人事制度を導入した結果、「組織がギスギスになった」「制度導入を理由に退職者が増えた」などが起きれば、その制度導入は失敗だった、と言われるかもしれません。
なぜ、こうした事態に陥ってしまうのか。
絶対に外してはいけないポイントを1つ絞りました。
※人事制度を初めて導入する「50名程度」の組織規模を前提に考えました。
個人の等級決定をミスると、致命傷
等級、評価、報酬の3本柱で構成される人事制度。
(参考:人事制度の構造)
制度の目的は、個人の報酬を適切に決定することです。
この報酬決定の主な根拠になるのが等級で、報酬レンジ(上限と下限)を決定します。
経験上、制度導入に失敗したケースを振り返ると、個人の等級が正しく判定できていなかったがゆえ、「組織がギスギスになった」「制度導入を理由に退職者が増えた」が起きます。
具体的には、本来4等級と等級判定される人材が3等級と判定されたり、逆に本来3等級の人材が4等級と判定されたり。
個人の等級は、全社に公開することをポリシーにしていますので、本人からすれば「なんで自分は3等級で、あの人が4等級なの」、他者からすれば「え、〇〇さんが3等級?4等級の実力、十分にあるでしょ」といったサプライズがそこらじゅうで起きます。
等級判定でミスるとリカバリーが難しい。
というか、ほぼリカバリーできません。
一度、崩れた信頼関係はそう簡単に元に戻せませんので。
仕事ができるメンバーほど、信頼を立て直そうとするよりも、自分をきちんと(=高く)評価してくれる、つまり自分を認めてくれる他社へ行ってしまいます。
制度導入時の等級決定に「まずはやってみよう」が厳禁です。
マネージャーを任命した経営の責任
シンプルにいってしまうと、等級判定をミスる原因は、マネージャーがメンバーの等級を正しく納得感ある形で判定・言語化できなかった、ということ。
では、なぜそれができなかった?
自分の仮説では「等級要件という制度上の判定基準を無視して、マネージャー自身の経験と価値観で等級判定してしまった」です。
- 自分は、こうやって成果を出してきた
- あのやり方は、絶対にダメ
- こうすれば、絶対に成果は出る
すべて間違っているわけではないのですが、等級要件とは違っているのです。
メンバーが見ている基準と異なる基準で等級を判定されるので、相手本人も判定の理由がわかりません。
1on1で話し合っても、基準がお互いにズレているので擦り合わせが難しい。
ただし、マネージャー自身に問題があるのは当然ですが、マネージャーを任命した経営の責任を考えるべきです。
ここでマネージャーをスケープゴートにしてはいけません。
そのマネージャーを任命した時点で、正しい人材評価ができていないわけで、それが上流から下流に向かって流れただけ。
本当の原因(問題)は、経営の人を見る目(目利き)です。
制度導入時の等級判定は慎重にやるべき
おそらく多くのケースでは、直属の上長が等級判定すると思います。
その結果は、グループまたは全社で擦り合わせ会議を行い、全員分の等級について検証が必要です。
すべての等級判定者に集まっていただき、一人一人の等級判定について意見を交わします。
この際、報酬の話を一緒にしてしまうと複雑になってしまうので、まずは等級の議論に集中することをおすすめします。
あとできれば基準となる等級要件は、全社共通の要件とは別に、職種別要件を準備しておくこともおすすめです。
特に等級判定者が複数名になる人数が多い職種は、判定目線のズレ防止に役立ちます。
こうしたできあがった全社員分の等級判定の結果。
この結果に対して、責任を持つのは経営陣(究極的には経営者)です。
腹を括りましょう。
あとは、マネージャーに任せた、ではいけません。
説明はマネージャーであっても、経営が承認を下す意識を強くもつ必要があります。
メンバーは、あなた(方)の会社にジョインしてくれたのです。
最後に、マネージャーが等級判定を通知・説明した後、人事は当人たちにその理解度・納得度を確認します。
ヒアリングでもアンケートでも構いません。
メンバーはきちんと納得感ある説明を受けたのか。
もし、Yes とは言い切れない or No であれば人事が理由を確認し、対策を講じます。
説明が伝わっていないだけなのか、そもそも判定が怪しいのか、別に問題がありそうか(等級判定は正しいがマネージャーとメンバーの信頼関係に大きな問題がある、など)。
人事制度は、車のようなもの。
どんなにいい性能の車であっても、運転でミスると事故が起きます。
大惨事にならないよう、最新の注意を払って走り出すことが肝心です。