人事制度が形骸化する瞬間

人事制度は、等級制度、評価制度、報酬制度の3本柱で構成されます。

等級を決め、評価し、報酬が決まります。

分かりやすい言葉を使えば、期待を示し、振り返って、対価を支払う。
(参考:「人事制度の構造」)

人事制度の中で理解しにくいのが、等級制度と評価制度の位置づけ(2つの制度の違い)です。

  • 等級(人材レベル)を評価する仕組みが、評価制度?
  • 等級を評価して、報酬を決定する?

等級は名詞、評価は動詞、の印象が強く、この流れで制度を理解しがち。

この2つの制度の違いがうやむやなまま、制度設計が進み、運用に入ると人事制度が形骸化します。

よく起きること

等級制度、グレード制度、ミッショングレード、ジョブ、役割等級制度、など様々な名称で、等級制度が設計、運用されます。

等級制度でよく起きることは、定義された等級要件、例えば3等級で「自律的に仕事ができる」といった等級要件が設定され、その要件を評価制度上で評価し、報酬に反映されること。

評価は、6ヶ月に1回が主流かと。

6ヶ月毎に、等級要件に照らして評価し、「できている」「できていない」と評価者からフィードバックされます。

運用の過程で、こんな声を聞きます。

  • この6ヶ月はすごかった。過去最高の評価だった。でも、等級を上げて(昇格させて)、報酬をガツンと上げるほどではない。でも、この6ヶ月間にはきちんと報いてあげたいので、昇給させたいが、制度で決まっている昇給額ほど上げる必要はない。
  • この6ヶ月は期待には満たなかった。おそらく、この期間の種まきが次の6ヶ月で成果に結びつきそう。今期は残念だったけど、来期は期待できそう。評価としては △ だけど、等級を下げるほどではないし、報酬を下げるまでではない。

原因は、等級制度と評価制度の切り分けが整理されておらず、ごちゃまぜになっていること。

見るべき「期間」が違う

評価制度を設計する際、「評価期間」という設計項目があります。

3ヶ月に1回? 6ヶ月に1回? 12ヶ月に1回?

6ヶ月に1回が多いパターンかと思いますが、自社のOKR運用に合わせて3ヶ月に1回の頻度で評価もしたり、運用の負担を下げたいということで12ヶ月に1回というケースもあります。

(参考:「評価期間」)

大事なことは「6ヶ月に1回評価する」という頻度はもちろん、「6ヶ月間の評価である」という期間の概念です。

意外にも、この概念が抜け落ちていることがあります。

評価制度で見るべき期間は、この制度で決められた3ヶ月なり、6ヶ月なり、12ヶ月であり、その期間でどれだけ成果を出したか、求められる行動を発揮できたか、を評価します。

例えば、6ヶ月の評価期間で、1-6月を上期、7‐12月を下期、とした場合、上期は最高だったけど、下期は最低、ということもあり得ます。

一方、等級制度で等級を判定する(敢えて「評価する」という言葉は避けました)際、判定の根拠とする期間は、どれくらいでしょうか。

頻度の話ではなく、期間の話です。

評価制度と同じ6ヶ月間?等級制度は、評価制度とは別に期間を設定する?

いえ、違います。

等級制度で、等級を判定するための根拠に使う期間は、その人が入社してから今に至るまでの期間です。

3年間の在籍期間があれば、3年間、その人の働きぶりや成果を、等級要件に照らして等級を判定します。

もちろん等級制度と評価制度で、それぞれ判定・評価するための項目や基準、プロセスにも違いはありますが、これは見ればわかるので、認識ズレが起きることは稀。

ただし、期間について明確に言語化されていなかったり、そもそも設計者が理解していないこともあり、等級と評価がごちゃ混ぜになっているケースがあります。

報酬決定の場面で、人事制度が形骸化していく

等級制度と評価制度が混在した仕組みだと、上記で紹介した声のように「6ヶ月は最高の活躍だった。だから昇給させたい。けど、等級を上げるほど大幅に昇給させるほどではない」というジレンマに陥ります。

ほとんどのケースで、制度で決まっている昇給ルールを反故し、鉛筆をなめることになります。

制度が形骸化する瞬間です。

これだけ労力をかけて制度を設計・運用し、評価をしたのに、最後は議論と合議で報酬が決まる。

人事制度って何だ、と迷路に迷います。

等級制度と評価制度は別の仕組みであり、人事制度という構造の中で連結するものです。

自社における人材レベル(等級)を、入社後の期間を見て判定する仕組みが等級制度。

6ヶ月間の成果や行動発揮を通じた自社への貢献度を評価する仕組みが評価制度。

それぞれ独立した仕組みをつなぎ、最終的に個人の報酬を決定するのが人事制度。

この構造が理解できていないと、等級制度や評価制度をうまく作り込んでも、最後の報酬決定で制度の形骸化を招く結果になります。

等級判定と人事評価における「期間」の概念をきちんと理解し、組織に周知していくことをおすすめします。

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