「個人の等級(グレード)は公開する?」で個人の等級を公開することをおすすめしました。
給与レンジや昇給テーブル等の給与制度の公開についても質問を受ける機会が多いので、こちらも自分の考えをまとめてみます。
仕事に集中できる環境をつくる
「公開する・しない」を考えるための基準について考えます。「公開する・しない」の結果として、自分たちがどういう状態になりたい?という ToBe を考えることです。
制度設計する際、常に意識していることは人事制度を通じて「仕事に集中できる環境をつくる」ということ。不安、不満、怒り、しがらみ、嫉妬など、仕事への集中を阻害する要因をなるべく無くして、自分の仕事や会社の成長に集中して取り組める、そしてその状態を (大変だけど・つらいけど) 楽しめる状態になっていることが、自分の考える基準です。
この状態に近づくために効果的な施策であれば Go だし、そうでなければ Go ではありません。
情報の非対称性をなくす
なるべく情報はオープンにして、組織内における情報の非対称性をなくすことはスタートアップの組織運営の鉄則です。
スタートアップはスピードが生命線。このスピードを担保するのは、人材レベルと情報です。いい人を採用する、必要な情報を共有する、やり切る、がスタートアップの成長に貢献します。
この際、情報の非対称性が高いと、説明コストがかかってスピードが落ちます。また、腹落ちできずに実行することになり、「やり切る」ことができません。
給与レンジや昇給テーブルは公開する
給与レンジや昇給テーブルは「仕事に集中できる環境をつくる」「情報の非対称性をなくす」ために公開することをおすすめします。
給与レンジや昇給テーブルは、隠されれば隠されるほど気になります。
- なぜ会社は給与レンジや昇給テーブルを公開しない?
- 給与水準が低い?
- キャリアアップしても将来的に年収が上がらない?
- 高評価を取っても昇給しない?
- 低評価だと給与が下がる?
- 給与について、方針やルールがない?
- 自分たち(経営陣)だけ、多くもらっているのでは?
- 報酬の市場水準は把握できている?
年1-2回の給与改定のタイミングで、こういった不安な気持ちにさせるだけでも仕事への集中を阻害する要因になります。
そして、フィードバック面談で給与について個別に質問されて対応することになります。この時間は、会社の成長にとって価値を生んでいるとは思いません。お互いの関係性を悪くする時間になってしまう可能性もあります。
一方で、公開しない派の声は、例えば次のような内容です。
- 一度公開してしまうと、非公開にしにくい
- 公開した後に数字を変える場合、説明責任が伴う
- 給与レンジや昇給テーブルを見て、その金額に納得してもらえるか分からない
その通りだと思います。
ただ、公開しないことで不安な気持ちを引き起こしたり、個別対応にマネージャーの時間が奪われたりするなど、仕事に集中できない状態をつくる方が問題だと思います。
結局、非公開にしても常に情報が洩れるリスクはありますし、実際に給与レンジや昇給テーブルの断片情報が洩れていきます。「自分は月で3万円上がった」とか「3等級はだいたい年収が600万ぐらいらしい」。こういう断片情報が、誤った情報として伝わることも負の影響が大きいです。
環境に応じて制度変更することは当然のことであり、変化していくことを組織として経験することも成長に必要です。変わっていくマインドセットを、人事制度の側面からの強化していくイメージです。
【余談】人事制度を理解してもらうことは難しい
最近、痛感しています。人事制度を理解してもらうことは本当に難しいです。
ルールをつくっても、そのルールをいざ使うタイミングになって、理解が進みます。工夫して、うまく説明すれば、事前に対応できるのでしょうが、何ともここがうまくいきません。自分の説明方法やスキルを改善しないといけません。
ただでさえ理解が難しいのに、制度を公開せずに組織運営するのは、無理ゲーだと感じます。