質的なバリュー体現の姿が見えてくるはずです。
報酬制度
5年前のスタートアップ環境であれば、報酬レンジは1つで十分でした。
ただ、現在の人材環境を考えると、やはり報酬レンジは2つ用意する方が賢明です。
エンジニアや PdM など市場価値の高い職種とその他の職種で報酬レンジをわけます。
スタートアップにとって採用は、経営の中で最重要の領域。
報酬設計が、採用のボトルネックになってしまうことは避けなければなりません。
そのためにも、市場を踏まえた報酬水準の設定が必要です。
ただし、3つや4つなど、2つ以上に分けると管理・運用の観点で莫大なコストがかかりますので、制度導入の初期タイミングでは、2つで十分だと考えています。
制度初導入の際、「必要最小限」の意味について経営、人事、全社員で認識を揃えておきましょう。
期待値調整、大事です。