1on1でコミュニケーションを取る際、『ヤフーの1on1』でも紹介されている3つの「働きかけ」を意識的に使えると、1on1をスムーズに進行できて、お互いの認識の擦り合わせにも効果的です。
3つの「働きかけ」とは、ティーチング、フィードバック、コーチング。よく耳にする言葉ですが、その定義はそもそも曖昧だったり、人によって違っていたりするもの。そこで意味と使い方を整理します。
ティーチング:正解を教える
ティーチングとは「教える」こと、つまりそこには正解となるルールややり方が決まっています。
例えば、会社の就業規則で決まっている諸々のルールや社会一般的なルール、これを「教える」ことがティーチングです。
ティーチングでは、相手が知らなかった知識や技術を獲得することが目的となるため、相手が自分で考えても分からない場面(要は知っているか、知らないか、の場面)で働きかけることが望ましいです。
あと大事なことは、ティーチングの場面では「教えて終わり」ではなく、自分で調べる方法や自分で学ぶ方法まで教えること。つまり、ティーチングの再発防止に向けた仕組みをつくることです。
経費精算のルールを教えることになった場合に、ルールを「教えて終わり」ではなく「このフォルダに会社のルール全般が整理されているから、もし分からないことあったら確認してみるといいよ」、「入社オリエンに経費精算の説明パートに入れておこう」など。
こうやってティーチングの場面を組織的に減らしていきます。
フィードバック:意見(正解ではない)を伝える
次にフィードバック。「伝える」ことです。
正解となるルールややり方に照らして教えるのではなく、自分が素直に感じたことを相手に「伝える」ことを意味します。
「どういう状況で、どんな行動・振る舞いの結果として、自分は何を感じたのか?」を相手に「伝える」こと、ときに相手にとって耳の痛い内容になることもあります。
このフィードバックの目的は「自分がどう見られているか?」を知ることであり、相手が気づいていなかったり、認識の違いがありそうな場面で使います。
1on1での「働きかけ」として紹介していますが、原則はリアルタイムフィードバック。つまり、その場でフィードバックすべき事象が起きればすぐにフィードバックすることが大切です。
自分の経験としては、フィードバックがうまいと思う人は、厳しいこともその場でストレートに言ってくれる人。もちろん言い方には細心の注意を払って。そして変なフォローや無駄な褒めをしない。
このフィードバックを通じて、自分が改善することにコミットできる気がします。
一方で、厳しいこと言われているのに「でも~の件は助かっているから」とフォローされたり、「~は良かった」と褒められると、改善してほしいのか、褒められているのか、が分からなくなります。フォローがフォローになってなかったりもして、気を遣われている自分が情けなくに感じることも。
中途半端に、良いことはありません。
コーチング:意見(正解ではない)を引き出す
最後にコーチング。これは「(質問や傾聴を通じて)引き出す」こと。
自分の考えや思いに自分自身で気付くことを他者がサポートしてあげることです。
「教える」でも「伝える」でもなく「自分自身で気付く」という点がポイント、よってコーチングする場面は、相手が自分で考えれば分かる場面、または気付く場面ということになります。
そして、コーチングでは沈黙の時間が非常に大事、自分自身で考えて気付く間の沈黙はまさに成長している時間です。
この沈黙の時間に耐えられず、話しかけたり、安易にフォローすることはご法度。もし、考えても何もアウトプットされない場合は、本人の問題ではなく、 相手のレベルを見極めることができていないという意味で質問した方の問題と考えます。(コーチングでなく、ティーチングすべきだったのかも)
またコーチングがうまくいっていることを証拠付ける発言として「今、自分で話していて気付いたんですけど~」があります。この発言が出ればコーチングはうまくいっています。
まさに「気付く」瞬間を自分で説明している場面であり、こういった発言が自分の1on1で出ているかどうか、振り返るために使ってみてもいいかもしれません。
3つの「働きかけ」を使い分ける
1on1で大事なことは、この3つの働きかけを効果的に使い分けること、そして自分と相手がお互いに今話していることが3つのうちのどの「働きかけ」を意図しているかを共有できていること、です。
例えば、ティーチングすべき場面でお互いに「これはティーチングだよね」という共通認識を持てている、これが理想です。その理由は、この共通認識の有無で、働きかけに対する相手の腹落ち度が変わってしまうからです。
フィードバックすべきなのにコーチングしてしまう
よくあるのは、フィードバックすべき場面(相手が問題に気づいていない & 自分で考えても想像が及ばない場面)なのにコーチングしてしまうケース。
「あなたの発言を、他の人がどう感じたか、考えてみてほしい」という質問で相手の考えを引き出そうとコーチングしたときに、以下の状況に陥り、1on1が非常にネガティブな場になってしまうことがあります。
- 考えを巡らせても分からず、悶々とさせてしまう
- 誘導尋問にように相手に問題があったと言わせてしまう、もちろん本人は納得していない
コーチングが悪いのではなく、使う場面が違っており、効果的な働きかけができていないということです。
質問した人は「考えさせることが大事!」「自分で気づかないと意味がない」と思うかもしれませんが、このケースでまずやるべきはフィードバック。
「あなたの発言で他の人はモチベーションが下がったみたい、私もネガティブな気分になりました」という素直な気持ちを伝えることです。
その後に相手の理解度や納得感を見極めながら問題や原因についてティーチングするか、コーチングするか、を決めていきます。
フィードバックした後のタイミングで「自分で考えれば気付いてくれるだろう」と期待できればコーチングする。期待できない場合はフィードバックする、またはティーチングするという流れになります。
フィードバックをティーチングとして受け取ってしまう
他には、フィードバックしている場面なのに、相手がティーチングと捉えてしまうケースがあります。
フィードバックは自分が感じたことを相手に素直に伝えているだけであり、それが正解というわけではありません。
しかし、ティーチングと捉えてしまうと相手の意見や気持ちが「正解」と解釈されてしまい、自分が強く否定された感覚に陥ってしまいます。
こうした事態を避けるために、働きかけに関する共通認識をつくることが大切です。共通認識をつくる簡単な方法として、1on1をやり始めた頃は共通認識をつくる枕詞を置いてコミュニケーションすることも有効です。「これはティーチングだから覚えておいて下さい、これは~」とか、「今から話す内容はフィードバックです。「伝える」ということです。まずは受け止めて下さい、この前の~」とか、「コーチングしてみます。自分で考えてみて下さい、~はどうだった?」とか。
少し面倒ではありますが、1on1導入期の限定施策ということで、慣れてきたら枕詞をなくしていく流れがいいと思います。