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中間評価のすゝめ

マニアックなテーマになるが、スタートアップの評価制度において「中間評価」の仕組みを導入することをオススメしたい。分かりやすく例で言うと、6ヶ月間の評価期間がある場合、3ヶ月の中間地点で評価を実施する仕組みだ。この中間評価は、個人の評価や給与に反映されない前提である。こういう仕組みを提案すると「評価や給与に反映されないのに、なぜ中間で評価するのか?」「運用の負荷が高いのでは?」といった声を頂くことがある。実際、提案はするものの中間評価は取り入れず、期末の最終評価のみで運用するケースもある。一般的には、中間評価はやらずに最終評価のみという方が多いのかもしれない。

たしかに中間評価を導入することは運用の負荷が高まる。6ヶ月に1回の評価(年2回の評価)が3ヶ月に1回(年4回の評価)になるので、評価シートへの記入から評価面談(1on1)、フィードバックなど確かに負荷が高い。ただ、こうした負荷(デメリット)よりも中間評価の効果(メリット)を感じる機会が増えたので、その効果についてまとめてみたい。

中間評価のメリット ①評価のサプライズ防止

最終評価のタイミングで評価のサプライズ(自己評価と評価者評価で大きくズレが生じること)が起きてしまうと、その時点でサプライズを解消することが難しい。結果として、被評価者は評価に納得できなかったり、評価者が自分の評価を捻じ曲げて「事なかれ評価」が発生し、評価が形骸化する。こうした状態を防ぐためにも、評価期間の中間地点で評価を実施することは効果的だ。もちろん、このタイミングではまだ成果が出ていなかったり、評価が分からないこともある。それはそのままフィードバックしてしまってOK。評価期間が締まるタイミングで、こういう分からない状態・見えていない状態にならないようにお互いが意識できることもメリットの1つである。

中間評価のメリット ②目標達成の確度と質を高める

上記の通り、中間地点で期待される成果を出せているケースは少ない。ただし、中間地点までの動きや成果を見て、残りの評価期間の中で帳尻を合わせられるかどうかをチェックし、必要に応じて叱咤激励することはできる。この叱咤激励が大切だ。日々の1on1で進捗を擦り合わせしていながらも、公式な評価で現時点のフィードバックをするためにお互いが真剣に振り返りを行う。達成が厳しいなら、その巻き返しを真剣に考える機会となる。 被評価者だけでなく、評価者も。 このタイミングで中間評価が入っていることで目標達成の確度や質を上げることが真の狙いになる。

中間評価のメリット ③目標の変更

OKRの記事でも書いたが、スタートアップの目標設定は柔軟性が大事なので、Objectiveはなるべく変えないがKey Resultは変えてよいという考え方を制度に反映させている。日々の1on1で目標(主にKey Result)について話し合い、状況に応じて目標を変えることもあると思うが、中間評価という1つの節目で目標について再度コミットする機会をつくり、目標が合っていないなら変える機会を制度としてつくることもメリットである。目標が変わらないケースも多いが、中間評価のタイミングで見直しができると分かっていれば、期初の先が見えにくい場面でもまずはチャレンジしてみようと制度が後押しできるようになる

中間評価のメリット ④評価制度の検証

スタートアップで評価制度の運用を開始して間もないと、まだ制度が自社にマッチしていなかったり、運用開始から一定の時間を経たとしても事業や組織の成長と共に制度がマッチしなくなってくることも多い。その際に、中間評価を踏まえて評価制度の課題や改善点を議論する機会をつくると本番の最終評価に軌道修正することができたりする。評価期間中の制度変更が社員にとって後出しじゃんけんで不利益に感じてしまう場合は翌期から制度変更することにはなるが、課題や改善点があるということは社員にとって好ましい状態でないことが多いので臨機応変に変更することはポジティブに受け取られることが多い。また、こうしたチューニングを欠かさないことは、会社が評価制度を真剣に運用していることを表しており、制度に対する社員の信頼感も高まるというメリットもある。

中間評価のメリット ⑤評価に慣れる

いきなり本番としての最終評価を実施する前に、処遇(給与や昇格など)には反映されない中間評価を経験できることは被評価者にとっても評価者にとっても、お互いの認識や評価に対するスタンスを把握する上で効果的だと思う。また中途採用がメインのスタートアップでは、前職で評価制度を経験している社員も少なくない。前職での評価の経験があると、自然と「評価はこういうもんだよね」と思い込んでしまい、いざ最終評価のタイミングで思っていたものと違っていたという流れになることもある。人事メンバーが新入社員に評価シートやマニュアルを事前に説明したり、オンボーディングのタイミングでトライアル評価をやってみたりするプロセス(理解活動)の1つとして、中間評価を位置付けることもできる。

終わりに

中間評価は運用の負荷が高いことは間違いない。そこがネックとなり、中間評価を制度として組み込まないケースもある。ただし、日々の仕事やモチベーションに大きく影響を与える評価制度にきちんと機能してもらうためには効果的な仕組みだと思う。実際に中間評価を運用しているクライアントさんからは、負荷が高いことを理由に中間評価を止めるか?といった声は挙がるが、上記のメリットを踏まえて継続しているケースがほとんどだ。この次を考える立場としては「このメリットを残しながら、いかに負荷を下げることができるか」なのかもしれない。

OKRをどうやって評価するか?

目標設定の仕組みとしてOKRを活用するスタートアップが増えてきた。そこでまず問題になるのがOKRを個人の評価と紐づけるか、ということ。自分はOKRをしっかりと運用するためにも、個人の評価や給与に紐づけることを推奨している。評価や給与に紐づかない場合、OKRへの取組み度合いにバラツキが生じたり、経営チームとメンバーでOKRへの意識(本気度)が変わってしまうので紐づけることにしている。

OKRを個人の評価に紐づける場合、「OKRをどうやって評価するか」は制度設計のポイントだ。考慮すべきポイントは細かい部分を含めるとたくさんあるが、今回は以下の2つのポイントに絞ってまとめてみたい。

最終的に評価に紐づけるのは”Objective”への評価

まずOKRについて簡潔に説明すると、Objectiveという目的(目標)を設定し、その目的が果たされた状態をKey Resultという結果に落とし込むフレームワーク。Key Resultは、なるべく定量的に設定されることが望ましいが定性的でも構わない。Key Resultは1つのObjectiveに対して複数設定され、目標設定後も状況に応じて柔軟に変更することを前提に進める点が特徴だ。(詳細は「OKR」にも書いたので、こちらも合わせて読んでみて下さい)

OKRを評価に紐づけた場合にうまく機能しないケースとして、ObjectiveではなくKey Resultのみを評価して、その複数のKey Resultの評価結果を平均化したりするケースがある。各Key Resultの重要度や難易度は異なるし、目標が期中で変更されたりもするので、1つ1つの評価の総和が全体の評価にうまく結びつかない。この際「じゃあ、目標にそれぞれ重要度や難易度を設定して係数をかければ」といった機械的で無味乾燥な制度へとアップデートしようとしたり、実際にしてしまって複雑な制度が現場で徐々に形骸化していく。

Key Resultを評価した後、Key Resultのそもそもの目的であるObjectiveを最後に評価するのが個人的には良いと思っている。Key Resultは状況によって変化するし、定量化してもその数字が正しいかどうかの判断がつかないことも多い。高い目標を設定する人もいれば、無難な目標に終始することもある。こうした様々な変動要因を踏まえて、最終的にObjectiveが実現できているのかを評価するのがOKRの評価だと考えている。

達成度ではなく、評価記号を使って評価する

Key Resultは定量的な数字に落とし込まれることが多いが、Objectiveはほとんど定量的には設定されない(設定できない)。このObjectiveを評価するには、数字に対する達成度ではなく、評価記号を設定して評価することになる。自分の設計ではよく「Outstanding」や「Good」「improvement」など 7~8段階の評価記号をつくって評価する。評価記号からその意味が伝わるように注意している。評価記号を単純化すると

  • 最高
  • とても良い
  • 良い
  • あともう少し
  • よくない
  • 全然良くない

といった意味合いが伝わる表現のイメージだ。実際に評価結果をフィードバックする場面で、評価者が話し言葉として多用する言葉なので、自分たちにあう表現をしっかりと考えたい。

Key Resultは定量的に達成度を測っても良いが、Objectiveは”測る”のではなく”評価する”ことになる。直感的に「難しいのでは?」「お互いの評価がズレるのでは?」と思う方もいると思うが、まさにその通り。よって、隔週の1on1が重要であり、必須となる。評価のタイミングだけでなく、1on1でOKRの進捗や評価を擦り合わせながら、評価のタイミングではお互いの評価(評価記号)が擦り合っている状態をつくるのが、この制度の運用のポイントになる。

また評価記号を使うと、評価の振り返りがしやすいことも利点だ。評価の振り返りとは、全社員の評価を終えて全体の傾向を把握したり、評価のサプライズを防げているかを振り返り、次回以降の評価の改善に役立てること。特に大事なのは評価のサプライズを評価者全員で確認し、サプライズが起きた場合にその原因と対策を共有することだ。

評価のサプライズは (各人の定義次第だが、自分は) 「評価記号が2段階ズレること」と定義している。例えば自己評価が「とても良い」、一方で評価者評価が「あと少し」で自己評価が2段階高くなっているケース。評価者評価が2段階高くなるサプライズ(通称:ストイック)もあるが、問題の多くは自己評価が高くなるサプライズのケースだ。自分はよくやったと思っているのに会社・評価者からきちんと評価されない、といった状態を放置しておくと、評価者と被評価者のお互いの信頼関係を低下させ、本人のモチベーションダウンや離職につながってしまう。なぜサプライズが起きたのか、どういう人にサプライズが起きがちか、どうすれば防げるか、どうフィードバックするか、などを評価者全員の知恵を絞って対処できると評価者全体の評価スキルが上がってくるので、ぜひ実践したい取組みだ。

※そもそも自己評価が正しく、評価者評価が間違っている場合もあるのではないか?という指摘はここではとりあえず置いておきたい。その場合は評価者をスイッチすることになるだろうが…

終わりに

OKRを評価に紐づけるか、給与に反映させるか、は一種の宗教論争みたいなもので正解はないのかもしれないが、自分の狭い経験上だと、上記のやり方が非常に合理的でうまくメンバーにも受け入れられていると思う。(経験を重ねると変わっているのかもしれない)

少し本論から外れるかもしれないが、OKRはあくまでも目標設定のフレームワークであり、OKR論を語り始める(議論し始める)ことに終始してしまうことは禁物だと思っている。手法の正解を見つけるために経営が手段となっているケースもごくたまに見かける。正直、そんなことはどうでもいいとまでは言わないが、これをやって成果が出なければ意味はないということは常に意識しておきたい。

給与制度(給与レンジや昇給テーブルなど)を公開するか?

以前、個人の等級(グレード)を公開した方がいいかも、という個人的見解を述べたが、給与制度( 給与レンジや昇給テーブルなど )についても質問を受ける機会があったので、こちらも自分の考えをまとめてみたい。

人事制度設計のポリシー

まず公開する・公開しないを決めるための判断基準を考えてみた。これは「公開する・公開しない」の結果として自分たちがどういう状態になりないか、というToBeを考えるということ。自分が人事制度を設計する際に、常に意識していることは制度設計を通じて「仕事に集中できる環境をつくる」ということ。しがらみや嫉妬、不安、不満、怒りといった集中を阻害する要因をなるべく排除して、自分の仕事や会社の成長に集中して取り組める、そしてその状態を(辛いけど)楽しめる状態になっていることが、自分の考えるポリシーである。この状態に近づくために効果的な施策であればGoだし、そうでなければGoではないという判断基準で考えてみたい。

給与レンジや昇給テーブルは公開する

給与レンジや昇給テーブルは「仕事に集中できる環境をつくる」ために公開した方が良いと考える。公開した方が仕事に集中できる、というよりは公開しなかった場合に仕事に集中できない状況になるといった方が正しいかもしれない。

給与レンジや昇給テーブルは隠されれば隠されるほど気になる。

  • なぜ会社は給与レンジや昇給テーブルを公開しないのだろうか?
  • 実は給与水準が低いのでは?
  • キャリアアップしても将来的に年収が上がらないのでは?
  • 高評価を取っても昇給しないのでは?
  • 低評価だと給与が下がるのでは?
  • 実は給与について何も考えていないのでは?
  • 給与の相場観を全然知らないのでは?

こんな不安が聞こえてくる。年1~2回の給与改定のタイミングで、こういった不安な気持ちにさせるだけでも仕事への集中を阻害する要因だと思う。そして、フィードバック面談のタイミングで個別に質問され、不毛な時間が流れていく。この時間は本当に何も価値を生んでいない、というよりお互いの関係性を確実に悪くするだけの時間だと思う。

一方で公開しない派の(経営陣の)声は、例えばこんな内容だ。

  • 一度公開すると非公開にはしにくい
  • 公開した後に数字を変える場合、説明責任が伴う
  • 給与レンジや昇給テーブルを見て、その金額に不満を持つ人がいるかもしれない
  • 逆にその金額を見て満足する人はいないと思う

どれもその通りだと思うし、それが経営というものだと思う。一度アクションを取れば、それをやり切る気概は必要だし、勇気ある撤退をするならその説明責任は必須ということ。あと動機づけ要因・衛生要因という考え方でも示している通り、お金(給与)は社員の不満を助長する要因はあっても満足を促す要因ではない。よって給与制度を公開して不満が出てくるかもしれないし、満足につなげようと過度に期待する必要もない。それよりは、公開しないことで(余計な)不安な気持ちを引き起こし、不毛な質疑応答に時間を奪われ、仕事に集中しきれない状態をつくる方がよっぽど害がある。

意外とこういう議論の際に出てこない話だが、非公開にしても常にバレるリスクがあり、実際に給与レンジや昇給テーブルの断片情報が酒場で漏洩するケースは、よくある話。「自分は~評価で~円上がった」とか「~グレードはだいたい年収が600万ぐらいらしい」。こういう断片情報がいつしか誤った情報として伝わり、勝手な被害妄想につながることも避けたい。それを止める施策を考えたり、止めようと努力を促す労力・時間も仕事の集中を大いに阻害する要因であり、経営陣がこんな話をしている時間は全くもって無駄だと思う。

終わりに

経験を話すと、給与制度を公開する公開しないで迷っているケースでも、いざ公開してみると「ふ~ん」で終わることが多い。職種で給与レンジを変えている場合は意見や質問、不満が出たりもするが、それは経営の判断なのでその決断に至った背景を説明するしかない。一方で「公開しない」と判断したケースでは常に給与改定のタイミングで 「給与レンジについて質問が出たが、どうする?」 「本当に公開しないが正しいのか?」といった議論が起こる。この議論に経営陣の時間を何度も使うことだけを考えても、給与制度を公開することのメリットはあるだろう。

人事評価への納得感をどう高めるか?

評価制度を運用している場合、被評価者本人がいかに自分の評価に対して納得感をもてるか、は重要なテーマとなる。納得感というものは、高い評価を与えれば生まれるものではないところが面白い。組織サーベイを評価の時期に合わせてタイムリーに実施したりするケースだと、高評価でも納得感をもてていないケースもあれば、低評価であっても納得感をもてているケースもある。(組織サーベイでは、例えば「今回の人事評価に納得していますか?」「Yes/No/Yesとは言い切れない」と聞く)。

では評価の納得感を高めるために、どうすれば良いのか。残念ながら、これをすれば必ず評価の納得感を高められるとは言えない、なぜならそれは相手の気持ち(感情)なのでこちらが100%コントロールできるものではないので。ただし、納得感を高めるために効果的な取り組みはありそうと思ったので、それを自分なりにまとめてみたい。

「この人にこの評価をされるなら納得」という状態

キーワードは、「この人」と「この評価」の2つに絞ってみた。まず「この人」というのは評価者のこと。意外と気を遣われていないのが評価者の仕組みと選定という部分だと思う。金田がクライアントのメンバークラスにヒアリングした際、評価者についてよく聞く話は「自分をしっかりと見てくれている人に評価されたい」だ。そんなの当然でしょ、と思う方もいると思うが、案外そうなっていないケースもある。大企業的な仕組みを盲目的にスタートアップでも運用してしまうと評価者の定義が「一次評価者・二次評価者・最終評価者」となったりする。例で言うと、一次評価者=課長、二次評価者=部長、最終評価者=担当役員みたいなイメージで、自分(被評価者)を一番見ているのは一次評価者である課長だが、課長がつけた評価を部長が調整し、それを担当役員がさらに調整して決まるということが起きる。規模が小さいと二次評価者がないことも多いが、一次評価者と最終評価者の体制はよく見かける。要するに自分の仕事・成果をほとんど見ていない人が最終評価をすることになる。見ていない人(担当役員)の評価を見ている人(課長)がフィードバックするのだから、納得感を醸成することは難しいし、 「自分をしっかりと見てくれている人に評価されたい」 という声が出てくる。

あと評価者の選定という点で、機械的に組織図だけに基づいて決めているケースもある。ただし、組織図はドキュメント上の話であって、組織というコミュニティでは複雑な動きが活発にされている。それをしっかりと妄想すると、この人(被評価者)はこの人(評価者)に評価してもらった方がいいかも、という意見が出てくる。これを本気でやると、そう簡単に評価者が決定しない。人間の本能として、こういうマッチングをしたり、配置をしたり、と妄想することは大好きなんだろうなと思ったりもする。また被評価者本人が誰に評価されたいか、という視点も抜けがちだ。評価者を決める立場の見方と評価される立場の見方は異なるので、被評価者に評価が始まる前にきちんと「なぜこの人が評価者なのか」を伝える機会を設けることも良い。被評価者がそこで異論を述べれば、その理由を聞き、再度検討することもありだし、検討の結果、評価者を変える・変えないの判断もありだ。

評価の納得感は結局のところ、信頼関係で決まる

「この人」で大事なことは、信頼関係である。結局は信頼関係なのだが、その「信頼」とは何かがポイントである。山岸俊男さんの『信頼の構造』を参考に考えると、大きくは2つの要素があり、1つは能力、もう1つは人間性、に基づく信頼である。

能力とは、簡単に言えば「この人やっぱりすごいな~」「この人にはかなわない部分が多いな~」「この人みたいになりたいな~」と思える人に評価されることだ。スタートアップの組織だと、多様な専門性をもった人材がチームとなってお互いの強みを活かした組織になるため、自分と同じ専門性で比較すると評価者より被評価者の方が「上」であることは起き得るが、専門性だけでなく、仕事の仕方やモノの考え方、成果の出し方、リーダーシップ、コミットメント、人的ネットワーク、などの総合力で「すごいな~」と思えるかどうか。創業時からいた人という肩書きだけで評価者のポジションに居座れば、想像の通り、能力に基づく信頼関係は生まれない。難しいのは、かと言っても 専門性が高い職種は、 専門性が総合力に与える影響力が非常に大きいため、その道のプロである職人が評価者にならないと評価の納得感を高められないという部分は現実的にある。デザイナーがその代表なのかな。

もう1つの人間性は、仕事に直接関わる能力や専門性というよりは、人としてどうなの?といった部分だ。人間的な魅力にあふれ、一緒に仕事が思える人。誤解を恐れず、偏見を言えば「この人を男にしたい!」というあの謎の意味不明な発言なのかもしれない。相手というよりは、それを言っている自分に酔ってしまうくらい、相手の人間性をポジティブに捉えている状態だろうか。ここまでの人間性は正直、気持ち悪いので必要ないかもしれないが、少なくとも「この人と一緒に仕事をしていると楽しい」と思えるぐらいは必要だと思う。個人的には、最近この人間性はHRTに置き換えて整理できるかもと思っている。HRTって本当に大事だな~と思う機会が増えているので。HRTについては別のブログでもう少し丁寧に考えてみたい。

評価のサプライズを回避する

最後に「この人にこの評価をされるなら納得」の「この評価」について考えてみる。つまり、最終的に出てきた評価で、会社によってSABCDや100・120といったスコアで決まっている等、いくつかのパターンがある。うちはノーレーティングだよと言われてしまうケースもあるかもしれないが、そのケースは無視しておこう。

評価の納得感を高めるには、自分の評価(自己評価と呼ぶ)と評価者の評価(評価者評価と呼ぶ)が同じであることが求められる。自己評価と評価者評価が最終的に大きくズレていることを「評価のサプライズ」と呼ぶ。このサプライズの状態を回避し、自己評価と評価者評価が合っている状態をつくることが大切だ。この運用をイメージしながら評価制度を設計できているケースは意外と少ないし、そもそもサプライズという概念をぼんやりと分かっているけど言語化できずに評価制度を運用してしまっていると評価制度の振り返りと改善がやりにくい。本エントリではサプライズを回避すること大事!までに言及をとどめ、具体的な方法論は別のエントリでがっつり書き起こしてみたいと思う。

終わりに

評価の納得感とは永遠のテーマ感が出ているので、書き始めると”あれもこれも”になってしまい、複雑な課題で考えることが難しい。だから考えることが楽しいのかもしれないが。ノーレーティングや評価制度廃止みたいな話を聞くことも増えたが、自分は組織運営に評価制度はやり方によっては効果的な部分もあると思うので、振り返りと改善を前提にして取り組んでいきたい。(HRTと評価のサプライズは次回以降の大切なテーマとして取り上げます)

マネージャー任用は難しい

スタートアップに限らず、マネージャー任用(役職/ポストに人材を配置すること)に悩みが多いと思います。自分も、こうした悩みに対峙していた際に、ドラッカーの名言(迷言?)に出会いました。

昇進人事の成功は本当に少ない

昇進人事をマネージャー任用と自分で読みかえましたが、ここまで明確に言い切っている部分がドラッカーらしいです。ドラッカーの話もう少し丁寧に引用すると

私は新しい仕事を始めるたびに、「新しい仕事で成果をあげるには何をしなければならないか」を自問している。もちろん答えは、そのたびに違ったものになっている。

コンサルタントの仕事を始めてから50年以上経つ。いろいろな国のいろいろな組織のために働いてきた。そして、あらゆる組織において、人材の最大の浪費は昇進人事の失敗であることを目にしてきた。昇進し、新しい仕事をまかされた有能な人たちのうち、本当に成功する人はあまりいない。無残な失敗例も多い。もちろんいちばん多いのは、期待したほどではなかったという例である。その場合、昇進した人たちは、ただの凡人になっている。昇進人事の成功は本当に少ない。

と。そして、その原因と対策として

新しい任務に就いても、前の任務で成功していたこと、昇進をもたらしえてくれたことをやり続ける。

新しい任務で成功するうえで必要なことは、卓越した知識や卓越した才能ではない。それは、新しい任務が要求するもの、新しい挑戦、仕事、課題において重要なことに集中することである。

と。痺れます。

どちらかというと、マネージャーに任用した人材が実績を残すことを前提とした発言ですが、スタートアップでは実績を残せなかった場合、さらには実績を残せなかったことがないような施策も大事だと思っています。挑戦することは大事ですが「昇進人事の成功は本当に少ない」のです。

マネージャー任用の仕組みづくり

では、スタートアップのマネージャー任用について考えてみたいと思います。まず前提として、組織は「人材」ではなく「戦略」から設計されるので、戦略が変われず、組織も変わり、そこに必要とされる人材も変わります。スタートアップのように成長に合わせて柔軟に「戦略」も「組織」も変わっていく状態では、硬直化することは避けるに越したことはないと考えます。この前提を踏まえた上で、マネージャー任用についていくつかのポイントを考えてみました。

  1. 役職と給与は分離させる

    役職を外れたとしても給与が下がる仕組みにしておかない方が良いです。役職手当を固定額でつくるのは、まずやめた方が良さそうです。「給与が外れるから役職を外せない」「役職を外すと給与も下がるので退職リスクが高まる」といった事態が起きたりします。役職はあくまでも戦略から導かれた”その時の”組織に必要とされる役割であり、変わることを前提としておいた方が良いという考え方です。

  2. 任期制とする

    役職は「任期付き」というルールを作っておくだけでも、柔軟な配置に役立ちます。もちろん再任は有りとなりますが、期間を定めて柔軟にマネージャーを入れ替えていくことを会社のメッセージとして伝えることができます。3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月が任期の目安ですかね、ポストに応じて任期を変えることもOKです。例えば部長は12ヶ月、課長は6ヶ月の任期としてポジションを変える可能性がある、と制度として伝えておくイメージです。

  3. マネージャーへの教育や研修を実施する

    これ意外とやってない会社が多いと思います。教育や研修をやらなくてもマネジメントはできる(できてしまう)ので、「まずは実践を通じて学ぼう」的なスタンスでやっているとか。新しいマネージャーへのオンボーディングもなかったり。個人的には、マネジメントは1つの専門性だと思っています。スキルやテクニカルな部分もあるし、心構えも学ぶ点がたくさんあります。コーチングとかは1on1には必須のスキルですよね。まずはセオリーを学び、実践を通じて自分たちなりのマネジメントを確立していくことも大切だと思います。

  4. マネジメントポリシーをつくる(言語化する)

    セオリーを学び、実践を通じて自分たちのマネジメントが見えてきたら、それを言語化して全社で共有することも効果的です。スタートアップでは様々なバックグラウンドのメンバーで構成されるので、どうしても前職の価値観に引っ張られがちで、そこから不毛な議論も出たりします。自分たちの組織では、どんなマネジメントを目指しているのか、を知ることが組織の一体感や自律性を高めたりします。Valueと似てますね。

  5. マネージャー任用の結果を定期的に振り返る

    チームごとに組織の状態を見える化できる外部ツールを使ったり、人事が全社員と1on1を実施して声を吸い上げたり、マネージャーが機能しているかどうかを定量的・定性的に振り返る方法もあります。大事なことは振り返った結果、どう関係者にフィードバックしていくか、どう改善していくか、につながていくことです。必要であれば、改善策を人事が一緒に考えたり、マネージャー全員で改善策を実践したりします。振り返りが”やりっぱなし”に陥らないように注意します。

  6. 1on1の仕組み化

    スタートアップのマネジメントは1on1がベースになっていることが多いです。多様な人材がスピーディな環境の中で会社と共に成長していくには1on1が便利なツールであることは間違いないと思っています。その1on1もいろいろなやり方がある中で、効果にバラツキが生じやすい施策です。マネージャーとしての役目を果たすために必要な中身(時間・頻度・スクリプト・ツール等)を会社が決めて、まずはそれを実践することをお奨めします。

自分はこういった点に気を使って、マネージャー任用の仕組みを作ったり、実際に運用したりしています。

おわりに

クライアントからマネージャー任用について相談された際に気にしていることは「そのマネージャー任用に不安がありますか」という点です。というのも、成功したと言いにくいマネージャー任用って、ほとんど事前にわかっていたりするケースが多いと個人的に感じているからです。例えば「この人をマネージャーにしようと思っているけど、どう思います?」と聞かれた場合、「会社としては検討を重ね、おそらく大丈夫だと思っているけど、外部の人から見てどうだろうと思って」といった場合は問題ないケースがほとんどだし、逆に「マネージャーにすると~の点で問題起きるかもしれないという不安があるけど、どうですか?」と聞かれる場合は「その通り、不安ですね」といった流れになることが多いです。そして後者の場合で、組織のもろもろの都合からそのままマネージャーに任用されると、多くのケースで解決しがたい問題が起きているように思います。(自分がそれを止められていないという恥ずべき問題は承知している前提で)「不安があるマネージャー任用」や「チャレンジのマネージャー任用」はやめた方が良いというのが私の経験論です。マイナス要素の直感ってほぼ当たってるような気がします。こうしたケースではポストは空席にして、兼務で一時的にしのぐ&マネージャー採用に全力を注ぐことが1つの対策だと考えています。

人事に関する情報公開

人事について「どんな情報」を「誰に」公開するか、は各社で違った対応になっています。今回は人事制度における等級(グレード)について考えてみます。

クライアントとの議論の中で、個々人の評価結果や給与水準はたいてい全社員には非公開となりますが、等級については意見が割れるケースがあります。「絶対に社員に公開できない」という意見から「公開したことがないので分からない。だから何となく公開に踏み切れない」「うちの会社では公開することのメリットよりもデメリットが目立ちそうなので公開しない方はいいかも」といった理由です。

なお今回は「各自の等級を公開する・公開しない」が論点であり、等級基準は仕事や役割でなく能力で、組織上の役割(マネージャーとか)は全社に公開・共有されていることを前提とします。

社員の等級(グレード)を公開することのメリット

  1. 各等級の人材レベルを等級要件といったテキストだけでなく、実在者でイメージできる(どうすれば自分が上位等級に昇格できるかが分かりやすくなる。もちろん妥当な等級決定がなされているという前提で)
  2. 等級制度を運用する経営陣やマネージャー、人事が、入社時の等級決定や昇格人事をより慎重に且つ真剣に取り扱うようになる
  3. 上位等級者への高い期待値が組織内で見える化され、本人たちに適度な緊張感を提供できる
  4. 人事に関する情報も一部は公開していくという会社のスタンスを社員に示せる
  5. 社員にとって納得感のある等級決定や昇格人事/降格人事が行わている場合、人事に対する信頼が上がる

社員の等級(グレード)を公開することのデメリット

  1. 社員から他人の等級に対する不満や文句が出る可能性があり、社員が事業に集中しにくい環境になってしまう
  2. 降格人事を実施した際に、社員にその情報が伝わる。降格した本人は情報公開を嫌がるケースも。
  3. 下位等級者が「自分は評価されていない」と感じてしまい、モチベーションが下がる可能性がある
  4. 社員にとって納得感のない等級決定や昇格人事/降格人事が行われている場合、人事に対する信頼が下がる

スタートアップは社員の等級を公開した方がいいかも(個人的見解)

金田としては特にメリット1とメリット2を重視して、スタートアップでは社員の等級を公開した方がいいかも、と思っています。

未経験人材でなく、経験豊富な人材を採用して組織をつくっていくスタートアップでは、様々な強みを持った人材で構成されます。そうした人材の等級を決定することは簡単なことではありません、ある意味不可能に近いのかも。一緒に働いたことがない人を、「当社の等級基準では~等級」とか決めるわけですから(一定のハイクラスは入社前に一緒に働く時間を取って、実際の働きぶりを見て採用と等級を決定する場合もあります)。でも、給与にも紐づく等級決定の精度を高めていくことは大事だと思っています。そこの精度が上がってこないと、そもそも自社にFitした優秀な人材を見極めて、適切な処遇で採用することができないということを意味していますから。それぐらい慎重に・真剣に扱ってもらいたいとの思いがあります。ここに問題があるとデメリット1の通り、人事に対する不平不満が膨らみ、人や組織に気を取られて事業に集中できない状態になってしまいます。これは最も避けるべき状態です。

デメリットももちろんあります。ただし、等級を公開することで上記のようなデメリットが起きる組織はそもそも課題があると考えます。例えば、採用する側の人材の見極めの精度が低い、等級基準や人材の見極め基準が会社と社員で共有できていない、社員が等級基準や人材の見極め基準を正しく理解できていない、とか。改善すべき点はこちらだと思っています。

おわりに

等級決定や昇格人事は難しいです。だから慎重且つ真剣に取り組むことが大事です。どういう基準で、どんなプロセスを経て、昇格を判断していくのか。また降格をどうするか、などなど。別の機会で、昇格や降格の制度設計についても考えてみたいと思います。

OKR

OKR(Objective Key Result)がスタートアップで流行ってますね。経営管理ツールとして、また目標設定のフレームワークとして活用されています。ざっくりと言えば、100人いる組織で100人全員が1つの同じ方向(目標)に向かっている状態をつくるのがOKRのねらいであり、全社員が「その目標を実現するために、自分がやること」を自律的且つ前向きに考えて実行できるように方向付け、動機づける仕組みです。OKRの本やブログなど多くの情報が流通しており、金田も以下を参考に実践に活かしてきました!

前田ヒロさんのブログ(これが火付け役ですよね)
OKR
日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法
WORK RULES
HIGH OUTPUT MANAGEMENT
Measure What Matters

どれも最高の情報ソースで、すごい参考になっています!
まずはざっくりとこれらの情報を踏まえて、OKRの概要をメモしてみます。

OKRとは?

・Objective Key Result の略
・Objectiveの訳は「目標」、意味は「目指す状態」
・Key Resultの訳は「主な結果」、意味は「目指す状態を実現できたというために必要な結果」
・ObjectiveやKey Resultは「野心的」で簡単には達成できないレベルにする
・Key Resultは振り返って測定できるように定量化する
・Objectiveは1つ、Key Resultは3~5つに絞り込むことが大事
・1年間のOKRをつくり、四半期ごとにもOKRをつくる
・四半期ごとに振り返る
・OKRを全社、部門、個人で連鎖させる(全社目標から部門目標をつくる、部門目標から個人目標をつくる)
・全社のKey Resultを部門のObjectiveに展開する
・個人OKRはボトムアップでつくる(目標の当事者である本人がモチベーション高く取り組めるために)
・人事評価や給与には反映させない

ざっと、こんな感じでしょうか。
情報ソースによって若干内容が異なる部分もあるかと思いますが、このような考え方でOKRを運用している会社さんもあるかと思います。

OKR運用の課題

一方で、実際にOKRを運用している会社さんから、こんな課題を聞いたりします。

■達成感を感じられない、つらい
野心的な目標として、5~7割の達成で良しとする目標をつくったが、現場のメンバーから「達成感を感じられず、つらい」という声を受ける(もちろん会社からは5~7割で御の字だよ、と伝えているけど)。

■四半期の振り返りが大変且つ難しい
OKRの設定に1ヶ月ほどかかってしまい、残りの2ヶ月で目標達成に向けて全力で動くも期間が短く感じてしまい、「これから」っていうタイミングで振り返りがまた来てしまう感覚になる。

■ボトムアップだと経営の期待に沿った目標が設定されないケースも多い
本人にOKRを設定してもらっても「これはちょっと違うな~」「もう少しこうしてほしい」が多くなってしまう。レビューの時間も大変だし、本人も「じゃあ最初から決めてくださいよ」という気持ちになっている。

■セクショナリズムを感じる
全社OKRのKey Resultを部門のObjectiveにすると、部門のやるべきことがその定量数字を追うことだけになってしまい(勘違いされてしまい)、目標は絞れる一方で、部門間の協力・連携が手薄になっているように感じる。

■給与に反映されないなら…
野心的な目標を精一杯頑張っても、人事評価とは関係なく、給与にも反映されない、という仕組みだと本人から「やってやろうというモチベーションが上がりません」という言われた。

こんな風にOKRを設計・運用してみるのもいいかも

金田も実際にOKRを設計・運用する中でいくつか同じような悩みを感じたりしました。そこで、こうした課題に対してクライアントさんと一緒に考えながら工夫した点をまとめてみました。

「野心的」とは「非現実的」と「現実的」の中間と伝える

本人が「これ達成できないでしょ」と思う目標は、「目標設定」としては良くないと個人的には思っています。高い目標(達成無理な目標)を掲げて思考の枠を取っ払うようなフレームワークで使うならストレッチ効果はあると思いますが、組織全体の経営管理ツールとして使うには少しねらいがズレてしまうことが課題です。そこで「野心的」の意味を「非現実的」と「現実的」の中間に位置づけ、「難しいけど無理ではないレベル」で目標設定することも有りかな、と思っています。「非現実的はこのレベル」「現実的はこのレベル」という上限と下限を議論する中で、本当にこれが非現実的なのか、これが現実的なのか、を関係者で擦り合わせることも1つの良き効果だったりしました。

全社のKey Resultを部門のObjectiveにしない

どうしても定量的なKey Resultが各部門の目標になってしまうと、その数字をつくるためだけの動きになりがちです。そこで部門のObjectiveをつくるにあたり、全社のKey Resultではなく、全社のObjectiveを部門のObjectiveに連鎖させる方がいいのでは?と考え、実践しています。気付いたことは、こうやっても最終的に全社のKey Resultが部門のKey Resultに自然と反映されるので、部門が全社の目標目線を維持できるという効果があるように感じました。また『Measure What Matters』の中で紹介されている「水平的OKR」のように、全社のObjectiveと部門のObjectiveを全く同じ内容にする方法でも、全社の目標が部門へとしっかり落とし込めるので非常に良い方法だな~と思い、早速実践してみました。

振り返りの期間は3ヶ月か6ヶ月で、自社に合わせて考える

盲目的に3ヶ月(四半期)で振り返る必要はないです。3ヶ月という比較的に短い期間の場合、目標が変わりやすいビジネス・組織・成長ステージ等の場合にフィットするけど、6ヶ月でも十分にフィットするケースも多くあります。3ヶ月だとどうしても運用負荷が高くなり「大事なのは分かっちゃいるけど面倒くさい」という状況が、OKRの形骸化につながるリスクがあります。A部門は時間を割いてちゃんとやっているけど、B部門は適当にやっている、とかは現場ではすぐにわかるし、やる気だだ落ちになるので、この点は自社に合わせて取り入れることが大事です。

ボトムアップは原則論

基本的なスタンスは、個人OKRはボトムアップでつくってもらうべきです。本人に当事者意識が強く芽生えて”やらされ感”がなくなるので、目標達成への粘りが違ってきます。ただし、これは人材の質・レベルを踏まえて考えるべきです。自律的に課題を見つけて解決に動ける人材がほとんどの組織であれば、全社OKRと部門OKRに基づいて、ボトムアップで個人OKRをつくってもらい、1on1の中でブラッシュアップしていくやり方が理想的です。一方で、一定のマネジメントコストがかかるエントリークラスの人材が多い組織でボトムアップをやってしまうと収集がつかなくなる恐れがあります。こういう場合は、マネジメントクラスが個人OKRのガイドを示したり、たたき台をつくったり、一緒に考えるなどして運用にひと手間かける必要がありました。

人事評価・給与にも反映させる

頑張って成果を出せば、その分を評価して給与に反映してあげればいいと素直に思います。評価や給与に反映させない理由もありますが、社員の立場で考えてもあまり納得感がないように感じます。お金が内発的な動機付けにネガティブに反応するという過去の研究もありますが、スタートアップにいる社員はビジョン・ミッション・バリューへの共感、ビジネスや自分の成長可能性に夢を抱いてジョインしてくれる方々なので、基本的にお金の部分であってもしっかりと報いてあげたいと思うし、本人たちもそれは期待して当然です。「OKRを全力でやっていこう」「ちゃんと評価して給与にも反映させるぜぃ」の方がスタートアップらしいし、こうやって給与に反映させることで重大な副作用が出ているケースも今のところはありません。ただ、この状態をつくるためには、日々の1on1で認識の擦り合わせをすることが不可欠なので、ここができない場合は確かに評価・給与から切り離してもいいのかも…

理解活動がとにかく大事

つくって終わり、のOKRは確実に形骸化します。それほどしっかり運用しようとすると”重い制度”です。楽な制度ではありません。日々モニターしていく仕組みを、担当者や会議体等を通じて運用していくことが当然必要です。また全社OKRや部門OKRを説明・共有するセッションも非常に大事です。「こういうOKRでいくよ」だけではなく、前期の振り返りや現状の課題、今後の理想、なぜ今期はこれに集中するのか、どうしてこっちはいったんKey Resultから外すのか、をしっかりと経営陣が語り、その”強い思い”がOKRに反映されていなければ、メンバーに腹落ちさせることはできません。メンバーからもセッションの中で色々と質問が飛び交い、その過程で経営陣とメンバーの理解もより深まっていきます。こうしたキックオフセッションは1日ぐらいかけてやっていくぐらいがちょうどいいですかね、節目にもなりますし。

おわりに

OKRはこれから様々なオプションが出てきて、それぞれのビジネスや組織に合ったやり方がどんどん出てくる興味深いテーマです。金田も試行錯誤を繰り返して、OKRの良さや副作用を伝えていきたいと思います。

1on1スクリプト -SmartHRの事例-

1on1をやっているスタートアップは多いですが、どんな風に1on1をやればいいのか、何を話せばいいのか、について知りたいという方も多いと思います。そこで、以前SmartHRさんで社員が30名ぐらいに増えてきてリーダーの1on1を仕組み化する際に一緒に作らせてもらった1on1スクリプトと、その背景について説明していきます。

SmartHRでは、当時評価制度を導入し、納得感ある制度運用を実現するため、そしてリーダーが増えたタイミングで1on1の品質にバラツキが出ないようにするために仕組み化しました。このフォーマットを土台に各リーダーがカスタマイズしています。

1on1スクリプト

当時、こんなスクリプトをつくりました。

現状把握・課題整理・対策立案

2週間に1回の1on1のため、前回の1on1からの振り返りと今困っていることの確認、その解決サポートを行います。大切なことはコーチングスタイルで、困っていることの解決策は本人に考えてもらうこと。傾聴や質問を通じて、そのサポートを行うのがリーダーの役割です。

上長へのフィードバック・自分へのフィードバック

1on1の中でやっている方は少ないかと思いますが、ここは肝です!特にメンバーからリーダーへフィードバックするセッションです。このセッションには2つの狙いがあります。分かりやすいのはリーダーの成長促進。率直なフィードバックを受ける機会が減ってくるリーダーにその機会をつくり、気づきを得ることを狙っています。もう一つの狙いは、メンバーがリーダーへフィードバックして、それをリーダーが必ず受け入れることで心理的安全を高める効果があります、結果としてメンバーがリーダーに対してどんなことも発言しやすい環境をつくる狙いがあります。「心理的安全の高い組織をつくる」でも書きましたが、心理的安全が大事なのは当然で大切なのは、それをどうやってつくるかということ。仕組みの中に心理的安全を高める取り組みを落とし込み、組織力の強化を図りました。

あとこれはテクニカルな話なのですが、フィードバックをしやすくするためにKPTのフレームワークを使っています。Keep・Problem・Tryの順番で整理する超シンプルなフレームワークで、SmartHRさんで昔から定着していました。これの良い点ですが、金田のまったくの主観では「フィードバックしてください」とお願いすると相手はなぜか「悪い所を指摘してください」と受け取る傾向が強いと感じており、上長に向かって悪い所を指摘しろと言われても、あとで仕返しされるのではとの恐れから「(フィードバックは)特にありません!大丈夫です!」といった無難な返事が返ってきます。無いはずはありません、言えないのです。そこでKPTを使うと、まずKeepとしてポジティブな点をフィードバックする順番なので、フィードバックしやすいのです。そしてKeepを挙げた後にProblemなので、こちらも言いやすくなります。最後に今後に向けたTryで締めることができるので、フィードバックセッションを前向きに終わることができるという効果があります。非常に細かい話なのですが、これこそ「神は細部に宿る」だな~と思っていたりします。

ミッションの進捗確認・欲しい結果への(現時点での)評価

これはOKRの評価です。OKRは抽象的なObjective(目標)もあるため、評価でサプライズが起きないように、なるべく1on1で擦り合わせを行って行きましょう、という考えです。

行動計画

次の1on1に向けた話で締めます。

おわりに

1on1はとにかく実践と継続です。今までやろうと思っていたけどできていなかった方のきっかけになってくれれば嬉しいです!

スタートアップがValueをつくった方がよい理由

スタートアップでValueを定めることが一般的になってきました。金田もValueは非常に大事だと思っています。ここで言うValueについて「価値観」、もう少し具体的で且つ”使える”表現として「判断・行動の基準」と定義しておきます。

Valueをつくった理由について、金田が見聞きしたものを一部挙げてみました。
・経営チームの言っていることが何となく組織に伝わりにくくなってきたと感じたから
・自分たち経営チームの意識や心構えを再確認するため
・自分たちが大事にすることを発信して自社にマッチした人材を効率的に採用するため
・他のスタートアップがつくっているから
・先輩起業家や株主に「つくった方がいいよ」と言われたから

一方で組織にValueがなく、必要性を感じているけどまだつくっていないケースやそもそも必要性を感じていないケースもありました。人それぞれって感じですね。

そこで自分なりにスタートアップがなぜValueをつくるべきなのか、について考えてみました。大きくは3つかな~。(なんでコンサルタントって、3つにしちゃうんだろう…、職業病としておきましょう。ちなみに全然MECEではないですからw)

1.組織の動きをスピーディにする

スタートアップでは創業メンバーこそ、友人関係であったり、過去に一緒に働いた経験があったり、とお互いの仕事の仕方やものの考え方を把握できています。ただ、それ以外でジョインしてくれるメンバーは、仕事の仕方やものの考え方をお互いに把握できていません。主に経験者(中途採用)で組織をつくるスタートアップは、多様な「仕事の仕方・ものの考え方」を持った人材で構成されます。問題になるのは「仕事の仕方・ものの考え方」が違うので、Vision・Missionで共通のゴールを描けていたとしても、そのプロセスでやり方や認識の違いが発生し、そのすり合わせに時間がかかってしまったり、自分の意見ややり方が通らないことでモチベーションを下げてしまったりすることです。結果、組織の動きが遅くなっていきます。具体的には、意見がまとめらない、その場合に上位者の判断を仰ぐ(上位者がいないと先に進まない)、といった状態が目立ってきます。

ここで Valueがあると役立ちます。「仕事の仕方・ものの考え方」で意見が別れたときや判断に迷った場合に、Valueに基づいて判断・行動できるようになるからです。経営者が言っているから、またはリーダーが言っているから、という軸で判断・行動するのではなく「Valueを軸に考えるとどうなるか?」、これが判断・行動の基準になります。この考え方が定着してくると、意見が割れた場面や迷った場面でも、ダメなら謝って済みそうな問題なら都度上位者に判断を仰ぐことをせず、組織全体で同じ判断・行動をすることが可能になります。Valueに基づいて判断・行動したけど、ロジックを間違えて上位者と異なる判断・行動になってしまった、なんていうこともあるかもしれません。ただし、何度も繰り返していけば段々とすり合ってきます。大事なことはValueがしっかりと浸透し、Valueを使って判断・行動しようとしていること、つまりValueを体現しようとしていることです。こうした積み重ねが、スタートアップにとって最も大切なスピードに繋がってきます。いち早く実行し、いち早く振り返り(成功・失敗から学び)、何としてでもやり切る、を繰り返すためのスピードに、ですね。

2.自信を持って行動できるようにする

初期のスタートアップは実績がありません。今からつくっていくフェーズですから。成功パターンが見えない中で超高速の試行錯誤を繰り返し、1つ1つ実績を積み上げていきます。その過程は、成功1に対して失敗10ぐらいあるかもしれません。起業家はこういうのを乗り越えられるからこそ、起業家なのかもしれませんが、そうでない人、つまり僕みたいな普通の人間は、へこんで嫌になって放り投げてしまいます。ここでValueの出番です。うまくいかないことが続き、先が見えない中でも「Valueを徹底して体現し続ければ必ず成功につながる」という組織のメッセージ(信念)が伝わっていれば、うまくいかないことにはもちろん挫けるかもしれないけど、今やっていることは間違っていないと前を向いてやり抜こうとします。

Valueって要は「信念」なんですよね、「こうすればこうなる!」っていうエビデンスはないかもしれない信念。だからこそ、Valueをつくる場合は、必ずビジネスモデルから考えることが大事。自社のビジネスを成功させるための人・組織の差別化要因が何か、これがValueに落とし込まれる内容です。ビジネスモデルが変わればValueも変わると思っています。そういう意味では、事業を立ち上げた創業者が一番コミットし、深く考えていると思うので、創業者が中心となって言語化することがベターですよね。もちろん、周囲のメンバーとのディスカッションを交えてやっていったりするんだろうけど。

あとValueをつくるプロセスとして、1泊2日でオフサイトの合宿したり、社員全員集めてワークショップしたり、とか聞いたりすることもあります。個人的には、創業者を含む経営チームが4時間ぐらいでつくってしまうのがちょうどいいかな~なんて考えています。スピード重視です。90分ぐらいで発散しながらホワイトボードに要素を書きまくって、30分ほど休憩しながらダラダラとホワイトボード見ながら喰っちゃべって、120分でPC使いながら一気にワーディングを整える、ようなイメージです。金曜日の午後とかにやるのがいいですかね、気分的に。Valueとざっくりとした定義ぐらいだったら、これぐらいの時間・やり方でできると思うので(自分たちのビジネスの成功イメージを仮説でもっていることが前提)、初期のスタートアップでも忙しい時間を割いて集中してやってみてほしいです。

3.自社にマッチした人材を採用できるようにする

最後に、やっぱり採用にも効果ありそうです。実際に色々なケースを見聞きしているのですが、中でも分かりやすい事例としてSmartHRの例をご紹介します。社員数が20名弱のころ、エンジニアに入社理由を聞きました。事業やメンバーの魅力はもちろんあったと思うのですが、ある方からこんな話を聞きました。

「Valueに強く共感した。エンジニアとして、このValueは本当に大事だと思っているし、前職ではそこまで重視されていなかったようにも感じる。このValueで仕事ができる環境は自分にとって魅力的。」と。そのValueは、SmartHRの6つのValueのうちの1つで、

一語一句に手間ひまかける

細部まで徹底的にこだわろう。言葉だけにとどまらない。UI もコードも、公開している限りそれはユーザーへのメッセージだ。もっと言葉を磨こう。1 ピクセルにこだわろう。コードの一行一行に魂を込めよう。

という内容でした。これが本人にグッときたんでしょうね。

この話のスゴイところって、もちろんValueが人材採用に役立つということではあるんですが、それにプラスして「入社前にメンバーにValueが浸透し始めている」ってことなんですよね。「うちの会社はこういうことを大事にしています」と採用面接や入社オリエン、さらには入社後のOJTの中で説明して浸透させていく前に、本人が自発的にValueを理解して体現しようとしている。こういう人材が揃った組織って強いですよね。強くないわけがない。

おわりに

金田はValueの力を信じていますし、実際にその強さも体験してきました。Valueが浸透している会社とそうでない会社も実際に見てきました。こういう目に見えない力が、組織を動かす大きな要因になっていると考えると本当に面白いな~なんて思ったりしています。