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評価制度を導入する目的

スタートアップで10名前後のタイミングで評価制度を設計する機会が増えている。そもそも評価制度って何のためにあるの?という疑問を受けることも多いので、評価制度についてざっくりとした目的について考えをまとめてみる。

評価制度を導入する4つの目的

評価制度の目的は給与を決めるため、つまり査定のためだけに実施するわけではない。査定が目的でない、と言っているわけではなく、査定はあくまでも目的の1つであるという意味であり、その他に大事な目的があると考えている。大きくまとめると主な目的は4つだ。

①方向づけ
1つ目は方向づけ。目標・基準を設定し、それを振り返る仕組みとして評価制度を設計・運用するということ。この目的が最も大切で、やろうと決めたことの「やりっぱなし」を防ぐ。また目標設定の仕組みも会社単位では行われているけど、個人単位までは行われていない場合、評価制度を導入することで個人単位の目標設定までカバーできるようになる。事業を進める上で最重要の目標設定と振り返りが評価制度によってより整備されていく。

②動機づけ
2つ目は動機づけ。一定の評価期間で、良かったかどうかの白黒またはグレーとその改善点をフィードバックすることで動機づけしていく。もちろんその期間で思うように成果を残せなくても、改善点と今後の期待を伝えることで、将来に向けてやる気を出すことも可能だ。ここに評価者の評価スキル(一種のマネジメントスキル)の差が出たりはするが。

③育成
3つ目は育成。会社が定めた評価基準に照らしてフィードバックされることで、本人が気づいていなかったことに気づく機会がうまれ、成長支援が行われる。スタートアップは中途採用がメインなので自社の仕事の仕方やモノの考え方をしっかりと共有することは事業の成長スピードに大きく関わってくる。また最近のスタートアップでは、自社ならではのValueを評価基準に活用し、評価制度をValueの浸透に役立てているケースもある。

④査定
そして最後に査定。評価が制度として整っていないと「自分は正しく評価されていないのでは?」といった不安が出てきて、社員が自ら経営トップに給与交渉を目的として話し合いを求めるケースがある。その話を聞くだけでもお互い時間が取られるし、精神的にも疲れてしまう。こうした状況に対して評価制度(と給与制度)で合理的に給与を決められるようにする。査定というより、正しく定義すると「仕事に集中できる環境を整備すること」なのかもしれない。

この4つの強弱については組織のフェーズやニーズによって違いはあるかもしれないが、4つのバランスを意識しながら設計することが求められる。

何を評価するか?

評価制度の目的を整理した上で、次に「何を評価するか?」についても少し考えてみたい。まず思い浮かぶのは成果(数字、アウトプットとか)の部分。成果を評価することは当然であり、期初に決めた目標を参考にして、期末に成果を評価する。もちろん会社への貢献度が成果に反映される前提であり、貢献度が高い社員ほど高評価となる。分かりやすいロジックである。ただし、これだけでは足りない。端的に言うと”再現性”が考慮されていないことが問題になる。

再現性とは、次の評価期間でも高い成果を残せるかどうか、ということ。要するに、安定的に高い成果を残せるかどうか、を評価するのだ。そのために成果までのプロセスを評価する。ここは給与制度も深く関係してくるので別の機会に詳しく書いてみたい。ともかく、この再現性を考慮すると、結果として評価制度は「成果」と「プロセス」の2軸で構成されることが合理的だったりする。

その他にも考えることが意外とある

目的と構成について書いたが、これは制度設計の根幹であり、一部に過ぎない。他にも、例えば「評価者」「評価期間」「最終評価の決定ロジック」「評価調整の方法」「運用スケジュール」「評価に関する情報公開」「1on1との連動」「給与への反映」などがある。最後は決めの問題であり、エイヤーで決めて運用・改善していくこともあるが、全社員に影響を及ぼす施策であり、最終的に個々人の給与にも反映されたりすると、ロジックでは理解できても感情では理解し難い、もしくは反発したくなる状況に陥ったりする。時間が限られている中でも、「神は細部に宿る」を肝に銘じて、細部を詳細に詰めていくことが設計フェーズのポイントだ。

あくまでも評価制度は事業成長を促すためのツールなので、個人的には働いている社員が事業に集中できるような合理的な制度をつくることが大事だと思っている。

人事パーソンに求められる思考スキル

スタートアップにおける人事関連の制度設計(例えば評価制度とか)は、全社員に強く影響を及ぼすため、慎重な検討が求められる。また、こうした人事周りのノウハウや知見は、あまりシェアされないので、まず何から着手すべきか、どういう手順で進めるべきか、何がポイントか、が把握しにくい。「まずはやってみる」の姿勢で制度設計にチャレンジしてみる。ここまでは問題ないと思う。

「自分基準」で考えてしまうということ

問題となるのは、大抵この後だ。自社の事業や戦略、組織、カルチャーを踏まえて、他社の話と社員の声を聞きながら、実際に企画検討していく。このとき、判断の基準がどうしても「自分基準」になりがちだ。例えば、こんな意見が出てくる。

・『自分は会社の評価とか気にしたことない。評価はされていたけど、それに対して不満もなかったし、そもそもそんなに興味もなかった。時間をかけてまで評価制度とかって必要?この時間を仕事に当てた方がいいんじゃない』

・『自分は3年目で年収は~万ぐらいだった。その水準を考えるとうちの会社はそんなに悪い水準じゃないと思う』

・『1on1って本当に必要?自分は前職で1on1なんて無かったけど、必死にやって成果を出した。上司の時間を取る1on1ってやるべきか?』(本音は「自分は上司として、1on1の時間は取られたくない)

こうした意見を否定するつもりはない。ただし、これだけで議論を進めると危険だ。要するに、あなたの意見はそうだとして、制度を適用される社員の気持ちはどうか、が大事ということ。10人の会社であれば、あなたを除く9人がどう思うか、に思いを巡らせる必要がある。しかも、これでもか、というぐらいに。

視点取得というスキル

自分の経験に基づく考えや意見が役に立たないという話ではない。つまり「自分がどう思うか」ではなく「相手がどう思うか」を考えなければいけない。どんなことに共通していることかもしれないが、人事周りは自分の経験以外の情報が得に少ないからだろうか、こうして視野を狭めず、相手の立場になって考えることが意外と難しい。

僕も人事コンサルの初期は「自分基準」で考えていたことをよく覚えている。退職金って必要なの?自分で貯めて運用すればいいじゃん。なんでこんなに福利厚生があるの、給与で還元すればいいじゃん。ってな感じで、なんでこうなってるの、に対して一歩引いて相手の立場になって考えることができていなかった。より正確に言うと「相手になりきって考える」ことができていなかった。心理学では、これを「視点取得」と呼ぶらしい。専門用語はさておき、相手がどう思うか、で考えることが人事パーソンには求められる。

「自分が嫌だと思うことは相手にやらない」ではない

僕は「自分が嫌だと思うことは相手にやらない」と学んできたと記憶している。なので「あなた(自分のこと)ではなくって「相手がどう思うか」をもっと考えなきゃ」とフィードバックされたときは意表を突かれたことを今でも覚えている。なんか今まで気にしてきたことと違うぞ、というモヤモヤを感じた。

ただ言ってしまえば「相手がどう思うか」なんて正直分からないことが多い。というか、ほとんどのケースで分からない。だからこそ、相手に直接ヒアリングして多様な意見や背景となる価値観を知っておくことが大切になる。また運用の中で必ず振り返りを行い、自分の仮説がどれだけズレていたかを知ることも貴重な経験となる。自分が経験したことを、ちゃんと言語化(メモ)して忘れないようにすることを積み重ねていくと徐々にできてくるように思う。

人事を”うまくやる”には「自分が嫌だと思うことは相手にやらない」ではない。「相手は嫌だと思うことは相手にやらない」のだ。当たり前すぎて笑えてくるけど、意外と難しい。

マネージャー任用は難しい

スタートアップに限らず、マネージャー任用(役職/ポストに人材を配置すること)に悩みが多いと思います。自分も、こうした悩みに対峙していた際に、ドラッカーの名言(迷言?)に出会いました。

昇進人事の成功は本当に少ない

昇進人事をマネージャー任用と自分で読みかえましたが、ここまで明確に言い切っている部分がドラッカーらしいです。ドラッカーの話もう少し丁寧に引用すると

私は新しい仕事を始めるたびに、「新しい仕事で成果をあげるには何をしなければならないか」を自問している。もちろん答えは、そのたびに違ったものになっている。

コンサルタントの仕事を始めてから50年以上経つ。いろいろな国のいろいろな組織のために働いてきた。そして、あらゆる組織において、人材の最大の浪費は昇進人事の失敗であることを目にしてきた。昇進し、新しい仕事をまかされた有能な人たちのうち、本当に成功する人はあまりいない。無残な失敗例も多い。もちろんいちばん多いのは、期待したほどではなかったという例である。その場合、昇進した人たちは、ただの凡人になっている。昇進人事の成功は本当に少ない。

と。そして、その原因と対策として

新しい任務に就いても、前の任務で成功していたこと、昇進をもたらしえてくれたことをやり続ける。

新しい任務で成功するうえで必要なことは、卓越した知識や卓越した才能ではない。それは、新しい任務が要求するもの、新しい挑戦、仕事、課題において重要なことに集中することである。

と。痺れます。

どちらかというと、マネージャーに任用した人材が実績を残すことを前提とした発言ですが、スタートアップでは実績を残せなかった場合、さらには実績を残せなかったことがないような施策も大事だと思っています。挑戦することは大事ですが「昇進人事の成功は本当に少ない」のです。

マネージャー任用の仕組みづくり

では、スタートアップのマネージャー任用について考えてみたいと思います。まず前提として、組織は「人材」ではなく「戦略」から設計されるので、戦略が変われず、組織も変わり、そこに必要とされる人材も変わります。スタートアップのように成長に合わせて柔軟に「戦略」も「組織」も変わっていく状態では、硬直化することは避けるに越したことはないと考えます。この前提を踏まえた上で、マネージャー任用についていくつかのポイントを考えてみました。

  1. 役職と給与は分離させる

    役職を外れたとしても給与が下がる仕組みにしておかない方が良いです。役職手当を固定額でつくるのは、まずやめた方が良さそうです。「給与が外れるから役職を外せない」「役職を外すと給与も下がるので退職リスクが高まる」といった事態が起きたりします。役職はあくまでも戦略から導かれた”その時の”組織に必要とされる役割であり、変わることを前提としておいた方が良いという考え方です。

  2. 任期制とする

    役職は「任期付き」というルールを作っておくだけでも、柔軟な配置に役立ちます。もちろん再任は有りとなりますが、期間を定めて柔軟にマネージャーを入れ替えていくことを会社のメッセージとして伝えることができます。3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月が任期の目安ですかね、ポストに応じて任期を変えることもOKです。例えば部長は12ヶ月、課長は6ヶ月の任期としてポジションを変える可能性がある、と制度として伝えておくイメージです。

  3. マネージャーへの教育や研修を実施する

    これ意外とやってない会社が多いと思います。教育や研修をやらなくてもマネジメントはできる(できてしまう)ので、「まずは実践を通じて学ぼう」的なスタンスでやっているとか。新しいマネージャーへのオンボーディングもなかったり。個人的には、マネジメントは1つの専門性だと思っています。スキルやテクニカルな部分もあるし、心構えも学ぶ点がたくさんあります。コーチングとかは1on1には必須のスキルですよね。まずはセオリーを学び、実践を通じて自分たちなりのマネジメントを確立していくことも大切だと思います。

  4. マネジメントポリシーをつくる(言語化する)

    セオリーを学び、実践を通じて自分たちのマネジメントが見えてきたら、それを言語化して全社で共有することも効果的です。スタートアップでは様々なバックグラウンドのメンバーで構成されるので、どうしても前職の価値観に引っ張られがちで、そこから不毛な議論も出たりします。自分たちの組織では、どんなマネジメントを目指しているのか、を知ることが組織の一体感や自律性を高めたりします。Valueと似てますね。

  5. マネージャー任用の結果を定期的に振り返る

    チームごとに組織の状態を見える化できる外部ツールを使ったり、人事が全社員と1on1を実施して声を吸い上げたり、マネージャーが機能しているかどうかを定量的・定性的に振り返る方法もあります。大事なことは振り返った結果、どう関係者にフィードバックしていくか、どう改善していくか、につながていくことです。必要であれば、改善策を人事が一緒に考えたり、マネージャー全員で改善策を実践したりします。振り返りが”やりっぱなし”に陥らないように注意します。

  6. 1on1の仕組み化

    スタートアップのマネジメントは1on1がベースになっていることが多いです。多様な人材がスピーディな環境の中で会社と共に成長していくには1on1が便利なツールであることは間違いないと思っています。その1on1もいろいろなやり方がある中で、効果にバラツキが生じやすい施策です。マネージャーとしての役目を果たすために必要な中身(時間・頻度・スクリプト・ツール等)を会社が決めて、まずはそれを実践することをお奨めします。

自分はこういった点に気を使って、マネージャー任用の仕組みを作ったり、実際に運用したりしています。

おわりに

クライアントからマネージャー任用について相談された際に気にしていることは「そのマネージャー任用に不安がありますか」という点です。というのも、成功したと言いにくいマネージャー任用って、ほとんど事前にわかっていたりするケースが多いと個人的に感じているからです。例えば「この人をマネージャーにしようと思っているけど、どう思います?」と聞かれた場合、「会社としては検討を重ね、おそらく大丈夫だと思っているけど、外部の人から見てどうだろうと思って」といった場合は問題ないケースがほとんどだし、逆に「マネージャーにすると~の点で問題起きるかもしれないという不安があるけど、どうですか?」と聞かれる場合は「その通り、不安ですね」といった流れになることが多いです。そして後者の場合で、組織のもろもろの都合からそのままマネージャーに任用されると、多くのケースで解決しがたい問題が起きているように思います。(自分がそれを止められていないという恥ずべき問題は承知している前提で)「不安があるマネージャー任用」や「チャレンジのマネージャー任用」はやめた方が良いというのが私の経験論です。マイナス要素の直感ってほぼ当たってるような気がします。こうしたケースではポストは空席にして、兼務で一時的にしのぐ&マネージャー採用に全力を注ぐことが1つの対策だと考えています。