「役職手当を入れようか迷っている。役職手当を入れるべきか?」といった質問を受けることがあります。
役職手当とは、例えば「課長になったら月5万の手当が支給される」といった報酬制度の話です。
私のスタンスは、「入れない方がいい」です。
なぜ、役職手当を入れるのか?
私が聞くところでは、以下の理由です。
- 役職者になることで、マネジメント業務が増えるから
- 社員から「役職者になっても給与は上がらないんですか?(上がらないなら、やりたいと思わないかも)」と言われるから
- 役職を外れた際、減給しやすいから(つまり説明がつきやすいという意味)
- 役職者を「管理監督者」にする場合の理屈をつけるため
- 前職でもあったから
すべてを否定するつもりはありませんし、「そうだよな」と思う部分もあるのですが、深く考えずに役職手当を導入してしまうと問題が起きがちなのも事実です。
ポジションチェンジがやりにくくなる
スタートアップにおいて役職手当が相応しくないと考える主な理由は、ポジションチェンジの柔軟性が失われるということです。
スタートアップでは、「変わること」が日常です。
変えていくことを意識的にやらなければいけないこともあります。
こうした状況で役職手当という報酬項目が存在すると「●●さんを別のポジションにチェンジさせたい」「でも、そのポジションだと役職手当が下がってしまう」「じゃあ、ポジションチェンジできないの?」という会話に陥ります。
成果の最大化を目指した人材マネジメントが、役職手当によって邪魔されるイメージです。
スタートアップでは成長フェーズこそ、組織を改編していきます。
組織階層も変わるし、管掌範囲や期待役割も変わります。
その変化が起きる際にも、役職手当を改変する必要があり、個人の報酬に及ぶ場合、特に不利益変更が起きる場合は個別同意が必要です。
会社の全体最適を考えてポジションチェンジを提案したとしても、そこに個人の事情が入ってきてしまい、意思決定スピードが劇的に落ちることになります。
また、大企業でもスタートアップでも変わらず、同じ役職でも部門によって期待値が変わってくることも。
そこに一律で「課長は5万」といった報酬項目を設置してしまうと、後々、違和感・気持ち悪さにつながることにもなります。
ちなみに、先ほどの紹介した「会社都合のポジションチェンジで給与(役職手当)が下がってしまう」のほとんどで調整給が使われます。
つまり、役職手当はなくなるけど、その分を調整給として支払い、減給しない形を取るという意味です。
このとき、当事者は気づきませんが、制度が「形骸化」しているのです。
こういった話は、私の空想ではなく、様々なスタートアップの経営者や人事の方に直接お聞きした話です。
「役職を外れた際、減給しやすい」は、危険な発想
個人的に「危険だな」と思うことは、役職手当があることで「減給しやすくなる」と考えている方が、人事をやっている人ほど多いと感じることです。
- 基本給を下げるのは法的に難しい
- 役職を外れたら、役職手当がなくなるのは合理的
否定はしませんが、短絡的です。
そもそも、「役職を外れる」ってことに心底説明が必要だからです。
マネージャーとしての期待値を満たしていない理由を、成果や行動、マネジメントの観点で説明すると同時に、その後任まで手配しないといけない。
たしかに減給のロジックは「手当がなくなる」だけなので説明が簡単かもしれませんが、そこには解任の説明がセットです。
解任の具体は、人によってそれぞれなのに役職手当の金額が一律であることも深く考えるとおかしいと思わざるを得ません。
「説明がしやすい」のではなく、「説明をしなくていい」というだけなのです。
これは年齢を基準に人事マネジメントしてきた日本の悪い癖というか、人間をバカにした考え方なのでやめた方がいいと個人的に思っています。
「65歳だから退職してください。ルールですから」は、会社が上、個人が下の時代における価値観です。
時代は変わりました。
変化に合わせて制度も変えていかないと、時代に取り残された組織になってしまいます。