先日、長いお付き合い(10年以上)をしているクライアントさんから相談を受けました。
人事制度を設計・導入して、約10年、会社・組織・人材の状況も変わり、それに合わせて人事制度も変えていきたいと。
もちろん、制度導入から何度もチューニングを重ね、修正したり、追加したり、色々とやった中、今回は「可能性を拡げる」改善につながると考えています。
前提
認識を揃えるために前提をさらっと書くと
- 100-200名の組織
- 技術系人材が中心
- 今回の制度改善は、主に等級制度
- 等級要件は、5つで構成(技術力、スピード、自立性 etc)
- 5つの要件の充足状況でポイント化され、等級が決まる
ポイント制の等級制度では、例えば、3等級のすべての等級要件を満たしていなくても、ポイントを満たせば昇格できる仕組みです。(3等級の技術力を満たしていなくても、4等級の自立性を満たしていれば、3等級に昇格できる可能性があるというイメージです)
この等級制度・等級要件について、これまで求めていなかった「事業開発」に関する能力項目を等級要件に入れたい、という声が挙がりました。
制度導入時は、技術系人材の技術力を中心に等級要件、つまり「求める人材」を定義しました。
事業開発は、役員やその他一部のビジネスメンバーが担うという意図です。
これはこれでハマったようでしたが、時が経ち、技術系人材にも事業を動かしたり、組織をつくったり、こうしたビジネス領域の能力やリーダーシップを求めていきたいと。
会社が成長した結果として、次のステージへ人事制度も適応していく必要が生じたということです。
Plan_A
社内で検討したところ、現行制度における等級要件に「事業開発」や「組織づくり(採用貢献含む)」に関する内容を加筆する案となりました。
下位の等級にはこれまで通り求めず、上位の等級に昇格するために求められる要件として設定します。
現行制度の構造から全体的に修正してしまうと、全社員の等級決定(格付け)をやり直す必要があり、そこに手をつけたくはないという気持ちもあります。
ポイント制なので、その要件を満たさなくても上位等級に昇格するチャンスはありますが、現場に近いマネージャーからは「今まで求められていなかった要件が加わり、単純に昇格のハードルが上がっているのでは?」という声が挙がりました。
確かに、ポイント制とはいえ、ハードルは上がっています。
しかし、会社として今後の企業成長を考えれば、必要なアップデートでもあります。
今後の成長に向けた改善ゆえ、前向きなムードを醸成したいものですが、今のままでは制度改善が現場の社員にとってデメリットに見えてしまうリスクがあります。
Plan_B
そこで1つ提案したのが、現行制度は活かしたまま、新たに等級要件の項目を1つ増やすこと。
5つから6つの等級要件に変更します。
等級要件は、上位等級のみでOK。
そして、肝になるのはポイントのハードルを変えないこと。
例えば、5等級になるには50ポイントが必要だとします。
今回のように等級要件を1つ増やすことで、5等級に求められるポイントも本来であればアップして、55ポイントとかになります。
しかし、これだと社員からすれば「昇格のハードルが上がった」というデメリットに感じてしまいます。
そこで、ポイントのハードル(基準・バーのようなもの)は変えず、加点される仕組みにします。
こうすることで、今までと同じポイントで昇格できる分、社員にとっては「可能性が拡がる」仕組みになります。
会社が成長して可能性が拡がったぶん、社員のキャリアや報酬に関する可能性も拡がった、というコンセプトです。
これなら「昇格のハードルは上がった」ということはなく、逆に「昇格の可能性が拡がった」と認識してもらえます。
追加する等級要件で期待することは、そう簡単にクリアできることでもないという仮説があり、昇格のハードルが「下がる」ということはないはず。(昇格がインフレすることはない、という仮説)
この案なら、経営と現場の双方にとってメリットを感じる制度改定になります。
大事なことは「事業もキャリアも可能性が拡がった」というコンセプトを前向きにメッセージすること。
制度を変化させることはあくまでも手段であり、そのプロセスや考え方について、いかに理解・共感・納得してもらうかが肝です。
見せ方を少し変えるだけで、伝わり方(メッセージ)が大きく変わることを実感できた事例でした。