人事パーソンに求められる思考スキル

スタートアップにおける人事関連の制度設計(例えば評価制度とか)は、全社員に強く影響を及ぼすため、慎重な検討が求められる。また、こうした人事周りのノウハウや知見は、あまりシェアされないので、まず何から着手すべきか、どういう手順で進めるべきか、何がポイントか、が把握しにくい。「まずはやってみる」の姿勢で制度設計にチャレンジしてみる。ここまでは問題ないと思う。

「自分基準」で考えてしまうということ

問題となるのは、大抵この後だ。自社の事業や戦略、組織、カルチャーを踏まえて、他社の話と社員の声を聞きながら、実際に企画検討していく。このとき、判断の基準がどうしても「自分基準」になりがちだ。例えば、こんな意見が出てくる。

・『自分は会社の評価とか気にしたことない。評価はされていたけど、それに対して不満もなかったし、そもそもそんなに興味もなかった。時間をかけてまで評価制度とかって必要?この時間を仕事に当てた方がいいんじゃない』

・『自分は3年目で年収は~万ぐらいだった。その水準を考えるとうちの会社はそんなに悪い水準じゃないと思う』

・『1on1って本当に必要?自分は前職で1on1なんて無かったけど、必死にやって成果を出した。上司の時間を取る1on1ってやるべきか?』(本音は「自分は上司として、1on1の時間は取られたくない)

こうした意見を否定するつもりはない。ただし、これだけで議論を進めると危険だ。要するに、あなたの意見はそうだとして、制度を適用される社員の気持ちはどうか、が大事ということ。10人の会社であれば、あなたを除く9人がどう思うか、に思いを巡らせる必要がある。しかも、これでもか、というぐらいに。

視点取得というスキル

自分の経験に基づく考えや意見が役に立たないという話ではない。つまり「自分がどう思うか」ではなく「相手がどう思うか」を考えなければいけない。どんなことに共通していることかもしれないが、人事周りは自分の経験以外の情報が得に少ないからだろうか、こうして視野を狭めず、相手の立場になって考えることが意外と難しい。

僕も人事コンサルの初期は「自分基準」で考えていたことをよく覚えている。退職金って必要なの?自分で貯めて運用すればいいじゃん。なんでこんなに福利厚生があるの、給与で還元すればいいじゃん。ってな感じで、なんでこうなってるの、に対して一歩引いて相手の立場になって考えることができていなかった。より正確に言うと「相手になりきって考える」ことができていなかった。心理学では、これを「視点取得」と呼ぶらしい。専門用語はさておき、相手がどう思うか、で考えることが人事パーソンには求められる。

「自分が嫌だと思うことは相手にやらない」ではない

僕は「自分が嫌だと思うことは相手にやらない」と学んできたと記憶している。なので「あなた(自分のこと)ではなくって「相手がどう思うか」をもっと考えなきゃ」とフィードバックされたときは意表を突かれたことを今でも覚えている。なんか今まで気にしてきたことと違うぞ、というモヤモヤを感じた。

ただ言ってしまえば「相手がどう思うか」なんて正直分からないことが多い。というか、ほとんどのケースで分からない。だからこそ、相手に直接ヒアリングして多様な意見や背景となる価値観を知っておくことが大切になる。また運用の中で必ず振り返りを行い、自分の仮説がどれだけズレていたかを知ることも貴重な経験となる。自分が経験したことを、ちゃんと言語化(メモ)して忘れないようにすることを積み重ねていくと徐々にできてくるように思う。

人事を”うまくやる”には「自分が嫌だと思うことは相手にやらない」ではない。「相手は嫌だと思うことは相手にやらない」のだ。当たり前すぎて笑えてくるけど、意外と難しい。