降格の話

報酬と実力・実績がマッチしていない場合、降格を検討することがあります。

降給の可能性があるため、本人(被評価者)とマネージャー(評価者)の間で丁寧にコミュニケーションを図りながら進めます。人事もサポートします。

そもそも、降格を実施するケースは稀です。ただし、いざ対応しなければならない場面で後手に回らないよう、その手順について考えました。

制度案の1つとして捉えて下さい。

(降格の制度について考えた内容であり、降格を推奨する意図はありません)

公式には、降格可能性を6ヶ月前に伝える

マネージャーから突然「降格です」と伝えることはないと思います。

では、本人に「何を・いつ」伝えればいいのか。

制度案としては、降格の可能性があることを6ヶ月前に伝えます。「6ヶ月」というのは評価期間と連動しています。要するに、期初に降格の可能性を伝え、6ヶ月の評価期間で見極めて判断します。

以前紹介した昇格候補制度と同じプロセスです。

ただし、6ヶ月前にいきなり降格可能性を伝えるのもサプライズです。とすると、その前から等級要件に対して実力・実績・働きぶり等が見合っていないことをフィードバックしておく必要があります。

こう考えると、1年前ぐらいからフィードバックを蓄積し、6ヶ月前に公式な降格可能性を伝える時間軸となります。

降格要件を擦り合わせる

等級を変更する際、等級判定シートを使います。昇格の場合、昇格条件を設定するのと同じように、降格の場合は降格要件を設定します。

降格要件は、2つの視点で設定します。

  • 6ヶ月後に、こうなっていたら降格する
  • 6ヶ月後に、こうなっていたら降格しない

厳密に定義すると、前者は「降格要件」、後者は「降格回避要件」です。

的確に要件を擦り合わせるためにも2つの視点を使います。

等級判定の基準は、あくまでも等級要件です。この等級要件の内容を本人の仕事や役割、期待する成果に読み替えて、降格要件を設定します。

「読み替え」は、マネージャーの役目ですが、マネージャー単独だとプレッシャーも重いので人事がサポート役として加わることを、おすすめします。

等級要件の読み替えや降格要件に対して、本人に内容が伝わるか、認識ズレが起きないか、等級要件(基準)に基づいているか、フェアな基準になっているか、などを客観的にレビューします。

なお、等級は「卒業要件」ではなく、「入学要件」で判定します。例えば4等級から3等級への降格を検討する場合、4等級の基準に照らして判定します。4等級の基準を満たしていない、と判断されれば3等級に降格します。(3等級の基準は満たしており「卒業」と判定されても、4等級の基準を満たせておらず「入学」と判定されなければ、4等級には認められない)

週次での振り返り

降格可能性を伝えた後の6ヶ月間は、週次で振り返りを実施します。

この期間は、降格判定するために負担が増えると覚悟しなければなりません。降格要件に対して、本人とマネージャーの認識(評価)を擦り合わせていきます。

サポート役の人事も本人・マネージャーとそれぞれ 1on1 をして状況を確認したり、必要に応じて 2on1 で話し合いをファシリテーションします。

適宜、マネージャーは、自身の上長ともコミュニケーションを図り、状況を報告します。

1ヶ月経過ごとに、仮判定することも認識合わせには役立ちます。このまま進んだら「降格する or 降格しない」を判断し、降格を回避するためにお互いに何ができるのか、を考えます。

特に評価制度にある3ヶ月経過時の中間評価では、人事に関わる全マネージャーに降格の状況を説明し、他のマネージャーから降格回避に向けた取り組みをフォローしてもらったり、アドバイスを集めたりすることもあります。これぐらい労力をかける覚悟が、降格には必要です。

6ヶ月間の見極め期間を経て、降格判定を実施する際、本人には結果が伝わっている状態でなければなりません。もし降格を実行する場合、降格なので納得感というのもおかしいですが、ここまでやってダメなら納得せざるを得ない、と本人が思えるかどうか。本人の同意(合意)が必要です。

降格の検討フェーズになると、つらいし、きついし、時間も労力もかかります。事業に集中できる環境とは言えません。降格を検討せざるを得ない、と決めたら覚悟が必要です。

給与(降給)について

降格時の給与について説明します。

原則、降格後の給与レンジで報酬見直しを実施します。減給の額は決まっていません。改めて報酬を見直すという意味です。

その際、調整給を検討します。

調整給の方法として、人事評価に基づく降給の最大額を超える場合、調整給で補填する方法があります。

例えば、人事評価に基づく降給の最大額が「-5%」の場合、5%を超える減給に対して6ヶ月(もしくは1年など)の調整給を支払う、という意味です。

金額で説明すると

  • 降格前の年収:600万
  • 降格後の年収:540万 ※市場や社内水準を考慮して決める
  • 60万(10%)の減給
  • 30万(5%)は、降格時に減給
  • 30万(5%)は、調整給として補填
  • 降格後の年収:570万、内訳は「540万+30万(調整給)」
  • 調整給は、一定期間後になくなる

金額や%は、あくまでも仮です。

降格の話を通じて、伝えたいこと

ここまで1つの制度モデルを説明してきて、最後に伝えたいこと。それは「等級判定は慎重に」ということ。

「降格はこうすればできる」とか、「ダメなら降格させる」とか、そのようなことを言いたいわけではありません。いざというとき、もしくは事前に降格は制度上存在する、と伝えるためにも、きちんと制度設計しておくことは必要だと思います。

ただし、冒頭でも伝えた通り、降格のケースは稀ですし、やりたいと思ってやるものでもありません。

慎重さに欠けた等級判定を行った結果として、そうせざるを得なくなってしまった、ということです。

降格は、費用対効果がよくありません。できればやらずにいたい。そのためには、等級判定を慎重に行うことが必要です。

「等級判定に迷ったら、下の等級に格付ける」が原則です。

人事上の不安や違和感は得てして当たります。

「杞憂に終わる」を期待してはいけない、自分が常に意識していることです。

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