人事制度設計で最も肝になるのは、等級制度です。会社によっては、グレード、レベル、ランク、と呼ばれたりします。
坪谷邦生さんの著書『図解 人材マネジメント入門』では、等級を以下の通り定義しています。
人を何かの基準によってランキングするもの
等級制度は、ビジネスモデルや人事戦略、人材ポートフォリオなどを考慮して設計する必要があります。給与制度は、自分自身の経験や外部報酬水準、また自社の採用状況から一定の情報が得られますし、ある程度「こうせざるを得ない」との落としどころで決められます。一方で等級制度は、考えれば考えるほど様々なパターンやオプションが出てきて、沼にはまりがちです。
そこでスタートアップにおける等級制度の型を言語化してみます。イメージとして、主にテック系のスタートアップで10人から100名の組織規模を想定した制度です。
等級の数は「7段階(7等級)」
人事の専門家からすれば「等級の基準は能力?役割?職務(仕事)?」と基準から考えるかもしれませんが、シンプルに分かりやすく理解するために、数(段階)から考えてみます。
まずスタートアップで初めて等級制度を設計する場合、7段階の等級(7等級)があれば十分です。もちろん6段階(6等級)でも8段階(8等級)でも大きな問題になることはありません。この「決め」に理由を考えすぎると沼にはまるので、まずは7等級で進めましょう。足りない or 多い、となれば後で調整します。
等級の定義(等級要件)は「3等級」から考える
次に7等級をそれぞれ定義します。枝葉は任せるとして、幹となる定義を、思考プロセスと共に言語化してみます。
- スタートアップの初期フェーズで採用基準となる自律的に動ける人材としての「3等級」
- マネジメントの初級(リーダー/係長クラス)、または専門性の高いスペシャリストの初級、または3等級の延長にあるジェネラリストとしての「4等級」
- マネジメントの中級(マネージャー/課長クラス)、または専門性の高いスペシャリストの中級としての「5等級」
- マネジメントの上級(シニアマネージャー/部長クラス)、または専門性の高いスペシャリストの上級としての「6等級」
- トップマネジメントチーム(経営層の中心)としての「7等級」
- 未経験のポテンシャル採用枠としての「1等級」(未経験の新卒採用のイメージ)
- 一定のビジネス経験があり、指示の下で動ける人材としての「2等級」
スタートアップでは、スピードが勝負なので、求める人材(採用基準)は「自律的に動ける人材」である「3等級」です。等級制度を設計する際、この考え方を全社、特にマネージャーや経営陣で認識合わせすることが重要です。
会社によって4等級を課長クラス、5等級を部長クラス、6等級を本部長クラス、とイメージしたり、パターンは他にも出てくると思います。そこは自社の組織構造や人材に応じて考えるのも有りです。
役職と等級は連動させない
等級の基準は「能力だけ」「役割だけ」「仕事だけ」ではありません。能力も役割も仕事も、すべてが等級には詰まっています。具体的には、1-3等級は能力重視、4-7等級は役割や仕事が強く加味されます。
ポイントは、4等級以上で、組織上の役職(ポスト)と等級を連動させないこと。理由は、スタートアップは変化が速く(多く)、組織上の役職も状況に応じて変化させていくことが求められます。
その際、「役職を変えるので等級も変えます」となると「等級を変える=給与も変える」になるので、柔軟に変更ができなくなります。これを避けるために等級と役職を連動させません。そういう意味も込めて「課長クラス」といった「クラス」という表現を使いました。
会社によっては、完全に連動はしないけど、実質的には一部連動することにもなるので、緩やかに連動する、とメッセージングして分かりやすさを促すこともあります。例えば「部長は5等級以上」などと定義します。
職種別等級要件はつくれるなら、つくる
制度導入時に、職種別に等級要件をつくるかどうかも迷うポイントです。上記の等級要件を「全職種共通要件」とした場合、職種別に翻訳した要件が「職種別等級要件」となります。
将来的にはつくることになりますが、このタイミングでつくるべきか。その判断基準は「つくれる人がいる?」です。
等級要件を7段階でつくるためには、その道のプロが必要です。5-6等級の人材でないと、自社に求められる職種別の等級要件をつくることができません。
例えば、プロダクトデザイナー職の等級要件をつくるには、5-6等級のプロダクトデザイナーがいないと、納得感のある等級要件をつくることができないという意味です。
自社にとって重要かつ人数の多い職種では、職種別等級要件をつくることが効果的です。その職種別等級要件をつくることができる人材がいれば、つくることをおすすめします。