「昇格特別昇給」を、思い切ってやめてみる

以前、「昇給」で説明した昇格特別昇給。

昇格時に、報酬レンジの下限まで機械的(自動的)に昇給する昇格昇給に、プラスアルファできる昇給として紹介しました。

機械的に昇給額を設定することが難しいため、運用のハードルも上がります。

スタートアップにおける中途採用中心の人材マネジメントの課題、つまりオファー時の年収設定が思いのほか、低かったという事態を打開するための制度です。

他には、重複している報酬レンジに自身の年収が位置づく場合、昇格したけど昇給しない、という事態にも対応できます。

こうした利点を優先し、制度化を推奨してきましたが、思い切って制度化しないケースも出てきたため、そこでの議論をメモしておきます。

 

運用が、とにかく難しい

昇格特別昇給の昇給額もしくは昇給率を決めるのが、とにかく難しい。

相手に合理的に説明できる自信がない。

上がることで、本人は前向きに捉えてくれるかもしれないが、「もっと上げててほしい」とか「なぜ、もっと上がらないのか」と言われた際、説明責任を果たせない。

 

運用が、とにかく難しいという理由が、昇格特別昇給を制度化しない理由にあたります。

 

この辺の「ファジー」やある種の「グレー」を飲み込んで制度運用したいと思う会社と、そうでない会社があります。

良いとか悪いとかの意味ではなく。

 

確かに運用の難しさはあるので、スケーラビリティの観点から思い切って昇格特別昇給をやめてしまうというのも「アリ」だなと考えるケースも出てきました。

 

シンプルな制度設計

等級は、報酬レンジを決める制度。

評価は、報酬レンジ内の昇降給を決める制度。

この2本柱で、シンプルに制度設計してしまうのは1つの手です。

 

こう言い切ってしまうことで、相手の納得感をつくります。

 

ただし、ここまで潔い仕組みとした場合、どうしても引っかかるのが「重複レンジの上限に張り付いている状態での昇格で、昇格したけど昇給しないケース」です。

 

昇格したところで次回以降の昇給のチャンスが生じるという利点はありますが、昇格時の昇給が無いというのは引っかかるもの。

論理で理解できても、感情で納得しにくい代表例かもしれません。

昇格者本人はもちろん、メイン評価者であるマネージャーの立場からも異論が出るかもしれません。

 

昇格昇給を導入しない場合、この異論に対する意見は、事前に考えておくといいでしょう。

評価に基づく昇給は、あくまでも昇格前の等級に対する期待(目標)に対する成果であり、昇格後の報酬レンジ内で昇降給させる根拠ではない、といった意見のイメージです。

 

導入後に廃止するのは、確かに難しい

メンバーにとって導入・運用されていた制度が廃止されるのは不利益変更になります。

昇格特別昇給は、実際に経験した方は少ないかもしれませんが、自分にとって「利」の可能性があった制度がなくなるわけなので。

 

そう考えると、導入後の廃止は確かに難しく、初めて制度を設計・導入するタイミングで思い切ってやめてしまうのも有効な方法にも思えます。

 

メリ・デメがあり、トレードオフの関係がなりなっていますが、導入しない場合の明確な理由は、組織のスケーラビリティです。

マネージャーが増える際、この昇格特別昇給を運用するのは、報酬面に対する制度運用の難易度を上げてしまい、メンバーの納得感醸成にマイナスに働いてしまうリスクがあること。

 

ここを強く捉える場合は、思い切って導入しないということが正解になるはずです。

 

Share this…