スタートアップの20-30人ぐらいのフェーズで、セールスメンバーのインセンティブを導入すべきか、議論する機会があります。
新入社員から「セールスのインセンティブはありますか?」という質問を受けたり、創業者自身がセールス職出身でインセンティブがモチベーションの一部になっていたり、キッカケは様々です。
ストックオプションは、全社員に対するインセンティブですし、スタートアップであれば当然の報酬施策のため、導入自体に迷いはありません。一方で、セールスインセンティブは特定の職種だけの報酬施策のため、迷いが生じます。
そもそもセールスインセンティブを導入する主なメリットは、①人件費の変動費化、②セールス職の短期的な動機付け、です。報酬項目による採用広報も効果としてありますが、金額次第で期待外れのネガティブ施策にもなってしまう諸刃の剣なので、いったんここでは外しましょう。
セールスインセンティブは導入しないことを推奨
主な理由は2つです。
① 運用コストが高い
導入時は、何となく「MRRやARRが~だったら、~万円ぐらいを還元しよう」と考えます。セールスメンバーも自分にとって短期的にはメリットになる施策のため、ポジティブに受け取ります。
導入して6ヶ月ほど経つと、会社が右肩上がりで成長しているときこそ、MRRやARRの基準を上げようという意見が出ます。「Churnは?」「顧客満足は?」など、お金に直接的に関係するルールゆえ、考慮してほしい指標も増えてきます。複雑性は高まります。一方、インセンティブ額を上げることは、そう簡単に意思決定できません。支給額を上げようとはなりにくいのです。成長している企業こそ、プロダクトやオペレーション等、自社のレベルが上がるため、一人に求められる成果も上がります。もちろん金額を上げると他職種とのバランスにも不安が生じます。
セールスメンバーにとっては、求められる成果は上がる一方でインセンティブ額が上がらないとなると、制度に対して不満を持つようになります。そして、このやり取りが半年ごとに発生します。企画と説明の時間コストが高く、さらには説明側のマインドシェアが奪われ、事業に集中しにくい状態になります。これは避けたい状態です。
② 理解できても、納得できない
他職種(エンジニアやCS、コーポレート)のメンバーは、セールスインセンティブについて理解はしてくれます。セールス職の成果の見えやすさや世間一般的な印象もありますので。ただし、感情面で納得はしてくれません。「言っていることは分かるけど、自分たちにインセンティブはないんですか?」と心の中でぼやいています。
給与制度で難しいのは、説明は理解できても感情で納得できないことが簡単に発生すること、そして本人はそのことを面と向かって発言しにくいことです。発言しても、否定されることは何となく分かるし、お金のことで主張しているとも見られたくなしし、というのが人の気持ちです。
小骨が喉に刺さっていると、小骨が無ければ気にしないような些細なことも気になり始めます。特に給与制度に関して、自分の意見を主張しないと損するのでは?という不安が生じます。これが積み重なると、お互いの信頼関係が希薄化して重箱の隅をつつくコミュニケーションにつながります。これも避けたい状態です。
代替案は?
スタートアップのインセンティブは、やはりSOが相応しいです。スタートアップならではの報酬制度ですし、そもそも中長期的な戦いが待っています。荒波を乗り越えて、みんなで恩恵を分かち合う。シンプルで分かりやすいセオリーです。リスクを取って入社してくれたメンバーをきちんと報いる制度になっていると自信をもって説明できるようにしましょう。