執行役員制度の本質は「雇用形態(雇用契約/委任契約)」という仮説

執行役員制度を導入しているケース、もしくは導入を検討しているケースで、この制度は組織の何を変えるのか、について自分なりの意見を持てていませんでした。

結局、この制度を導入しても何も変わらないのでは。

目的は何なのか。

なぜ、自分なりの意見が持てなかったのか、が何となくわかった気がします。

 

執行役員制度の狙い

教科書的には、経営職として責任・権限を付与し、経営と執行の分離を図ることが狙いとして挙げられます。

経営として全社・長期の戦略やビジョンに集中し、部門戦略の策定や実行の責任・権限を執行役員に移譲することで役割分担を図っていきます。

執行役員に特化した報酬制度を設計し、インセンティブを強化することも可能です。

 

取締役のように法律で定められたポストではないため、自由に設計できるため、各社各様の執行役員制度に仕上がっています。

執行役員という肩書はあるものの、執行役員の定義や任用・ポストオフの基準やルールが存在しないケースもあれば、本部長イコール執行役員として、レポートラインとしての本部長の役割を執行役員の役割と定義しているケースもあります。

 

以前、スタートアップで執行役員に任命された方は、やや極端な言い方でしたが、「執行役員になっても処遇面は何も変わらない。モチベーションが上がるくらい」と、承認欲求の充足程度の効果を語っていました。

 

自分も正直、この意見を否定することはできず、本質的に何が変わるのだろうか、という意見を持てていませんでした。

設計次第ではあるものの、執行役員制度を導入すれば、組織はこう変わる可能性がある、もしくは執行役員制度によってこういった課題解決ができる、というスタンスを取れていなかったのです。

 

理由は「雇用契約」が前提だから

執行役員制度に「雇用型」と「委任型」の2つがあることは把握していました。

いわゆる雇用形態の話で、雇用型は雇用契約、委任型は委任契約です。

 

雇用契約

会社の「指揮や命令」に従い、その時間や労力に対して「給与」を受け取る契約(労働基準法の対象で守られている)

 

委任契約

会社の指揮命令は受けず、自らの裁量のもとで特定の業務を任され、その遂行・成果に対して「報酬」を受け取る契約(労働基準法の対象外)

 

知ってはいるものの、どの会社でも雇用契約を前提としているため、「雇用契約ですよね」の一言でこの議論は終了していました。

 

しかし、改めて考えると”雇用契約だから”、執行役員制度の目的や狙い、効果が見えてこないのではないか、と気づきました。

結局、従業員扱いである雇用契約であれば、昇進(プロモーション)の延長として執行役員ポストができます。

人数も相対的に少なくなるため、経営陣のブラックボックスで鉛筆をなめやすい。

カッチリしたルールがなくても、プロモーションさせる場合は前向きな話だけで事が過ぎ去っていきます。

 

経営の中では執行役員のポストを活用し、責任を付与したり、権限を委譲することで変化は生まれるかもしれません。

ただ、とても属人的な運用になりやすく、うまくいくケースもあればそうでないケースもあり、個々の管理に負担が生じる羽目になります。

そして、いざポストオフする際、任用の基準が曖昧な(というか無い)ため、どうやってコミュニケーションを取るべきか、また処遇面をどう変更するか、に悩みます。

ピーターの法則の通り、プロモーションの先で無能さが垣間見えるのです。

雑に力業で進めると、揉めるといった表面的な事件は起きずとも遺恨を残すことに。

 

執行役員の定義がないまま、「執行役員だから…」という感覚で話がされがちな執行役員制度。

経営の直下に位置づくことが多いポストゆえ、評価も厳しくなります。

一方で、期待値が曖昧で明示されないことも多く、執行役員本人が主体的に期待を定めて自走することが求められることもあります。

これは全くナンセンスな話ではありますが。

 

結局のところ、執行役員というポストが雇用契約で、従業員の延長であることに問題があると感じるようになりました。

雇用契約の場合、組織階層を単に1つ増やすことと同義です。

この形式的な対応によって、経営と執行が分離されるわけがありません。

分離するためには、お互いのコミットメントとコミュニケーションの時間が必要であり、そのための土台となる制度が必要です。

それが委任契約だと思うようになりました。

 

委任契約という真剣勝負の中で経営から期待値を伝え、執行として戦略を実行する。

この形が本来の執行役員制度です。

 

元々、執行役員制度は、人数が膨張し過ぎた取締役の数を減らすための後釜として生まれたポストゆえ、そもそもが歪な制度です。

それを各社がうまいように使ってきた結果、結局、人としての承認欲求を満たすだけの肩書に成り下がってしまいました。

目的や定義が曖昧な制度の象徴のように感じます。

 

自分もこのスタンスを取り切れていない理由は、実際に「委任契約」の執行役員制度を設計、導入、運用した経験がないからです。

これまで雇用契約の執行役員制度を通じて、その機能不全を見てきた経験からの思考なので、まだ強い自信を持てていません。

となれば、自分の実践の場をつくり、知見に変えていくしかありません。

 

執行役員制度のメリット・デメリット

雇用契約と委任契約の違いを踏まえて、メリット・デメリットを整理します。

 

雇用契約

視点メリットデメリット
会社・労働契約に基づく指揮命令権を行使できる
・従業員の身分が保障されるため、社内の優秀な人材を抵抗感なく引き上げやすい
・不利益変更の禁止等が適用されるため、業績不振を理由とした解任や大幅な減給が困難
・「あくまで従業員(=上司の指示に従う立場)」という意識に留まりやすい
本人・労働基準法に守られており、一方的な解雇や大幅な給与カットがない(雇用と収入の安定)
・雇用保険や労災保険によるセーフティネットが適用される
・高い成果を出しても社員向けの報酬制度の枠内に制限されやすい
・会社の指揮命令下におかれ、自律的な裁量が制限される

 

▼適しているケース

・本部長/事業部長クラスの人材に「執行役員」という肩書きを与え、権限と待遇を引き上げる場合

・優秀な生え抜き社員の離職を防ぐため、雇用の安定を担保しながら処遇を引き上げたい場合

・全社戦略より部門戦略とその実行を主なミッションとする場合

 

委任契約

視点メリットデメリット
会社・業績不振時の契約解除や報酬減額が可能
・従業員の報酬制度に縛られず、大胆な業績連動報酬を設計できる
・「労働者」ではなく「経営陣」としての自覚や責任感を促せる
・指揮命令権がないため、細かな業務命令による強制力は働きにくい
・「いつでも契約解除になるリスク」があるため、保守的な層が就任を渋る恐れがある
本人・成果を出せば、社員向けの報酬制度の枠組みを超えた報酬を得られる(役員に近い待遇)
・裁量が大きく、自身の判断で業務遂行しやすい
・労働基準法の保護がなく職を失うリスクがある

 

▼適しているケース

・事業会社(子会社)の社長として全権を委ねて成果責任を負わせる場合

・社外からプロ経営者や専門人材をスカウトしてきた場合

・次の「取締役」の有力候補である場合

 

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