入社時期の違いによる給与差をどう調整する?

スタートアップでは、入社時期が早いメンバーの給与が低く、後になるほど給与が高くなる傾向があります。あくまでも傾向です。

例えばシード期に入社したメンバーとシリーズBのタイミングで入社したメンバーは、同じ実力でも後者の方が給与が高くなるという話です。

主な理由は、豊富な資金、会社の知名度アップ、優秀人材への切実なニーズの高まり、です。これらが、それまでできなかった(またはしてこなかった)比較的給与水準の高い優秀人材の採用に繋がります。

ここで悩みとなるのが、入社時期の早いメンバーの給与が低く感じる場合にどうすべきか。個別に調整していいのか、本人にどう説明するのか、周囲にどう説明するのか、など、いくつかの観点があります。

人事制度における給与改定のパターンは3つ

自分が考える人事制度の型(カタ)において、給与改定のパターンは3つです。給与改定とは昇給・降給を意味し、主に昇給のことです。

  1. 評価に基づく給与改定 (評価昇給)
  2. 等級変更に基づく給与改定 (昇格昇給)
  3. 外部報酬データに基づく給与改定 (特別昇給)

1. 評価に基づく給与改定 (評価昇給)

評価昇給は、人事制度の対象となる全メンバーが、給与改定の対象者となります。

6ヶ月に1回など評価期間を定めて、その期間の最終評価に応じて給与改定します。例えば、SABCD評価でS評価は月給5万円の昇給(年収で60万)とか、B評価なら年収1%アップとか。

改定額のテーブルを金額で決めるケースもあれば、%(割合)で決めるケースもあります。

設計で工夫できるポイントは、S評価(最高評価)の場合、月給で「+5万円~」の「~」をつけること。「5万円から」という意味合いとなり、最高評価を取得したら昇給額を自由に決める余地を残すことができます。

2. 等級変更に基づく給与改定 (昇格昇給)

昇格昇給は、等級が上がる昇格者(または等級が下がる降格者)が、給与改定の対象者となります。

昇格者は、昇格後の給与レンジの下限値まで昇給します。例えば、3等級/年収500万で昇格し、4等級の下限が600万の場合、600万まで昇給します。評価昇給よりも昇給額が大きめに設定することで、昇格への動機づけを高めたり、昇格に報いることができます。

昇格者に限ってアドオンで昇給させることも制度化するケースがあります。昇格後の給与レンジの下限まで昇給した後、さらに昇給を検討します。特に、等級別の給与レンジが重複している場合、昇格前の年収が、昇格後の給与レンジの下限を上回っていることがあり、制度上は昇格昇給がゼロ円となります。

「昇格したけど昇給無し」は、マネージャーから伝えにくい点もあるため、追加の昇格昇給を検討する場合があります。ただし、昇格後の年収が適性と判断できる場合は「昇格したけど昇給無し」でも問題ありません。

3. 外部報酬データに基づく給与改定 (特別昇給)

特別昇給は、外部報酬データと比べて年収が低くなってしまっている方が、給与改定の対象者となります。

外部報酬データとは、公開されている報酬水準に関するデータや費用を払って入手する報酬水準データがあります。また、他社の求人情報も活用できますし、自社の採用過程で把握できた個別の報酬水準データも参考情報になります。

なるべく評価昇給と昇格昇給を活用する

本題である「入社時期の違いによる給与差の調整」は、なるべく評価昇給と昇格昇給で対応することをおすすめします。

3の特別昇給で対応することができますが、これを多用すると制度が形骸化する懸念があります。要するに評価や昇格といった実力以外の要素で、頻繁にまたは大きく給与改定が行われると、そもそも何のために評価しているのか、昇格しなくても給与上がるのでは、といった疑問の声が挙がってしまいます。

評価昇給では上記で説明した最高評価時の「~」を、 昇格昇給では昇格時の追加昇給を活用します。 この際、社内における他メンバーとの公平性(社内公平性)と社外の外部報酬データとの公平性(社外公平性)の両方の観点を気にします。

どちらの方法も、社内において高く評価されている人材であり、リテンションしたい人材であることは間違いありません。給与だけでリテンションするという意味でなく、給与で引き抜かれない状況をつくるための施策です。

給与が上がる人の気持ちを考える

特別昇給よりも、評価昇給と昇格昇給をおすすめする理由は、給与が上がる人の気持ちも考慮しています。

給与が上がる際の理由として「外部報酬水準が上がっているから」よりも「今期の活躍(評価)が素晴らしかったから」や「人材レベル(等級)が1ランクアップしたから」の方が、本人のやる気に繋がります。

会社・マネージャーはきちんと自分を見てくれている、と伝わります。自分自身でコントロールできる評価や昇格が理由であれば、自分次第で何とかなります。一方で、外部報酬水準は自分でコントロールできません。

3つめの昇給パターンである特別昇給は、評価昇給でも昇格昇給でも対応できないけど、明らかに実力と報酬水準(外部報酬水準)にミスマッチが生じている際の最終手段です。乱用はしませんが、こういうやり方も制度として持っておけると、いざというときに出番が回ってきたりします。

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